教会なのに異例の面白さで10万人以上のフォロワーを獲得し、広く一般に大人気のTwitterアカウント「上馬キリスト教会(@kamiumach)」。その運営を行う「まじめ担当」と「ふざけ担当」のうち、まじめのMAROさんによる連載「聖書で英語!」では、聖書からキリスト教と英語について楽しく紹介します。第2回は、聖書の醍醐味(だいごみ)とも言える「山上の説教」から見るblessの使い方です。
「山上の説教」の有名な「~な人は幸い」という英語表現
こんにちは。MAROです。
聖書から英語を学んでしまおうというこのコラム、第2回の今回は、聖書の中でも最も有名と言っても過言ではない「山上の説教」から、いくらか英語のお話をしようかと思います。よろしければお付き合いくださいませ。
「山上の説教」 は別名「山上の垂訓」で、イエス様が行った説教の中でも最も有名なものです。英語では Sermon on the Mount と言います。
「悲しむ人は幸いです。その人は慰められるからです」 というフレーズは、あまり聖書に触れたことのない人でも聞いたことがあるのではないでしょうか。このフレーズの前半は英語の聖書では次のようになっています。
Blessed are those who mourn .この短いフレーズの中には、 倒置法 と 関係代名詞 という重要な英文法が2つも含まれています。
blessed (祝福される)」に">日本語の「幸い」が英語では「 blessed (祝福される)」に
面白いのは、「マタイの福音書」の5章3節から11節まで、この Blessed are ~.というフレーズが9回 も連続して現れるところです。
「心の貧しい者」「悲しむ者」「柔和な者」「義に飢え渇いている者」「あわれみ深い者」「心のきよい者」「平和をつくる者」「義のために迫害されている者」「わたしのために悪口雑言を言われたりする者」に対して、すべて Blessed are ~.という表現が使われ、「幸いである」と聖書は繰り返し宣言しています。
日本語では 「~は幸いである」 と訳されていますが、 英語では blessed という語が用いられているところが面白いなと思います。
blessは 「祝福する」 という意味の動詞で、 blessed はその受動態の「祝福される」という意味です。「幸いである」と「祝福されている」は確かに似た意味の言葉ではありますが、少しニュアンスが違いますよね。
「悲しむ者は幸いである」と「悲しむ者は祝福されている」の違い、さらには「祝福されています、悲しむ者は」と倒置したときの違い、この辺りの 差を楽しむのが、英語と日本語両方で聖書を読むときの醍醐味 です。
「醍醐味」を英語で言うと?
ちなみに 「醍醐味」は英語では、 the best part や real pleasure などのほか、 real charm と表現できます。「本当の魅力」という意味ですね。
さらに ちなみに 、「醍醐」というのは昔の日本で食べられていたチーズのようなもので、乳の味が凝縮されていることから、何かの魅力を凝縮させたもの、という意味で「醍醐の味、醍醐味」となったのだそうです。あえて直訳すればtaste of cheeseとでもなるでしょうか。普通に訳せばessenceでしょうけれど。
今回取り上げている「山上の説教」は、聖書の中でも特にその魅力がぎゅーっと凝縮された、まさに「醍醐味」な部分の一つです。
くしゃみをした人に掛ける決まり文句
さて、先ほどのblessという言葉は、英語ではとてもよく使われます。
例えば、誰かがくしゃみをしたとき、英語圏では周りの人がその人に Bless you! と声を掛ける習慣があります。
この習慣の由来には諸説ありますが、一説には昔、ペストが流行したときに、その初期症状の一つとしてくしゃみがあったので、「ペストでありませんように、神様の加護を祈ります」という意味で使われ始めたというものがあります。
・・・と言うと、ちょっと大げさにも思えますが、日本文化に置き換えれば 「お大事に」 くらいの意味です。
その昔、アメリカに住んでいた頃に、窓の開いたキッチンでこしょうを吸い込んで大きなくしゃみをしてしまいました。するとそれが隣のマンションにまで聞こえたようで、隣のマンションからBless you!と叫ぶ声が聞こえてきました。 Thank you !と大きな声でお礼を言いました。ささいな出来事ですが、楽しい思い出になっています。
もう一つ、日常でよく使うblessの用法といえば、 手紙やメールの最後にGod bless (you). と添えることがあります。これは日本語の手紙の最後に書く「敬具」や「かしこ」、あるいは「お体にお気を付けください」とか「さらなるご活躍をお祈りしております」くらいの意味です。
幸福を呼ぶ込むには反対の意味の言葉を使う!?
ただし 、演劇や音楽のステージなど、芸事をやる人を励ます際にblessを使うのは少し「ヤボ」で、そういうときは Break a leg! を使います。
直訳すると「脚を折ってしまえ」で、呪いの言葉のようにも思えます。しかしこれは西洋の迷信で「劇場で幸運を祈ると悪運がついてしまう」というものがあり、それを避けるために あえて呪いの言葉を投げ掛けて、幸運を呼び込む という意味があるのだそうです。
日本でも 落語では、お正月にはあえて縁起のいい演目はやらない、という風習 があったのだそうです。正月から景気のよい話ばかりしていると、福の神様が怒るとかなんとか。
洋の東西を越えて、似たような「験担ぎ」みたいなものはあるのですね。そんな共通点を探すのも、英語と日本語で同じ文献を読み比べるtaste of cheeseですね!
今回の聖書英語フレーズ
Blessed are those who mourn , for they shall be comforted.倒置法 に 関係代名詞 、さらには mourn なんていう、ちょっと格調高い、上品な、上流階級な、知的な、セレブっぽい表現もマスターできてしまうおいしいフレーズです。悲しむ者は幸いです。その人は慰められるからです。(マタイ5:4)
さらに後半には becauseの代わりとしての for の用法も出てきます。becauseって、あんまり多用するとちょっとしつこい感じがしてきますし、いかにも「英語初心者」な感じもします。適度にこの for を交ぜ込むと、すっきりした、こじゃれた、洗練された、もはや初心者ではない、ソフィスティケイテッドな(英語のコラムなのにあえて片仮名)、表現になります。
それではまた次回。MAROでした。God bless!
※聖書の出典:日本語『聖書 新改訳2017』、英語“Holy Bible: New King James Version” 1983
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上馬キリスト教会ツイッター部 MARO 1979年東京生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、バークリー音楽大学CWP卒。キリスト教会をはじめ、お寺や神社のサポートも行う宗教法人専門の行政書士。キリスト教ではない家に生まれ、23歳のときに洗礼を受けた「クリスチャン1世」。Twitterアカウント「上馬キリスト教会( @kamiumach )」の運営を行う「まじめ担当」と「ふざけ担当」のまじめの方でもある。2015年2月からキリスト教を面白おかしく紹介し始めたところ10万人以上のフォロワーを獲得した。
「ふざけ担当」LEONとの共著に『 上馬キリスト教会の世界一ゆるい聖書入門 』、『 上馬キリスト教会ツイッター部の世界一ゆるい聖書教室 』(共に講談社)がある。単著に『 上馬キリスト教会ツイッター部の キリスト教って、何なんだ? 本格的すぎる入門書には尻込みしてしまう人のための超入門書 』(ダイヤモンド社)。
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