『30歳高卒タクシードライバーがゼロから英語をマスターした方法』の著者で、多数のメディアで取り上げられてきた、名物タクシー乗務員の中山哲成さん。乗務中にお客さまにどのような英会話でおもてなしをしているのか、接客フレーズを教えていただきました。
目次
タクシー乗車時の接客フレーズ
お客さまが乗車する際には、英語ができる感じのいいドライバーであることをアピールしたいので、次の6つのまとまったフレーズを使って、おもてなしをしています。
こんにちは。どうぞご乗車ください。
Hello! Please hop in!
get inという言い方もありますが、hop inの方が親しみやすい印象になるようです。
私のタクシーをご利用いただき、ありがとうございます。
Thank you for taking my taxi.
この一言が聞けるタクシーは世界中でも珍しいようです。簡単で覚えやすく、日本のタクシーのホスピタリティーの高さをお客さまにアピールできるので、必ず言うようにしています。
どちらに行かれますか?
Where would you like to go?
「どちらまで?」と聞くときは、Where can I take you?や、海外だとWhere to?という短い言い回しが一般的のようですが、私はお客さまにハイヤーの送迎サービスのような印象を与える工夫をしています。Where would you like to go, sir/ma’am?のように言うと、高級ホテルのドアマンのような印象を与えることができます。
ご希望のルートはありますか?
Do you have any preference regarding the route we take?
お客さまに希望のコースを聞くことはまれのようです。Which way would you like to go?という言い方がありますが、コースを聞くだけではなく、あえてregarding(〜に関して)という単語をチョイスすることで、お客さまに私が英語上級者であると思わせることができます。お客さまは安心して英語で話しかけれるし、何よりこのフレーズは品が良くてカッコいいですよね。
シートベルトをお締めください。
Please fasten your seatbelt.
シートベルトは、ほとんどのお客さまが自発的に装着しますが、「お客さまを安全にお送りしたい」という気持ちを込めて伝えます。
いいドライブになりますよ。
It should be a nice drive.
発車直前の決めぜりふのようなフレーズです。道がそれほど混んでいないようでしたら、It should be a nice drive. There’s not much traffic on the roads today.「道もそれほど混んでいないし、いいドライブになりますよ」のように付け加えます。親しみやすい雰囲気を作ってお客さまとの距離をグッと近付けています。
タクシー乗車中の会話としての接客フレーズ
お仕事でいらしたのですか?それとも観光ですか?
Is your trip for business or pleasure?
会話を始めるきっかけ作りのフレーズです。日本のタクシー運転手は英語が全くできないだろうという前提で乗車するお客さまがほとんどですので、こちらから話しかけなければ、お客さまから会話を投げかけてくることはありません。そのため、「私は英語が話せますよ」と改めてアピールして、おもてなしの準備を整えます。
旅はこれまでどんな感じですか?
How has your trip been so far?
「今回の旅は今のところどんな感じですか?」と聞くようにしています。楽しい旅の思い出を共有していただいたり、困っていることあったりしたら助けてあげたいからです。
社内の室温は大丈夫ですか?
Is the temperature OK for you?
「車内の温度はいかがですか?」の一言は日本人のお客さまにも喜んでいただいています。英語のフレーズもシンプルですし、海外からのお客さまに「日本のタクシードライバーはなんて素晴らしいんだ!」と思っていただけるので、積極的に使っています。
タクシー降車時の心を込めた接客フレーズ
ドアを開けて差し上げます。
I’ll open/get the door for you.
「ドアを開けて差し上げます」と言って自動ドアを開けるだけでも十分なおもてなしですが、さっと運転席を降り、手動でドアを開けるサービスをしています。私自身がお客様の忘れ物の有無を目で確認できるメリットもあって、まさに一石二鳥です。空港へお送りするお客さまがパスポートや財布やスマートフォンの忘れ物をしてしまった場合、フライトが間に合わないなどの最悪のケースに発展してしまうこともあります。そういった意味でも、ドアサービスは非常に大切です。
お忘れ物はないですか。
Do you have everything?
「お忘れ物はないですか」と尋ねるときは、このフレーズが便利です。Don't forget your belongings.という定番のフレーズもありますが、簡単なワードチョイスでも、笑顔とソフトな言い方、そしてお客さまへの心遣いがあれば、中学1年生レベルの英語でも立派な接客フレーズになるのです。
素晴らしい1日となりますように。
I hope you’ll have a wonderful day.
お客さまとの別れ際、Have a nice day!よりワンランク上のあいさつでお客さまを送り出すようにしています。英語のあいさつは日本語以上にバリエーションや表情が豊富なので、使えるフレーズを増やしていくことに楽しみを見出しています。
お仕事がうまくいきますように。
Good luck with your business.
仕事で来日しているお客さまに使うフレーズです。このひと言で、お客さまの運気がひょっとしたら上がるかもしれません(笑)
タクシードライバー的、決めぜりふ
お客さまの日本語や日本についての知識を褒めたり、お客さまが気持ちよく受け止められる言葉を投げ掛けたりするようにしています。
あなたの日本語は素晴らしいです。
Your Japanese is amazing!
「ありがとうございます」や、「こんにちは」など、練習してきた日本語を試そうというお客さまは案外多いです。そのようなお客さまには、日本語を褒めてあげます。また、「こういうときは日本語ではなんて言うの?」という質問を受けることも多々あるので、丁寧に答えてあげるようにしています。
私より日本のことについて詳しいですね。
You seem to know more about Japan than I do!
これは割とお世辞抜きで思うことが多いですね。はるばる海を超えて日本に来るのですから、熱心に日本について勉強しているお客さまは多いです。そんなときに「私より日本について詳しいですね!」とタクシードライバーに驚かれたら、喜んでもらえるはずです。
良い1日を!
Have a good one!
宿泊先のホテルから夜の繁華街に繰り出すお客さまも多くいらっしゃいます。そのような場合に便利なフレーズはHave a good one!です。Have a nice day!だと、夜間に使うと違和感があるのですが、nice dayをgood oneに変えるだけで時間帯関係なく使える万能フレーズに変化します。
お客さまとの別れ際に、お客さまからHave a nice day!と先に言われてしまうことも多いです。そのときは、Thank you!の後に You, too!(あなたも)を入れるだけでお互いに気持ちのいいあいさつとなります。でも意外とこれをスムーズにパッと言えるようになるのって、難しいんですよ(笑)。
これからも、気持ちよく英語が話せるように、お気に入りのフレーズを増やしていくつもりです。
ここでお伝えしたフレーズは、前回の記事でご紹介した、英語の勉強が楽しくなるオリジナル英語台本にあるものです。オリジナル英語台本とは、例えば、「地下鉄で迷っている外国人に便利なアプリの使い方を教えてあげる」「地元で人気の写真スポットを教えてあげる」「飲食店でお勧めのメニューを伝える」など、いつか自分が英語を使いそうな場面を想像して作る台本です。
台本の作り方は前回の記事で紹介しています。ぜひ、みなさんも、英語を使う場面を想定して、台本やフレーズ集を作り、使うチャンスを見つけていただけるとうれしいです。
中山哲成さんの本
取材・構成:増尾美恵子 写真:山本高裕