気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に真魚八重子さんが解説します。
今月の1本
『パーフェクト・ケア』(原題:I Care A Lot)をご紹介します。
※動画が見られない場合は YouTube のページでご覧ください。法定後見人のマーラ(ロザムンド・パイク)は 判断 力の衰えた高齢者を守り、ケアすることが仕事だが、実は裏で医師や介護施設と結託して高齢者たちから資産を搾り取る悪徳後見人だった。パートナーのフラン(エイザ・ゴンザレス)と共にビジネスは順風満帆というマーラだったが、新たに獲物として狙いを定めた資産家の老女ジェニファー(ダイアン・ウィースト)を巡って、次々と不穏な出来事が発生し始めた。身寄りのないはずのジェニファーの背後にはなぜかロシアン・マフィア(ピーター・ディンクレイジ)の影が!?マーラの運命は果たして―。
「私に“負け”はない」―高齢者をだまして稼ぐ悪徳後見人のストーリー
『ゴーン・ガール』(2014)での演技が高い評価を受けたロザムンド・パイク主演作。最近も彼女の主演作は佳品が続いている。本作は高齢化社会において老人を食い物にして稼ぐ女性が、あるトラブルに出くわす顛末をサスペンス・コメディータッチで描いている。
法定後見人のマーラ(ロザムンド・パイク)は、認知症によって 判断 力に問題が生じた高齢者の財産管理や代理業務を行っている。一見良心的な仕事のようだが、実は介護施設や専門医を丸め込み、高齢者から財産を巻き上げるのが主ななりわいだ。今回もパートナーのフラン(エイザ・ゴンザレス)と共に、新たな“かも”である老婦人ジェニファー(ダイアン・ウィースト)を見つけた。一人暮らしで親類縁者のいない金持ちという絶好の条件だ。早速ジェニファーを施設に送り込み、難なく 作業 は終わったかに見えたが、なぜかマーラの周囲にロシアン・マフィア(ピーター・ディンクレイジ)の姿が現れ始め・・・。
映画になるということは、もはやこういった悪徳業者が社会問題になりつつあるのだろう。それにしてもマーラには実在のモデルがいるのかと思うほど、厚みのあるキャラクターだ。稼ぎに対して鼻が利き、悪知恵の働く人間がはびこっているリアリティー。実際にこういう羽目に陥っている老人がどれだけいるのかと不安になった。
この映画に善人はいない。 そもそも 主人公のマーラが非常にあくどい人間で、冷酷無比である。けれども、マーラの仲間たちとジェニファーの関係者たちがどのような運命をたどっていくのか、手に汗を握って見守ってしまう。ロザムンド・パイクの演技は、強くて怖い女を強烈に打ち出していて見事である。助演のピーター・ディンクレイジの哀愁も良いアクセントだ。そして、謎の老婦人ジェニファーを演じたダイアン・ウィーストの笑顔が怖い。彼女とロザムンド・パイクの心理戦は見どころである。
『パーフェクト・ケア』(原題:I Care A Lot)
Staff ">Cast & Staff
監督:J・ブレイクソン/出演:ロザムンド・パイク、ピーター・ディンクレイジ、エイザ・ゴンザレス、ダイアン・ウィースト他/12月3日(金)より、全国劇場【3週限定】公開中&デジタル配信中/配給:KADOKAWA
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2022年1月号に掲載した記事を再編集したものです。
真魚八重子(まな・やえこ) 映画著述業。『映画秘宝』、朝日新聞の映画欄、文春オンライン等で執筆中。著書『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『映画なしでは生きられない』『バッドエンドの誘惑』(共に洋泉社)も絶賛発売中。
SERIES連載
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