日本に住んで、海外とのビジネスで稼ぐ。英語力よりも大切なことは?

「グローバル就職」と聞くと、超大手外資系企業への就職のことを想像してしまい、選択肢の外に置いてしまう日本人は未だ少なくありません。しかし今や、「グローバル就職」は一部のエリートや英語が堪能な帰国子女にしか開かれていない可能性ではありません。あなたの可能性を広げてくれる海外就職の現在地を探ります。

日本に工場は帰ってくるのか?

前回は、少子高齢化により日本の国内需要は向こう50年間減り続けることがほぼ確実となっており、「日本国内で日本人だけを相手にするビジネス」は、非常に難しい状態にあるという話をしました。そこで今回は、「日本国内で日本人だけを相手にするビジネス」以外の選択肢について考えてもらうために、「日本に住んで、外国人を相手にするビジネス」について話します。

私がかつて所属していた日産自動車は、自動車の約9割を海外で販売しています。つまり、典型的な「日本に住んで、外国人を相手にするビジネス」をしている会社です。

ところで、円安が進み物価が上がっている現在、「円安が進めば、海外にある工場などが日本へと帰ってきて、雇用にプラスになるのでは?」という説があります。だとすれば、日産これから日本に工場を作って、日本での雇用を増やすのでしょうか?しかし残念ながら、その可能性は低いのです。

日産は、2000年頃には、車の半分以上を日本国内で生産していました。しかし、その後に海外(特に中国)へと工場を移転し、2010年には約70%が海外生産になりました。そして、2020年4月?2021年3月になると、海外生産が86.4%になります。つまり、車の86.4%を海外で作り、89%を海外で売っているわけです。同じように、日本企業が経営している多くの工場は、2000年以降、どんどん海外へと出ていきました。中国や東南アジアが大きく経済成長をしていた時代です。

日産の生産台数

先ほどの説に従えば、これらの工場を2022年の今から、円安の日本へと戻していくということになりますが、そんなことはほぼあり得ないと思います。というのも、工場というのは何十年も使用されることが前提にあるので、今が円安だからといって、工場を建てるとかそういう短期視点では考えられません。

では、実際には何を重視しているのかというと、「その土地に労働があるか」「その土地に購買力があるか」なのです。

工場というのは、多くの人が働く場所なので、当たり前ですが働いてくれる人がいないと動きません。したがって、工場を建てる場合にポイントとなるのは、労働力をいかに集めるかということなのです。

そして、生産された製品は輸出をしてももちろんよいわけですが、ベストなのは工場の近くで販売することです。そのため、工場を建てる土地には購買力も必要となってきます。中国や東南アジアに工場が作られたのは、この労働力と購買力が豊富にあり、その後も伸びていく可能性が高かったからなのです。

この観点で見た場合の日本はどうかというと、少子高齢化で購買力はどんどん下がっていくことが予想されますし、高学歴化で工場で働く人はさらに減っています。 残念ながら、誰もこんなところには工場を作りません。

中国や東南アジアでも少子化は始まっており、向こう数十年安泰というわけではありませんが、しかしわざわざ日本に作るよりは、中南米やアフリカを選択するはずです。

IT企業は、日本に仕事を発注するか?

私がシリコンバレーの外資系企業に勤めていたとき、製品開発におけるメインのプログラマーはインド人でした。 理由は、優秀なエンジニアを安価で雇えるからです。 同じように2020年に入ってからは、「日本のエンジニア、安くね?」ということが言われ始めました。

この会社では、シリコンバレーにある本社のエンジニアが商品の設計を行い、インドのエンジニアがプログラミングを行っていました。 アメリカ時間の夕方に、インドにメールで設計書を送ると、インド時間の朝にインド人が受け取り、プログラミングを行い、サーバにアップロードします。 すると、翌朝に出勤してきた本社エンジニアが内容をチェックし、次の設計に移るのです。

このように、ITの仕事はインターネット上でやりとりができることが多いため、場所は関係ありません。むしろ、時差があることがプラスに働くこともあるわけです。そして、アメリカや欧州(場合によってはインドや中国)の会社が、日本のエンジニアに仕事を依頼することは、すでに起こり始めていますし、これからも増えていくのではないでしょうか?

