日本で言語の研究に取り組むアンちゃんことアン・クレシーニさんの連載。最終回で取り上げるのは「ノートパソコン」や「ビジネスホテル」といった和製英語。最後まで面白さが止まりません!
目次
UとJとIの違い
私は福岡の地元で、グローバル人材協議員をやっています。その先日の会議で「Uターン」「Jターン」「Iターン」という表現を耳にしました。
Uターンは聞いたことがありましたが、残りの2つは知りませんでした。でも、きっとUターンと同じで、日本人が作ったバリ魅力あふれる和製英語っぽいものだろうと思いました。
そして、実際その通りでした。皆さんもご存じだと思いますが、「Uターン」は、地方から都市に移住し、再び故郷に戻ることを示す表現です。(参考: https://www.creativevillage.ne.jp/21854 )英語には、それを表す表現がないので、文で説明するしかありません。
I left my hometown and went to school (work) in the city, but eventually returned to live and work in my hometown.
故郷を出て都市部で学校に通い(仕事をし)ましたが、また故郷に戻って生活し、働いています。
このような感じです。長い!
それでは「Jターン」は?日本語で説明すると、「生まれ育った故郷を出て、都会に移住して学校に通ったり仕事をしたりした後、故郷に近い都市に移住する」という意味です。日本語でも長い!
英語では次のように説明できます。
I left my hometown, went away for college, and then came back to live in a city near where I was brought up.
故郷を出て離れた場所の大学に通った後、故郷の近くの街まで戻って生活しています。
最後の「Iターン」の意味は、「都市部から出身地とは違う地方に移住すること」です。英語は次のようになります。
I left my hometown in the city and went to work in a more rural area.
生まれ育った都市部の故郷を出て、より田舎の地域で働いた。
この説明を聞いたとき、日本人の想像力はマジで半端ない!とあらためて思いました。初めて聞いたときは、何のことか全く想像できませんでしたが、人に説明してもらって「ああ、なるほど!」となりました。
さて、前置きはこれくらいにして、今回(最終回!)は、テクノロジーやビジネス関連の和製英語を取り上げます。
では、始めましょう!
「パソコン」が「パンク」した!
まずは「パソコン」から。ご存じの方が多いと思いますが、これは「パーソナルコンピューター」の略です。英語の場合、personal computer をPCと略します。computerだけでも通じます。
机の上に置くパソコンは、日本語と一緒でdesktop computerです。でも、「ノートパソコン」は和製英語です。英語ではlaptopまたはlaptop computerと言います。lapは「ひざの上」という意味です。だから、ひざの上に置くパソコンはlaptop computerとなります。
Laptop computers are more expensive than desktops.
ノートパソコンはデスクトップパソコンより値段が高い。
My PC broke, so I have to buy a new one.
My desktop died, so I need to buy a new one.
My computer died, so I need to buy a new one.
パソコンが壊れたから、新しいのを買わないといけない。
break(broke)、die(died)など、「壊れる」にはいろいろな言い方があります。crashを使うときもあります。
My computer crashed so I lost all my data.
パソコンがクラッシュしてデータが全部なくなった。
When that celebrity announced that she got married on her website, it crashed.
あの芸能人が自身のウェブサイトで結婚したことを報告したとき、ウェブサイトがパンクした。
2つ目の文は次のように言うこともできます。
The announcement of her marriage crashed her website.
彼女の結婚報告のせいで、彼女のウェブサイトはダウンした。
ところで車のタイヤの「パンク」のことを英語で言うときに、crashは使いません。have a flat tireと言いましょう。
I had a flat tire, so I was late for work.
タイヤがパンクして仕事に遅れた。
日本人は英語の省略が得意!
日本語では、英単語を略す現象をよく見ます。英語の意味でそのまま使われているカタカナ語は多いですが、それを略すと和製英語になります。
例えば「アイスクリーム」は、英語のice creamです。でも、「アイス」と言うと英語では「氷」になります。また、「サンドイッチ」はsandwichから来ていますが、「サンド」は英語で「砂」です。
テクノロジー関連でも省略されたカタカナ語は多いですね。「スマートフォン」はsmartphoneですが、「スマホ」は英語圏では通じません。パソコンの「ソフト」は英語ではsoftwareと言う必要があります。「ソフト」のままでは「柔らかい」になってしまいます。
My computer’s software is outdated, so I need to update it.
パソコンのソフトが古いので、アップデートしないといけない。
スマホの「アプリ」も同じです。英語のapplicationから来ていますが、「アプリ」に略すと英語では通じません。英語の略はappです。
There are a lot of free apps, so you don’t need to buy one.
無料のアプリがたくさんあるから、買わなくていいよ。
English smartphone apps are really great study tools!
