スモウ、シゴク、クッシ・・・アメリカで至高の味として絶賛されるその食材とは?【世界のニホンゴ調査団】

4年ぶりの連載復活、「世界のニホンゴ調査団」の21回目をお届けします。今回は、アメリカで至高の味として絶賛されるある日本発の食材に迫ります。スモウ、シゴク、クッシ——これらの名前に隠されたその驚きの正体とは?日本とアメリカ、両国の食文化が交錯する舞台裏をぜひご覧ください。

アメリカで生で出される唯一の(?)シーフード

世界遺産効果もあってか、刺し身や寿司(すし)など、日本食がアメリカの都市部を中心にかつてないほど爆発的な盛り上がりを見せています。ただ、田舎に行けば行くほど、高齢になればなるほど、生魚に抵抗感のあるアメリカ人が多いのも事実。

エビでもカニでも、シーフードが必ず蒸されたり焼かれたりして出てくるのは、日本人としてちょっぴり寂しいものですが、唯一の例外と言えるのが「牡蠣(カキ)」です。しかも、アメリカ人が愛してやまない生牡蠣は日本由来の品種が並び、日本語がそのまま英語になってブランド化。レストラン業界や食通の間で広く認知されています。一体、なぜなのでしょうか?

北米で生き延びる奇跡の牡蠣、Kumamoto

古来、北米に多く生息する牡蠣。カナダやアメリカの先住民、そしてイギリスなどからの入植者たちも、牡蠣を大切な栄養源の一つとして暮らしていました。東海岸を中心に「オイスター・ハウス」と呼ばれる牡蠣専門店が19世紀前半に登場し、その手軽さと安さが受け、仕事帰りの労働者が通い詰めるなど一大ブームに。庶民の胃袋を満たし続けました。

しかし1890年代に入り、乱獲や水質汚染などから国内養殖産業がダメージを受けると、アメリカは日本から種牡蠣を輸入し始めます。太平洋戦争でいったん途絶え、戦後に再開されるも、主な産地である広島に原爆が投下されたこともあり、アメリカ側が要求する出荷量を日本側が確保するのは難しい状況でした。

そこで、試験的にワシントン州シアトルへ送られることになったのが、それまであまり知られていなかった小ぶりの熊本牡蠣(シカメガキ)。そのおいしさが認められ、養殖に成功した今では高級牡蠣、Kumamotoとしてアメリカで広く流通します。

例えば、カリフォルニア在住の人気フード・スタイリストのマリーナ・デリオ氏は、Kumamotoについて、次のように紹介しています。

Kumamoto oysters can be found along the Pacific Coast in North America and are popular among novice oyster consumers and seasoned chefs alike. This is due to their unique taste and small size.

Kumamotoは北アメリカ太平洋岸で収穫され、牡蠣は初めてというビギナーから熟練の料理人まで、幅広い層で人気を集めます。その理由は、他にはない個性的な味、そして小ぶりなサイズ感にあります。

デリオ氏はまた、Kumamotoは甘みが強く生臭さがほとんどないため、初めて牡蠣を食べる人に最適だとしています。

皮肉なことに、本家の熊本牡蠣は、「水俣病」で知られる工場排水からのメチル水銀汚染により全滅。21世紀に入り養殖が再開されましたが希少種となっており、世界的にKumamotoのおいしさが広まる今では、Kumamotoが日本に逆輸入されています。

牡蠣の養殖が盛んな北米西海岸。シアトル近郊の浜辺では天然の牡蠣が見つかることも。

Kumamotoに続く高級牡蠣が派生

シアトル近郊から、お隣カナダのブリティッシュ・コロンビア州にかけて、複数の牡蠣養殖場を持つテイラー・シェルフィッシュ社。今やレストラン業にも進出し、観光地を中心に出店を続け、話題に事欠きません。その目玉となるメニューが、生牡蠣です。

生牡蠣として出される品種は日替わりで、筆者が訪れた日はKumamoto、Sumo Kumoがラインナップ。このKumamotoは、戦後すぐに日本からシアトルに渡った種牡蠣にルーツを持ちます。Sumo Kumoは、そのKumamotoの姉妹種に当たり、「相撲」というネーミングさながらにKumamotoの倍ほどの大きさを誇りますが、繊細でミルキーな味わいはそのまま。ちなみに、Kumoとは、「雲」や「蜘蛛(クモ)」ではなく、Kumamotoを短縮した別称です。つまり、「力士のように立派な熊本牡蠣」というイメージでしょうか。

同店のホームページに掲載されているカスタマー・レビューには、次のようなコメントも見られました。

If you’re looking for the best of the best then look no further, the Sumo Kumo’s are it!! My favorite oyster was the Kumamoto, but then I met it’s bigger sibling. Fresh, sweet, and to die for!! I’m in love.

このSumo Kumoはまさに私が探し求めていた牡蠣です!元々Kumamotoが大好きなのですが、これはより大粒の姉妹牡蠣に当たります。フレッシュで甘みもあり、もうたまりません!すっかりハマっています。

その他、テイラー・シェルフィッシュでは、2009年から出荷しているShigokuも有名。やや小ぶりな身に甘みが凝縮され、フルーティーさも感じられる、まさに「至極」の味わいと評判です。同養殖場の牡蠣はオンライン購入も可能で、レストランに出向くことなく、新鮮な牡蠣をお取り寄せで楽しめます。イベントやパーティー向けに寿司職人が派遣される「出張寿司バー」はアメリカ人の羨望(せんぼう)の的ですが、同様に「出張オイスター・バー」を提供するケータリング・サービスまであります。

同店以外にも、生牡蠣を名物とするレストランはシアトル周辺にたくさんあり、「オイスター・バー」と呼ばれ、シアトルのご当地グルメとしての地位を確立しています。その生牡蠣は前述の品種ほか、一般的なマガキをKumamoto のように小型化して養殖するKusshiを始め、Ichiban、Oishi、Kikuなど、日本人に聞きなじみのある日本語名がずらり。どれも北米西海岸産の人気種です。

まとめ

アメリカでも10年、20年くらい前は、生牡蠣もむしろ日本よりリーズナブルな価格で食べられたものですが、寿司店同様に、オイスター・バーの高級化が進みつつあるのが現状です。日本語の響きが持つクオリティーへの期待感、高級感も一役買っているのかもしれません。実際、日本語名が付く品種は、ちょいお高めで、オイスター・バーを格上げする効果を持つようです。

シンプルにレモンをギュッと絞って生で味わう以外に、フライ、薫製、チャウダーと、日本とはまた違う、さまざまな牡蠣グルメがそろうアメリカ。皆さんも機会があればぜひ、オイスター・バーの本場で、日本由来の牡蠣の食べ比べを体験してみてくださいね。

海外書き人クラブ
文・写真:海外書き人クラブ・ハントシンガー典子

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連載「世界のニホンゴ調査団」

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