日本で海外と仕事をするのに必要なスキル

今までの話を整理すると、工場勤務では海外との仕事をするのが難しいのに対して、ITエンジニアなら海外の仕事がしやすいということです。 ポイントは、インターネットを通じて仕事ができるかどうかです。

インターネットを通じて世界中でどこでもできる仕事は、コロナ禍を経て非常に多くなりました。 会計や法務、マーケティングなどの仕事や、マネジメントの仕事まで、かなり多くの仕事が在宅勤務でも大丈夫だということがわかったのです。日本国内で海外と仕事をするためには、海外の企業や日系のグローバル企業にニーズがある、在宅勤務可能な仕事を選ぶ必要があります。

ただ、全ての日本人がこのような仕事ができるとは限りません。 アメリカのIT企業がインド人のエンジニアに仕事を依頼した最大の理由は、「インド人は英語が話せる」からです。ビジネスの上での世界の共通言語は英語です。 私が日産で、世界13カ国のメンバーと一緒にグローバル物流管理システムを作っているときも、言語は英語でした。(当時から日産社内ではIT部門のドキュメントは原則英語で作成する事になっていました)

というわけで、在宅勤務が可能な仕事の経験があり、英語でビジネスが行える人であれば、海外の企業や日本のグローバル企業で、海外のビジネスに参加できるのです。

今あなたが身につけておくべき事

では、今あなたが身につけておくべき事はなんでしょうか?TOEICの点数を上げること?まあ、それもあります。 しかし、それ以上に大切なことは「外国人とビジネスをした経験」です。

日産に入社した時、私のTOEICの点数はおそらく600点程度で、ギリギリ仕事ができるレベルでした。おかげで、アメリカとイギリスの担当からはあっというまに外されました。 しかし、中国やタイ、メキシコやスペインのメンバーとは上手く仕事ができたので、社内でも高い評価をもらっていました。

英語のネイティブスピーカー以外は、外国人でも英語があまり上手でない人も多く、少なくとも彼らと仕事をする上では、ネイティブのような発音や語彙力は必須ではありません。 それよりも大切なことは、コミュニケーション力です。

ミーティングが始まる前などに、「また英語で話さなきゃいけないのかー、大変だよなー、アミーゴ」みたいなことを下手くそな英語で話しかけると、「俺も、英語で会議とか本当にキツいんだよね。早く終わらせよーぜ、セニョール」みたいな話になり、仲良くなったりします(笑)このように、業務に必要な専門用語と、下手な英語で軽口をたたけるようなコミュニケーション力が、意外にも重要になってくるのです。

このような力を身につけるために必要な事は、最低限の語彙力に加えて、外国人と話す経験です。できたら、ビジネス上での経験を積めるとよいです。 まずは、留学でもオンライン英会話でもいいですが、どんどん外国人と話をしてみることをおすすめします。

もしあなたが学生であれば、海外インターンに参加したり、外国人がたくさん訪れる飲食店やテーマパークなどで、バイトをするのもいいでしょう。

例えば、我々が主催している海外インターン・サムライカレーSDGs@カンボジアに今年の3月に参加した学生は「海外進出をサポートできるコンサルを希望しているので、まずは自分が海外ビジネスを体験するために、カンボジアに来ました」と言って、3年生の3月にプログラムに参加しました。

そして、カンボジアからオンライン面接を受け、「今カンボジアです!午前中は寿司を握っていました!」という話がウケて、帰国後3日で六本木ヒルズにオフィスを構えるコンサルタント会社に内定をもらっていました。

あなたが社会人であれば、社内で外国人と一緒に仕事をする部門に積極的に絡んで仕事を振ってもらいましょう。今の部門でその仕事があれば、英語が苦手そうな人の代わりに、電話にでたりメールを翻訳してあげたりするのもいいでしょう。隣の部門でそのような仕事があれば、ちょいちょい訪れて、知り合いに世間話をしながら自分が手伝える仕事があるか探してみましょう。

外国人スタッフと仲良くなり、彼らにご指名をもらえればこっちのものです。正確な英語を覚えた方が、仕事の幅は広がりますが、下手くそな英語でもできる仕事はたくさんあります。大切なことは、ビジネスパートナーに「こいつとは一緒に仕事をやりやすい」と思ってもらう事です。

外国人に気に入ってもらえる様なコミュニケーション力を身につけるには、実際に人と接してみるしかありません。コロナ禍でオンライン上のコミュニティが増え、インターネットで外国人と触れあうチャンスは増えました。そして最近は、国をまたいだ移動も再び回復し始めています。

これからの仕事のことも踏まえて、ぜひ、英語を学び、外国人と交流する機会を自分から積極的につくっていってくださいね。

森山たつを
森山たつを

(株)スパイスアップ・アカデミア 社長。早稲田大学理工学部卒業後、日本オラクル、日産自動車などに勤務。これらの経験を元に世界7カ国で就活を行い全ての国で内定をとり、その内容を人に伝える「海外就職研究家」として独立。著書4冊(電子書籍は20冊以上)。現在は、大学生・高校生・社会人が海外ビジネス体験できるインターン、 サムライカレーSDGs を運営。 https://twitter.com/mota2008

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