英語のスマホアプリは、とても便利な勉強ツールだよ!
さて、「スマホ」も「ノートパソコン」も充電しないと使えません。そのためには、もう一つの立派な和製英語「コンセント」が必要です。これを英語で言いたいときは、outlet、plug、socketなどを使います。
I want to charge my computer, but I can’t find an outlet.
パソコンを充電したいけれど、コンセントが見つからない。
My kid stuck her finger in the socket. It was so dangerous!
子どもがコンセントに指を入れた。危なかった!
「コンセントを入れる」「コンセントを抜く」は、英語でplug、unplugという動詞を使います。
You should unplug all your electric appliances before you leave for your trip.
旅行に出かける前に、電化製品のコンセントはすべて抜いたほうがいい。
It’s not broken! It isn’t plugged in!
壊れていないよ!コンセントが入ってない!
ちなみに、英語にもconsentという単語はありますが、意味は「承諾」です。訳がわかりませんよね・・・。日本語で「コンセント」という言葉を使うようになった理由は諸説ありますが、その一つは、concentric plug(同心円プラグ)から来たというものです。
この記事をバズらせたい!
次はSNSの話をします。この連載で何度も書いていますが、「SNS」は和製英語です。Social Networking Servicesの略ですが、どこかの頭のいい日本人が考え出した言葉に違いありません。英語ではsocial mediaと言います。
でも、最近、このsocial mediaがそのままカタカナで使われるようになってきています。ただ、今はまだテクノロジーに詳しい人が使っている感じで、一般の人にはそれほど浸透していない気がします。
Please share this article on social media.
この記事をソーシャルメディアでシェアしてください。
ソーシャルメディアで投稿が急激に拡散されると、「この投稿がバズった」と言いますよね?この「バズる」は英語でgo viralと言います。viralはvirus(ウイルス)の形容詞。つまり、何かが「ウイルスのように急激に拡散する」という意味です。ちなみに「バズる」の「バズ」は英語のbuzz(「ブンブン音を立てる」とか「飛び交う」という意味)から来た言葉だそうです。
The video she uploaded went viral, so she got a lot of requests from the media.
彼女がアップした動画がバズって、メディアからいろいろな依頼が来た。
I want the article to go viral, so I want a lot of people to share it.
あの記事をバズらせたいから、多くの人にシェアしてもらいたい。
「モーニング」が朝食になる不思議
この連載の最後は「ビジネスホテル」について話そうと思います。
英語圏には、日本の「ビジネスホテル」のような所はあまり存在しません。アメリカには安いホテルがたくさんあって、それをbudget hotel(格安ホテル)と呼んでいます。ただ、質はビジネスホテルほど良くなく、サラリーマン向けでもありません。だから、日本の「ビジネスホテル」の場合は、シンプルにhotelと呼ぶのがいいと思います。
I stayed in a hotel near the station.
駅の近くのビジネスホテルに泊まった。
Japanese business hotels are generally for businessmen.
日本のビジネスホテルは一般的にサラリーマン向けです。
ところで、もしそのホテルに朝食の「モーニング」が付いている場合、英語では何と説明したらいいでしょう?
まず、英語のmorningには「朝」という意味しかありません。だから、There is morning at that hotel.と言ったら、「あのホテルには朝がある」のような訳の分からない英語になってしまいます。
それでは「モーニングサービス」なら、そのままmorning serviceと言っていいのでしょうか。いいえ、それだと「(教会の)朝の礼拝」という意味になってしまいます。
同じ言葉を使って表現しているのに別の意味になる・・・言葉って面白いですね。
ホテルの宿泊に含まれる「モーニング」を、英語ではcomplimentary breakfastと言います。complimentaryには「無料の」という意味があります。もちろん、breakfastだけでも通じます。
That hotel’s breakfast is awesome!
あのホテルのモーニングはバリおいしい。
There is a complimentary breakfast from 8:00 to 10:00.
朝食が部屋代に含まれており、時間は8時から10時までです。
ここで雑学クイズです!皆さんはbreakfastの語源を知っていますか?答えは・・・
- break = 破る、辞める
- fast = 断食、絶食
寝ている間は食事をしていないので、起きてすぐ食べることは「断食を破る」ことになるのです。「朝ご飯」という意味よりずっと面白いですよね!
まとめ
テクノロジーやビジネスのジャンルは、カタカナ語や和製英語があふれています。英語でそのまま使えるか不安なときは、まず辞書などで調べた方がいいと思います。
でも、和製英語は立派なコミュニケーションのツールです。日本人同士であれば、どんどん使いましょう。英語と和製英語をしっかり区別できるようになったら、どちらの魅力のも楽しめるようになるので、勉強はしっかりがんばりましょう!
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