あなたはどっち?通訳者に向く人、向かない人

トーキョー通訳日誌

通訳・翻訳者で、エディ・レッドメインやエド・シーランなどの通訳や英語インタビューも行う川合亮平さんの連載「トーキョー通訳日誌」。川合さんが体験したリアルな通訳現場のお話を通して、通訳者として成長していくための「仕事のやり方」や「英語学習法」などを教えていただきます。第4回では「通訳者に向く人、向かない人」についてお話します。

こんにちは、川合亮平です。

僕は、通訳者というのは他人の人間性が透けて見えやすい職業だなぁと常日頃思っています。

例を挙げましょう。

英語を話すEグループと日本語を話すJグループが出席する会議があった場合、その両方のグループのコミュニケーションの橋渡しをするのが通訳者の仕事になります。

このような会議の場合、もちろんケースバイケースではあるのですが、基本的には、EグループとJグループ両者にとっての優先事項としては、

  • 自らの主張を通す
  • 相手の意見を理解する
  • 相手にいい印象を与える
  • 対話を通じて目標を達成する
  • 相手とのコミュニケーションを楽しむ

などが主なものになってくるでしょう。

(異言語間の)会議というシステムにおいて、通訳者は必要不可欠な存在であることに違いはないのですが、一方で、個別のパーソナリティを持たない機械的な存在であるともいえるのです。

通訳者の個性や主張がその会議上で顔を出すべきではない、ということですね(当たり前のことですが)。

つまりEグループとJグループにとって、通訳者は完全なる「黒子」です。

多少ドライな見解かもしれませんが、EとJにしてみると、取り立てて利害関係のない黒子の通訳者に対して、愛想をよくしたり、気遣ったりする必要性はないということになります。

一応断っておきますが、僕は通訳者として現場で愛想よくしてもらいたいとか、もっと気遣ってもらいたいと主張しているわけでは決してありません。

僕がここで言いたいのは、デフォルトが黒子である通訳者に対して、あえて感謝の言葉を掛けたり 、親切な気遣いをできる人というのは人間的にできていると思うし、個人的に尊敬に値する、ということなんです。

多少意地悪で穿った(うがった)見方になってしまうかもしれませんが、僕は通訳者として、黒子である僕への態度でその人のある程度の人間性が推し量れると実感しています。

まあ、どんな立場の人に対しても公平に丁寧に、礼儀正しく接する、というのは他ならぬ自分自身への戒めでもあるのですが・・・。

 

先日、ある1つのツイートが目に留まりました。

沖縄県の玉城デニー知事のある行動が報道され、それについてのポジティブな称賛ツイートです。

緊急事態宣言に伴う沖縄県の対応を説明する記者会見において、会見場に知事が姿を現し、壇上に向かう途中、手話通訳者の前を横切った際、玉城知事が通訳者の方に対して「ありがとう。よろしくお願いします」と手話で伝えた、という報道です。

詳しくお知りになられたい方はこちらをご参照ください。

ryukyushimpo.jp

その存在自体がスルーされがちな通訳者としての僕の経験を踏まえて、 手話通訳者の前を(タダでは)スルーしなかった玉城知事にhats off*1します。

こんな人は通訳者に向いている・向いていない

通訳者は現場においてなくてはならない存在ですが、基本的には黒子であり、どのグループにも属していないアウトサイダー*2です。

ですので、帰属しない孤独な立ち位置をよしとできる人は向いていると思いますし、そういう立場が苦手な人はもしかしたら向いてないかもしれません。

また、前述の玉城知事の行動があれだけ話題になるということは、「(手話)通訳者はスピーカーから感謝されないのが当たり前」という一般認識があるからこその裏返し反応、と捉えられるかもしれません。

影の立役者に徹し、きっちり仕事をこなし、労を(ことさらに)ねぎらわれることもなく静かに現場を後にする、そういうのが僕の中の現実的な通訳者像です。

自分の意見を主張しないと気が済まない、グループの中である程度の脚光を浴びたい、パフォーマンスに見合う分だけの表立った称賛を得たい、そういう方はもしかしたら通訳者に向いていないかもしれませんね。

とまれ 、ここまでやや画一的な論を展開してきましたが、もちろん例外もあります。

実は僕自身はかなりの目立ちたがり屋(アテンション・シーカー)の性質を持っています。

え?そういう人は黒子の通訳者に向いてないんじゃなかったっけ?

