アメリカ人が必ず読んでいる文学作品にはどのようなものがあるのでしょうか?この連載では、好評発売中の書籍『教養あるアメリカ人が必ず読んでいる 英米文学42選』で惜しくも載せきれなかった名作を、著者のジェームス・M・バーダマン先生がご紹介します。今回は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』です。初版が1865年に出版されたこの本は、単なる子供向けのファンタジーではなく、哲学的、心理的な深みを持つ作品として大人にも愛されています。物語のあらすじを英語で読んでみましょう。
『教養あるアメリカ人が必ず読んでいる 英米文学42選』ってどんな本?
『教養あるアメリカ人が必ず読んでいる 英米文学42選』は、アメリカ人が大学卒業の頃までに読む本を、あらすじと、その作品が生まれた時代背景や作品の持つ価値と意義も併せて、英文で読むというコンセプトでつくられています。
日本語訳と語注付きなので、辞書なしでもOK。英語のリーディング力を養うとともに、アメリカ人の思想の原点にも触れられる一冊。本1冊につき250-750語の英語で紹介されていて、中級くらいの英語力をお持ちの方であれば、5分以下で読み切れます。もちろん日本語から読み始めても構いません。読もうと思ってなかなか手にとれなかった英米文学を、この一冊で制覇しましょう。
今回は、本編の『42選』では紹介しきれなかった、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を読んでいきます!
英語で読むあらすじ
Alice in Wonderland by Lewis Carroll
One summer day, Alice sits along a river and falls sleep. She dreams that she sees the White Rabbit dressed in a waistcoat, looking at his watch as he jumps into a rabbit hole. Alice follows him, and finds ways to shrink and grow bigger as she follows the rabbit into Wonderland, a world of imagination.
She meets the Caterpillar, the grinning Cheshire Cat, the Mad Hatter, and the March Hare. They all treat her rudely. Then she meets the Queen of Hearts, who is always furious and orders everyone to be beheaded.
Alice tries to use reason and proper behavior in the rabbit hole, but she has to learn to be flexible. The Cheshire Cat tells her that everyone there is “crazy.” “Time” has stopped moving forward. Even the game of croquet has no rules. Alice may want to remain in the world of childhood innocence, but she faces riddles and challenges that have no purpose and no answer. She has to adapt to the crises that she will encounter there.
Alice wakes up from this incredible dream and tells her sister about her adventures. The humor of the story shows the conflict between the ideals of society and the chaotic truth of the world. Alice behaves as she was taught to behave, but the Wonderland—the real world—is unpredictable. The story can be frightening or amusing. Life does not always meet expectations and its problems are not always solvable. She needs to acquire curiosity and judgment.
日本語訳
『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル著
ある夏の日、川辺に座っていたアリスは眠りに落ちる。ベストを着た白ウサギが、時計を見ながらウサギの穴に飛び込む夢を見たアリスは、ウサギの後を追い、縮んだり大きくなったりする方法を見つけながら、想像の世界である「不思議の国」へと入っていく。
彼女は、イモムシ、にやけたチェシャ猫、マッドハッター(帽子屋)、三月ウサギに出会う。彼らは皆、アリスに無礼な態度を取る。そしてハートの女王に出会う。女王はいつも怒り狂っていて全員の首をはねろと命令する。
アリスはウサギの穴の中で理性的で正しい振る舞いをしようとするが、柔軟さも身につけなければならない。チェシャ猫は彼女に、ここにいる者はみんな 「クレイジー」だと言う。「時間」は進むのを止めてしまっている。クロッケーゲームにさえルールはない。アリスは子供の頃の無邪気な世界に留まりたいかもしれないが、目的も答えもない謎や試練に直面する。彼女はそこで遭遇する危機に適応しなければならない。
アリスはこの不思議な夢から目覚め、自分の冒険について姉に話す。この物語のユーモアは、社会の理想と世界の混沌とした真実との間の葛藤を示している。アリスは教えられたとおりに振る舞うが、現実世界である「ワンダーランド」は予測不可能だ。物語は恐ろしくもあり、面白くもある。人生は必ずしも期待通りにはいかず、人生の問題は必ずしも解決できるものではない。アリスは好奇心と判断力を身につける必要があるのだ。
語注
- waistcoat: 丈の短い袖なしの胴衣。ウェストコート、ベスト、チョッキ
- grin: ニヤリと笑う
- Mad Hatter: mad as a hatterで「気が狂っている、いかれている」。
- rudely: 無礼に
- (the) queen of hearts: (トランプの)ハートのクイーン
- head: [動詞で]首を切る
- croquet: クロッケー 1880年代、フランスからアイルランド、後にイングランドへと伝わった球技。芝生の上で木づちで木製ボールを打ち、6つのフープをくぐらせて競う。
- childhood innocence: 子どものころの無邪気さ
- adapt to ~:~に適応する、~になじむ
- conflict: 対立、衝突
- chaotic: 混沌とした、無秩序な
- unpredictable: 予測不可能な
- meet expectations: 期待に応える
- solvable: 解決できる
解説/Vardaman’s note
著者のルイス・キャロルはペンネームで、本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン(1832-1898)という、イギリスの数学者、論理学者、写真家、作家、詩人です。もともと著者は親戚の子供たちにこの物語を聞かせるために書きましたが、その物語を書き留めるよう依頼され、本の形として出版されるようになったという背景があります。
『不思議の国のアリス』は、イギリスの上流階級文化のパロディでもあります。アリスはその一員になるために学んできたため、「不思議の国」のクレイジーさは彼女にとって衝撃的でした。この話のファンタジーの部分は子どもたちを魅了しましたが、大人たちはまったく別の視点、つまり哲学的、心理的な深みを持つ作品としてこの物語を読みました。
こうした、子どもも大人も楽しめて、今読んでも価値のある『不思議の国のアリス』のような作品は英米文学にはほとんど存在しません。英語の原文にはナンセンス、皮肉、ファンタジーが盛りだくさんなので、読解の難易度は5段階評価の4(難しい)に相当します。これが『42選』からもれた理由です。