『30歳高卒タクシードライバーがゼロから英語をマスターした方法』の著者で、多数のメディアで取り上げられている、名物タクシー乗務員の中山哲成さん。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けて、タクシーの仕事、英語学習、SNS、全てから退いていた3年間と、コロナと共存する時代で人生の転換期を迎えた現在の英語との関わり方についてお話を伺いました。
全てを変えてしまった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
私が2014年にタクシードライバーになった頃は、オリンピック・パラリンピックの東京開催が決まった数カ月後で、タクシー業界全体が「これからは英語だ!」と沸き立っていて、私自身も夢中で英語を勉強していました。
英語学習の成果が実り、2018年には第5回タクシー運転者 「英語おもてなしコンテスト」で優勝したり(そのときの様子は下のYouTubeの動画でご覧いただけます)、2019年9月には著書 『30歳高卒タクシードライバーがゼロから英語をマスターした方法』 を出版したりすることができました。「英語が話せるタクシードライバー」として物事が全て順調に進み、「接客英語」をテーマとしたテレビ出演や講演会も決まっていて、順風満帆だったはずでした。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)さえなかったら・・・。
2020年3月に最初の緊急事態宣言が発令されると、海外からのお客様はゼロ、英語を使うチャンスもゼロ、外出すらままならないため、タクシーを使う人の数は激減し、仕事は休業状態となってしまいました。完全歩合制なので、給料が入ってきません。
さらに、東京オリンピックは延期になり、ついには無観客開催になりました。タクシードライバーになったのは、東京オリンピックで英語を使うためだったのに!
コロナ禍での私の英語学習法
2022年2月、今度はロシアのウクライナ侵略が始まりました。私は iTalki というサイトで日本語を教えたり、英語を習ったりしているのですが、ウクライナの現地の人の声が聞きたくなって、現地に住むウクライナ人の先生を探してレッスンを受けることにしました。英語を勉強したいというよりは、ウクライナに住む方の話が聞きたくて、レッスンを取ったことをその先生に伝えました。
「私が住んでいるのは戦地から結構離れた所なので今のところは大丈夫」という返事。「家族や親せきは大丈夫?」と尋ねると、「私は大丈夫だが、知人の知人に亡くなった方もいる」という話を聞いて、それがとてもリアルに響いて、「自分は日本にいながら心を痛めている。みんなそういう気持ちだから」と励ますことができました。
ウクライナは物価が安く、彼らにとって1時間数百円のレッスンが大きな収入源になっているらしいのです。「平均月収が10万円以下で生活をしている。だからこうやってレッスンを受けてくれることが支援にもなるからありがたい」と言ってくれました。
こんなふうにインターネットでつながっている世界だからこそ、「日本にいるから英語は使わないよね」ではなくて、「英語は絶対にやっておかないといけない」と強く思いました。この出来事がきっかけで、また英語を頑張ってみようと気持ちを新たにしました。
結婚、それは人生の好転期?
こんなタイミングでしたが、2020年9月に結婚しました。コロナ禍での新居への引っ越しは緊急事態宣言のタイミングを見ながら行い、妻と二人の生活がスタートしました。するとその頃から、少しずつ、うれしい出来事が起こり始め、また世の中に求められている気持ちになってきました。例えば、次のような知らせやオファーが続いたのです。
・新しく知り合った友人が私の本を買ってくれていて、その友人に英語を教えて欲しいと頼まれた。
・ 朝日新聞 の取材を受けた。
・佐賀県にある NPO法人BALMの国内留学合宿 にゲスト講師として招かれた。
・ NHK高校講座 英語コミュニケーションⅠに出演した。
タクシーには少しずつお客様が戻ってきましたが、タクシー業1本だと不安もあります。「英語タクシードライバー」としての英会話、特にスピーキングに特化したスクールを立ち上げる決心をしました。
「初心者向けオンライン英会話トレーニングサービス」スタート!
発音は1、2カ月練習すれば劇的に変わります。すると英語を話すことが楽しくなり、モチベーションも上がるし、恥ずかしいという気持ちも消えるはず。「聞いて!私の英語」くらいの気持ちになるので、この感覚をシェアしたいです。
初心者向けオンライン英会話トレーニングサービスについては、現在2本の主軸を考えています。
・発音矯正
・スピーキングのトータルレッスン
発音は小さい頃から英語に触れないとうまくならないという思い込みはもったいないです。私は30歳で始めましたから、そんなことないよと言いたいです。
スピーキングのトータルレッスンについて、私は勝手に「サイド・バイ・サイド」メソッドと命名しているのですが、それは「一緒に寄り添っていく」という意味なんです。例えば、ネイティブスピーカーの恋人を持つと、圧倒的に英語でのメールのやりとりが増えますね。毎日の英語ライティングもオンライン英会話も、苦になりませんよね。そんな場面を想像するとこのメソッドのイメージが分かりやすいかもしれません。英語を書く相手、ボイスメールを送る相手がいるということがいかに大事かということなんです。
基本はフリーライティングと音読の練習です。レッスンの手順は、毎日私にLINEで短い英語の日記を送ってもらいます。私は、LINEに送られてきた英文を読んで、生徒のレベルに合わせて、「次回はこういう話題でこういうフレーズを使って書いてみてください」と課題を挙げて並走します。さらに定期的にオンラインで会話をします。ライティングで培ったものを生かせるようなトピックで、ライティングと会話を連動させていく仕組みです。
英語がある程度分かるようになれば、聞き返すこともできるし、恐怖心がなくなって、話すことが楽しくなってくるでしょう。私がウクライナの人に現地の状況を聞くことができたように、まずは、英語力のレベルをそこまで持っていってあげたい。その後は自分で力を伸ばしていけるでしょう。そのレベルまで到達しなければ、途中で嫌になって勉強をやめてしまう人は多いと思います。
ビジネスというよりも、まずは、「一緒に勉強しようぜ!」みたいに、 Twitter で情報発信していこうと思います。興味があればフォローしていただけるとうれしいです。
発音指導士の資格を取得しました
発音指導士は国際英語発音協会が認定する資格です。発音には自信がありましたが、いきなり指導者レベルのスコアをもらうことができました。
テストの内容は英文を読むことが中心でした。
・最初に自己紹介。
・アルファベットをAからZまで読む。
・課題文を読む。
・英語で会話をする。
自分のスクールを立ち上げるときにこの資格が役に立つーーーそう思ってチャレンジしました。それに、タクシーで夜にお客さんを乗せたときに、ただ眠っているお客様を目的地まで届けるのではなく、乗車中は英語で会話レッスンできるような試みにもチャレンジしたいです。そのときに、私は英語の発音を教えるのはプロですって言えるんです。発音指導士の資格を持っているタクシー運転手はきっと私だけですね(笑)。
中山哲成さんの本
取材・構成:増尾美恵子 写真:山本高裕
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
- スマホ相手に恥ずかしさゼロの英会話
- 制限時間は6秒!瞬間発話力が鍛えられる!
- 英会話教室の【20倍】の発話量で学べる!
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
現役の高校英語教師で、書籍『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』の著者、大竹保幹さんが、「英文法が苦手!」という方を、英語が楽しくてしょうがなくなるパラダイスに案内します。
英語学習を1000時間も続けるのは大変!でも工夫をすれば無理だと思っていたことも楽しみに変わります。そのための秘訣を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。