そう思われたあなた、その通りです。

その通りなんですが、僕の場合、通訳という行為自体に他では得られないやりがいを感じているのです。

だから、まったく目立たない黒子でも、アウトサイダーでも、感謝されなくても、気にならない、というか、そういうマイナス面を補って余りあるプラスがあるから継続的に、意欲的に稼働できているんだと自分なりに分析しています。

まあこれはどんな職業でも同じかもしれませんね。

個人にとって100%完璧で完全無欠の職業なんてたぶん(おそらく・・・)ないと思います。

どんな職業でも、大なり小なり、さまつなマイナス面はいろいろあると思いますが、それはそれとして、職業のコアの部分に喜びを感じられるかどうか、という部分が自分と職業の相性を測る上で最重要項目になるのだと想像します。

僕の経験上、現場で不当(と感じられるよう)な扱いを受けたり、「ちゃんと訳してる?」とか、「ちょっと、あなたの日本語よくわからないんだけど」というような通訳者にとってかなりグサッときてもおかしくない言葉をもらうこともたまにあります。

「いいボディ食らったなぁ」という感じです。

僕は気性が激しい方なので、そんなときは自分の気持ちを整えるのに必死なんですが(気持ちが乱れたらいい通訳ができないですからね)、そういう体験は全部ひっくるめて自分自身を奮起させるバネにするように決めています。

具体的には、「そんな口、二度と聞けないくらいに実力を上げてやる」という思いを燃料にして通訳力向上(勉強)にガツガツ励む、ということですね。

人の言葉にいちいち落ち込んでる時間もエネルギーももったいないです。打ちのめされたらそれをバネにして進む、褒められたらそれを糧にして進む。

どちらにしても前進あるのみ、です。

そういう図々しさというか、図太さも、何が起こるかわからない生ものの現場で日々稼働している通訳者にとっては大切な要素なのかもしれません。

本質を楽しめているかどうか

日英・英日通訳者という職業の本質は、英語を日本語、日本語を英語にその場で声に出して訳すということです。

その部分に喜びを感じられていれば、または、楽しみを感じられてさえいれば、その他の事はネガティブであれ、ポジティブであれ、取るに足りない至極(しごく)小さな事、なのかもしれません。

とはいえ 、通訳者冥利(みょうり)に尽きるポジティブな経験、映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズでもおなじみのエディ・レッドメイン氏から、息が触れるくらいの超近距離&満面の笑みで“Lovely to meet you.”と言っていただいたことや、伝説的ドラマ『新スタートレック』のジョナサン・フレイクス氏に”He’s a keeper.(次回も彼に絶対お願いしたいね)”と言っていただいたこと、そんな思い出の数々が前に進んでいくための原動力になっている事は間違いありません。

では、また次回の記事でお会いしましょう。

川合亮平でした。

 

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川合亮平

文:川合亮平(かわい・りょうへい)
通訳者。エディ・レッドメイン、ベネディクト・カンバーバッチ、マーティン・フリーマン、エド・シーランなど、俳優・ミュージシャンの通訳・インタビューを多数手掛ける。関西のテレビ番組で紹介され、累計1万部を突破した『「なんでやねん」を英語で言えますか?』(KADOKAWA)をはじめ、著書・翻訳書・監修書は現在11冊。

イギリス関連の記事:https://www.british-made.jp/author/kawai

*1:hats off:敬意を表す

*2:集団・組織の外部の人。部外者。