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認知症によって変貌する老女とその家族を描いたホラー映画『レリック -遺物-』

FILMOSCOPE【2021年9月号】

気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に真魚八重子さんが解説します。

今月の1本

『レリック-遺物-』(原題:Relic)をご紹介します。

※動画が見られない場合はYouTubeのページでご覧ください。

森に囲まれた家で1人暮らしをする老女エドナ(ロビン・ネヴィン)が突然姿を消した。娘のケイ(エミリー・モーティマー)と孫のサム(ベラ・ヒースコート)が急いで向かうと、誰もいない家には彼女が認知症に苦しんでいた痕跡がたくさん見受けられた。そして2人の心配が頂点に達した頃、突然エドナが帰宅する。だが、その様子はどこかおかしく、まるで知らない別の何かに変貌してしまったかのようだった。サムは母と共に、愛する祖母の本当の姿を取り戻そうと動き出すが、変わり果てたエドナと彼女の家に隠された暗い秘密が、2人を恐怖の渦へと飲み込んでゆく―。

3世代の女性を襲う、「失われゆく記憶」の恐怖

近年、認知症にまつわる映画が増えている。以前から人間の尊厳や家族愛を語るドラマとして、老いや記憶障害が登場することは度々あった。しかし最近の傾向は認知症の症状を客観的に描き、抜き差しならぬ不安や恐怖として捉えた語り口が多い。寿命が延びた代わりに認知症の症状に苦しみながら、介護が必要となる時間も長くなることを直視せずにはいられない時代になってきたのだと思う。

本作もまさに、祖母の認知症を娘や孫の視点からホラーテイストで表現している映画だ。物語はケイとサムの母子が里帰りしたところから始まる。森の中の一軒家で1人暮らしをしていたケイの母エドナが、突然姿を消してしまったのだ。家の中にはエドナが認知症と闘っていた痕跡があり、ケイは老人ホームへ入居させることを検討し始める。その矢先にエドナが不意に舞い戻ってきた。安堵したのもつかの間、エドナの挙動はどこかおかしく、ケイたちは言い知れぬ不安を覚えていく。

監督ナタリー・エリカ・ジェームズは日系オーストラリア人で、これが長編初メガホン作となった。この映画の発想が生まれたのは、日本に住む母方の祖母に久しぶりに会ったところ、認知症によって人が変わったようになっており強いショックを受けたことによるという。これは意外と、多くの人が似たような経験をしているつらい出来事ではないだろうか。家族は長い間一緒にいたため、肉親が急に不自然な発言や行動を取り始めるのが、一種の崩壊に思えて狼狽してしまう。老いは誰にでも訪れるものだから、率直に口にするのははばかられる考え方ではあるが、肉親の人格が失われていくのは確かに恐怖なのだ。

デリケートな問題をいかにホラーとして解釈したかが、本作の見どころである。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)のアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟が製作総指揮を担当し、俳優のジェイク・ギレンホールがプロデュースに名を連ねているのも話題だ。

『レリック-遺物-』(原題:Relic)

『レリック-遺物-』

(C)2019 Carver Films Pty Ltd and Screen Australia
Cast & Staff

監督:ナタリー・エリカ・ジェームズ/製作:ジェイク・ギレンホール、リヴァ・マーカーほか/出演:エミリー・モーティマー、ロビン・ネヴィン、ベラ・ヒースコートほか/8月13日(金)全国ロードショー/配給:トランスフォーマー

transformer.co.jp

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年9月号に掲載した記事を再編集したものです。

真魚八重子(まな・やえこ)映画著述業。『映画秘宝』、朝日新聞の映画欄、文春オンライン等で執筆中。著書『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『映画なしでは生きられない』『バッドエンドの誘惑』(共に洋泉社)も絶賛発売中。