
気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に長谷川町蔵さんが解説します。
今月の1本
『カオス・ウォーキング』(原題: Chaos Walking)をご紹介します。
※動画が見られない場合は YouTube のページでご覧ください。西暦2257年、そこは汚染した地球を旅立った人類がたどり着いた「新天地」のはずだった。だが、男たちは頭の中の考えや心の中の思いが「ノイズ」としてさらけ出されるようになり、女は死に絶えてしまう。この星で生まれ、最も若い青年であるトッド(トム・ホランド)は、一度も女性を見たことがない。あるとき、地球からやって来た宇宙船が墜落し、トッドはたった一人の生存者となったヴァイオラ(デイジー・リドリー)と出会い、ひと目で恋に落ちる。ヴァイオラを捕らえて利用しようとする首長から、彼女を守ると決意するトッド。2人の逃避行の先々で、この星の驚愕の秘密が明らかになっていく──。
男性の心の声が聞こえる惑星での逃避行を描く
人類が地球外の惑星「新世界」に移住してから一世代が経過した2257年を舞台にしたSF映画。
そんな事前情報だけで本作を見たなら、もしかすると拍子抜けしてしまう かもしれない 。というのも、本作で登場人物が用いるテクノロジーは現在よりも後退しているからだ。なぜ後退したのか?―理由の一つは、「新世界」の奇妙な環境にある。この惑星では、人間が頭で考えていることが勝手に音声や映像で実体化してしまう。つまり、思考が他人に筒抜け状態なのだ。劇中で「ノイズ」と呼ばれるこうした現象に囲まれて生きていくには、カリスマ的な指導者の下で団結していくしかない。本作の主人公トッドは、そんなコミュニティーで育った少年である。
物語は、彼が宇宙からやって来たというヴァイオラと偶然出会ったことから始まる。トッドは、ヴァイオラが何を考えているか一切分からないことに驚愕する。実は「ノイズ」が発生するのは男性だけ。つまり彼は生まれて初めて女性と出会ったのだ。しかし、これをよしとしないコミュニティーのリーダーや牧師が、2人の前に立ちはだかる。
もう、分かったはず。本作はSF的な設定を借りながら、既成概念や宗教、その他「大人の論理」といったものをいかに乗り越えて、人間が他者と理解し合うかを寓話的に描いた作品なのだ。こうした設定だと、男性が女性に対して抱く性的妄想が延々と描かれるのではと 懸念 してしまう かもしれない 。だがトッドとヴァイオラを、それぞれトム・ホランドとデイジー・リドリーという良い意味で色気がない2人に演じさせたことで、こうした問題点をクリアしている。
原作は、パトリック・ネスが2008年に発表したThe Knife of Never Letting Go(『心のナイフ』)。本作で、ジェンダーへの理解に貢献したSF・ファンタジー文学作品に送られる「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞(現アザーワイズ賞)」を受賞している。
Chaos Walking)">『カオス・ウォーキング』(原題: Chaos Walking)

Staff ">Cast & Staff
監督:ダグ・リーマン/出演:トム・ホランド、デイジー・リドリー、マッツ・ミケルセン他/11月12日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他にて公開/配給:キノフィルムズ
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年12月号に掲載した記事を再編集したものです。
長谷川町蔵(はせがわ・まちぞう) ライター&コラムニスト。著書に『あたしたちの未来はきっと』(タバブックス)、『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワーブックス)、『文化系のためのヒップホップ入門3』(アルテスパブリッシング)など。
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