「懐を直撃」は英語でなんて言う?アメフトとビジネスの関係から学ぶ3つの英語表現

「懐を直撃」は英語でなんて言う?アメフトとビジネスの関係から学ぶ3つの英語表現

プロ通訳者の関根マイクさんが、さまざまなスポーツにまつわるストーリーと英語表現をご紹介する連載です。大のスポーツ好きの関根さんの熱い語りで、スポーツの知識も英語も学べ、まさに一挙両得!第9回はアメフトとビジネスの関係に学ぶ英語表現です。

アメフトの魅力がわかるハイライト動画

米国のメジャースポーツの中でも、リーグの価値と人気が最も高いと言われているのがNational Football League(NFL)というアメリカンフットボールのプロリーグです。日本でも一部の試合が地上波で放送されているものの、知名度はお世辞にも高いとは言えません。「アメフト?なんか聞いたことあるけど、それおいしいの?」レベルの読者は、とりあえず昨シーズンのハイライト動画を視聴して見てください。慣れないとルールがわかりにくいのですが、とりあえずは(思いっきり乱暴な要約ですが)「ボールを前に投げてもいいラグビーのようなもの、ただしタックルが成立した時点でプレーが止まって仕切り直す」という感じで考えてもらえれば。

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差別的な名称「レッドスキンズ」を変更しなかったわけ

現在はオフシーズン中で、9月10日に今年のシーズンが開幕する予定なのですが、新型コロナウイルスの影響でかなり怪しくなってきました。アメフトはテニスやゴルフなどと異なり、濃厚接触が大前提のスポーツなので、今の状況から考えると通常開催は困難。悩ましいところです。

これとは別に、5月25日に無抵抗の黒人ジョージ・フロイド・ジュニアが白人警官に殺害された事件をきっかけに、全米でBlack Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター、以下「BLM」)運動が再び勢いを増し、6月以降は人種を超えたあらゆる差別に対する運動に発展していきました。それが後にNFLチームを巻き込んだ大騒動になるとはおそらく誰も予想していなかったのではないでしょうか。

1932年に創設したワシントン・レッドスキンズ(Washington Redskins)は、「レッドスキン(赤い肌)」が先住民族の蔑称であるにもかかわらず、90年近くその名称で運営されてきました。2000年代に入ってから一部の活動家・団体から目立って批判されたものの、世論を動かすには至らず、オーナーのダン・スナイダーがかなりの頑固者ということもあり、大きな運動にはならず自然消滅していった過去があります。それがBLM運動の広がりにより、最注目されました。明らかに差別的であり、先住民族にとっては屈辱的な名称なのに、なぜスナイダーは名称変更をしなかったのでしょうか。3:50あたりから。

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… it would affect his bottom line if he changed it …

名称変更すれば利益が損なわれる

チームのブランド価値を形成する要素に「歴史」や「伝統」がありますが、スナイダーは何十年も持ち続けたレッドスキンズという名称を変えることでブランドが損なわれ(たとえばグッズ販売から得られる利益が減るとか)、チームの資産価値が減少すると考えていたようです。

ですがこれまでと違って、今回の運動は消滅するどころか大きなうねりとなり、ついにはナイキ(Nike)、フェデックス(FedEx)、ペプシコ(PepsiCo)などチームの有力スポンサーが「名称変更がなければスポンサー契約を解除する」と発表するに至りました。下記動画の0:38が象徴的です。

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as the old saying goes, money talks and bullshit walks 

・・・カネはものを言い、たわごとに価値はない、という古いことわざがあってね・・・

2013年に「名称を変えることは絶対にない、死んでもない」と断言していたスナイダーも、有力スポンサーが離れてしまうとさすがに困る。プロスポーツチームにとってスポンサー料は大事な収入源であり、知名度があるグローバル企業が離れるとブランドイメージにも大きな傷がつきます。頑固なオーナーもビジネスマンですから、さすがにそれは避けたい。(おそらく)スポンサーをつなぎとめるため、スポンサーの「最後通告」直後の7月13日にチームは名称変更を正式発表しました

これでとりあえずは一件落着かと思われましたが、数日後には組織内で横行するセクハラやパワハラが15人の元職員により明るみに。チームの監督ロン・リヴェラは、娘がチームで働いているということもあり、速やかな対応を約束しました。これはこれでよかったのですが、名称変更の件といい、都合が悪いとすぐに雲隠れして声明すら出さないオーナーにメディアは批判を緩めません。「これは組織文化の問題なのだから、オーナーが表に出て謝罪するのが筋だろう」と各メディアは主張します。The Undefeatedのジェイソン・リードもダン・スナイダーの責任を追及しています。3:00あたりから。

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… these things happened on his watch.

・・・これらの事件は彼の管理下で起きたことだ。

この原稿を書いている7月末の時点で、スナイダーはまだ姿を現していません。17日に社内メモで職員に謝罪しただけです。事件が風化するのを待つ戦略なのでしょうか。

さて肝心のチーム名ですが、2020年シーズンは「ワシントン・フットボールチーム」としてプレーすることが決定。おそらく時間をかけて新しい名称を検討し、来年発表するのでしょう。アメリカにはプロスポーツだけではなく、大学や高校なども含めると結構きわどいチーム名が存在するので、今後の展開に注目です。

お金とアメフトから学ぶ3つの英語表現

bottom line

企業の損益計算書(P/L)の一番下には当期純利益が記載されるのですが、もともとはそれを指しています。いくら売上(top line)が増加しても、利益が残らなければ企業活動は継続できません。ですから今回の例のようなaffect his bottom line …は「利益が損なわれる」とも訳せますし、「懐を直撃」のような砕けた表現とも考えられるでしょう。

ちなみに、お金とは関係ない文脈で the bottom line is …と言ったら、「要は~」とか「結論としては~」という意味になります。

money talks, bullshit walks

English Journalでbullshit(テレビなどでは略してBS「ビーエス」ともいう)を紹介したらあとで怒られそうなのですが、怒られたら焼肉で解決できることを祈って。

このことわざ、通常はmoney talksだけを言うことが多いです。後半部分はどうしても汚い言葉になってしまうので。このwalksは、たわごとを言っても何も動かないので、寂しく退散するしかない、的な意味合いなのでしょう。

on one’s watch

watch自体が「管理」とか「監視」の意味を持つので、物理的に管理・監視する状況でも使えますが、それ以外でも「責任を持つ」という意味でも使えます。たとえばI won’t allow this project to fail on my watch.と言ったら、「オレが責任者である限り、このプロジェクトは絶対に失敗させない」という意味になるでしょう。

ちなみに第3回で書いたアストロズの不正行為の件のその後。数日前にメジャーリーグがやっと開幕したと思ったら、さっそく報復が始まりましたよ(見ればわかる)。これがシーズンを通して続くのでしょうか・・・。

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「スポーツと英語!」過去の連載はこちら

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関根さんが本業の通訳について語る連載はこちら

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関根さんの本

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関根マイク

文・関根マイク(せきねまいく)
フリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。FIFA(国際サッカー連盟)公式通訳者。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」http://blogger.mikesekine.com/