さまざまな分野で活躍する方々に、そんな学びの体験を伺います。今回ご登場いただくのは、昨年12月に初の歌集『まだまだです』(KADOKAWA)を出版した、タレントのカン・ハンナさんです。角川短歌賞への挑戦、歌集の出版、そしてこれからの活動についてお話いただきます。
目次
カン・ハンナ
2011年に来日。横浜国立大学大学院都市イノベーション学府博士後期課程に在学中。2016年から3年連続で角川短歌賞に入選。Eテレ『NHK 短歌』にレギュラー出演中。
インタビュー前編 はこちら
羽田発高速バスでレインボーブリッジの上「ただいま」を言う
つい最近も韓国に行ってきて、帰りにこの歌と同じレインボーブリッジからの風景を見ました。この歌を書いた頃は、韓国では母が入院していて、激しく波打つ海に行ったような気持ちになっていました。感情の起伏が激しくて、悲しかったり不安になったり、よくわからない複雑な気持ちを抱いていました。歌の風景はそんなまとまりのない感情を持って見たものです。
日本に戻った空港からの帰り道、レインボーブリッジの上から見た東京は、ものすごく静かに輝いていました。その美しさを目にすると、荒海だった心が風のない湖のように静かになり、「ただいま」という言葉が自然と出てきました。東京は私が私らしくいられる場所なのだと思い出させてくれる風景で、何度見ても勇気をもらえます。
日本の人に認められ、応援されるような人になりたい
角川短歌賞では50首を一つの作品として応募します。誰がどの作品を書いたという情報を、 審査員は知りません。横並びの状態で、私、カン・ハンナという人間がどこまで見えるかという勝負です。だから、受賞を知ったときは鳥肌が立ちました。私なんて・・・と思っていたところでしたが、自信を持てるようになりました。頑張れば花は必ず開くと。
初来日するときの飛行機の中で考えていたのは、「日本に長く住むのなら、日本の人に認められる人になりたい」ということでした。日本の社会で、日本の人に認められ、応援されるような人になることが大きな夢でした。それを実現するのが、日本の文化のど真ん中ともいえる短歌の世界だとは思ってもいませんでしたが、日本人しかいない世界で勝負したいという強い思いが私の支えとなり、今、こうしていられると思っています。
自分の気持ちのすべてが入った作品集
私にとって、短歌を書いている時間は「自分自身を見つめなおす時間」です。過去の出来事であれ、たった今の出来事であれ、客観的に自分を見るようにしています。そうすることで自分がどういう人間なのかが見えてきます。
短歌は日本で私が私らしく生きていくための手段の一つなんだと思っています。私が日本人の言葉を、ただ、まねしても意味がありません。私の目と心を通して情景を描くことが大切です。そんな他とは少し違う私だけの感覚を表現することで、日本の伝統である短歌の世界に新しい風が吹いてくれるといいと思っています。もちろん、まだまだ悩みつつ、試行錯誤しているところですけれど。
昨年12月に『歌集 まだまだです』(角川書店)を発売しました。この歌集の前半は、角川短歌賞の3回の入選作から選んだ歌で構成しています。日本に来てわからないことだらけで、気持ちにもいろいろな迷いがあった頃の作品です。
後半は、その後の1年間で書いた作品です。日本での生活にだいぶ慣れてきてはいるものの、さらなる悩みが出てきて、それでも日本で生きていきたいという気持ちが出てきた頃に書いたものです。
本を作るのは本当に大変な作業でした。いいものにしたいという気持ちは強かったです。でも、自分だけで構成を考えていると、どうすべきかわからなくなり、感覚が麻痺することもありました。本当に最後の最後まで悩みました。ただ、自分の気持ちのすべてが入っている作品集なので、読んでくださる方にしっかりと思いを伝えたい――それだけは忘れずにいました。
5年後、10年後、私の目の前に広がる世界が楽しみです
今後の活動に関して、私自身は特にゴールを設定していません。日本に来た頃に思い描いていた未来の姿と、今の私はまったく違います。だから、柔軟性のある人になりたいですね。何か新しい課題が出てきたら、それに一生懸命取り組む。そして、しっかり結果を出す。日本の方々と共に歩き、皆さんに支えていただきながら、さまざまな世界を作る人生を歩んでいきたいです。5年後、10年後に目の前にどんな風景が広がっているか、私自身、今から楽しみにしています。
20代のとき、私は世界40カ国を旅しました。英語の勉強への刺激が欲しくて海外に出ていた感じです。海外に出ると英語へのモチベーションが上がって、さらに英語を話したくなる。日本に来たのもその頃です。私の単なる思い込みだとは思いますが、日本にいると一番自分らしい生き方ができるかもしれないと感じました。相性がいいと思ったんです。
このインタビュー記事を読んでくださっている方に一つアドバイスできるとしたら、迷っている時間はもったいない、ということです。私は自分の直感に従って生きてきたら、今のような世界が広がりました。もし何かに迷っているなら、悩むのはやめてすぐ決断しましょう、と伝えたいです。
私らしく生きていくための短歌
詠むことで見つめなおす日本での暮らし。
運命のように出会った短歌が私を変えた。
私よりも私らしい本当の私が見えてくる。
――『歌集 まだまだです』帯より
韓国から日本にやってきて8年。日本人は持ち得ない、ハンナさん自身の視点で詠う、心温まる31文字の短歌の世界。
取材・写真・構成:山本高裕(GOTCHA!編集部)【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
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