教科書どおりの英語を使うと悲劇のもと?マイクロソフトシンガポールのアジア太平洋地区ライセンスコントラクトコンプライアンス本部長として活躍中の岡田兵吾さんに、ジェントルマンなら覚えておきたい「気配りビジネス英語」の極意をお伺いします。
ビジネス英語は発音より丁寧さ
私も海外に転職したばかりのときは、会議の英語が聞き取れず発言できなかったために、上司から「このままだとお前はクビ」と宣言をされたり、その後転職した会社で1年2カ月「営業成績ゼロ」の状態に陥ったりと、苦い経験をしてきました。
そんなどん底の状態から立ち上がり、「ビジネスで使える英語力」を磨き上げたカギの一つが、 外国人をイラっとさせたり、自信なさげな印象を与えたりする「残念なビジネス英語」を意識して避け、代わりに「丁寧」「明るい」「信頼できる」英語フレーズを進んで使ったことです。
例えば誰かに質問されて、さあ、自分にはわからないというとき、あなたなら何と答えますか?I don’t know. でも、間違いではありません。しかしこの言い方だと、突き放すような印象を相手に与えがちです。
こういうときは、I’m not sure but ~ のような柔らかい言い方をします。そして、I guess、I assume 、probablyといった言葉を使って、不確かであっても自分が知っていることは、できるだけ伝えるようにします。 相手をサポートする気持ちを表すことで、同じ「わかりません」でも、丁寧で感じのよい、しかもポジティブな言葉に変わるのです。
グローバルビジネスの世界では、流暢な英語を話すことは、それほど重要ではありません。私が暮らすシンガポールでは、シングリッシュと呼ばれるクセの強い英語が話されますが、それでも立派に、世界に通用します。もちろん、洗練された美しい英語を話せるなら、それに越したことはありません。しかし発音が少し変でも、時々文法を間違えても、伝えるべきことは伝えられますし、仕事の英語はそうあるべきだと思います。
実際ここ数年、海外の大企業は「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括的)」という言葉をよく使っています。かつては「黒人差別するべからず」一辺倒だった「するべからず」は、今や「人種・国籍・性別・年齢・障碍・性的少数者(LGBT)・宗教・文化など、あらゆる要因で人を差別するべからず」になっています。
そして私たち非ネイティブにとってうれしいことに、その「するべからず」には「英語力不足の人を差別するべからず」も含まれているのです。英語ができない人が世界にはたくさんいることを理解し、非ネイティブを差別せず尊重する姿勢が求められているのです。だからこそ、発音や文法を気にするのではなく、いかに仕事の成果を最大化できるかに注力すべきです。
いろいろな国の人たちが入り混じる職場では、私たちが想像する以上に、人を嫌な気持ちにさせない、気配りのある話し方が求められます。英語の世界で仕事をするというのは、人口約1億2700万人の日本から、15億人の世界へ飛び出すということです。圧倒的な多様性の中では、相互に信頼と尊敬を育てていかないと、仕事は円滑に進みません。だからグローバルな環境で働く人ほど、ネイティブも非ネイティブも、相手を気遣う丁寧な英語を使いこなしています。
原動力は、自分の中の「情熱」
伝わる英語の原動力は、自分の中にある「情熱」だと私は思っています。新しいプロジェクトを前に「この価値観をみんなとシェアしたい。」「明日のプレゼンで、信念だけはしっかりクライアントに伝えたい。」あるいは、「失敗して落ち込んでいる仲間を励ましたい。」など、これだけは伝えたいという強い想い=「情熱」を、言葉やジェスチャーに込めることによって、初めて人は心を動かすのです。聞く人を惹き付け、巻き込んでいけるよう、声を張り明るい表情で堂々と話しましょう。身ぶり手ぶりも、大げさなくらい情熱的でちょうどよいのです。
大切なミーティングがある日、私は朝起きると腕立て伏せをします。おなかから大きな声が出るように、シャワーを浴びながら発声練習もします。ついでに苦手なLとRを意識して、口がよく回るようにウォーミングアップします。そして仕上げは鏡の前でビッグスマイル。力がみなぎった状態でミーティングに臨むのです。すべては、前向きで熱いトークに、みんなを巻き込むためです。
言葉は職場の連帯を強める上でも大切です。グローバルビジネスにも協調性は不可欠ですが、この場合の協調性とは、チームの成果を最大化するために、みんなの力を結集することです。世界で英語を話す人の8割は非ネイティブですが、みんなそれなりの英語を使って、チームプレーに参加しており、「英語が苦手」は通用しません。 自分の考えは臆せず述べる。わからないことはどんどん聞く 。
仲間の英語が聞き取れなければ、わかりやすく話してくれるよう頼みましょう。聞く人が理解できるように話すのは、話し手の責任ですから、聞き取れないとき、意味がよくわからないときは、遠慮なく尋ねてよいのです。日本人らしく黙っていては、人に伝わる英語は永遠に話せません。
私の経験からすると、多くの場合、英語が伝わらない原因は、発音や文法が問題で英語が伝わらない事よりも、話す声が小さかったり、自信がないためはっきり話さず、もごもごと話すことで、相手に聞き取りずらくなっているだけなのです。発音や流ちょうに話すことにとらわれず、自分の知見や専門性に誇りを持って、自分の意見を臆せずはっきりと大きな声で話すことで、自分の中の「情熱」が伝わり、相手を魅了する英語コミュニケーションが可能となるのです。
明瞭、簡潔、 具体的に話そう
ビジネス英語は、やはり仕事を通して身に付く部分が大きいと思います。特に自分や他人の失敗には、学ぶことがたくさんあります。
私自身が経験したことですが、マイクロソフトに入ってすぐの頃、何度もグローバルプロジェクトに挑戦していましたが、なかなかうまくいかない日が続いていました。当時は心のどこかで「非ネイティブだし、英語がそこまでうまくないからしょうがないよな」と言い訳するような気持ちがあったと思います。
私は当時の上司に「英語がうまくなくて、グローバルプロジェクトをうまく回せません。」と言い訳をしたところ、上司は「お前は英語は十分に話せている」と言ったのです。「仕事がうまく回っていないのは、お前が伝えたいことを整理できていなくて、しっかり伝えきれていないからだ。英語力より、自分の意見や考えをしっかり言語化できるようにしなければダメだ」と叱咤されました。
その上司はインド人で、彼も非ネイティブでした。大学を卒業するまで英語で話したことはなく、シンガポールのマイクロソフトで働き始めた当時は何を言っているか全くわからないとよく怒られたようでした。しかしその後、マイクロソフト インドネシアのCFOを務めるなど素晴らしいキャリアを築いていました。
その彼がビジネス英語の秘訣を私に教えてくれました。「非ネイティブの私たちは、無理にきれいな英語を話そうとする必要はない。代わりに3Cを意識して話してごらん。」
仕事できちんと人に伝わる英語を話したければ、 「明瞭 Clear 」、「 簡潔 Crisp 」、「具体的であること Concrete 」を大事にする 。私たち非ネイティブは美しいイギリス英語を話せないし、話す必要もない。それよりも、しっかり伝わる「論理的で構造化された英語」を話せと、彼は私に教えてくれたのです。
この3つの「C」、そして、「聞く人のことを考えた丁寧な話し方」を心掛けること。ぜひ実践してみてください。
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