英語学習に「英字新聞」を活用するコツ5~『Japan Times Alpha』編集長が教えます

※ 本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年7月号に掲載した記事を再構成したものです。

リアルタイムで学べる英字新聞の魅力

英語学習において、アウトプットと同等に英語学習において、アウトプットと同等に重要なのがインプットです。中でもリーディングは、英語の理解力や表現力を付けるという意味でも欠かせません。ミステリー好きなら「シャーロック・ホームズ」を読む、映画が好きなら海外の映画雑誌を読むのもよいでしょう。ただ、ニュースという素材の魅力は、世界や日本で今まさに起きていることが教材だということ。英字新聞を読むことの醍醐味はそこにあります。

新聞に書かれている時事問題は、私たちの日常会話や雑談で話題になることもしばしば。そういう意味では、英字新聞を読むことは英語のスピーキングの力、雑談の力にもつながると言えるでしょう。例えば、「コロナウイルス陽性だった」を英語で言うならtested positive for the coronavirus。「今」に関わる表現は、英字新聞を見れば必ず出てきます。新聞というメディアは常に新しい事象を取り上げるので、新しいボキャブラリーが付随します。それをリアルタイムで学べるのは、英字新聞の魅力と言えるでしょう。

活用術1:語彙力を養う

同じ言葉をさまざまな文脈で使いこなす

多くの場合、単語は単体で使われるわけではありません。実用のためには、コロケーションと呼ばれる前後の結び付きを覚える必要があります。例えば「陽性」はpositiveとだけ覚えて終わるのではなく、test positive for ~で「~に対して陽性だと分かる」ということまで理解しておけば、他の文脈でも使えるようになります。

語彙力を身に付けるのにおすすめなのは、やはりリスニングです。例えば『The Japan Times Alpha』の一部の記事は、ウェブサイトで音声をダウンロードできます。ニュースを繰り返し100回読むことはハードルが高いかもしれませんが、100回聞くのであれば、スマホやプレーヤーに入れて再生するだけ。一度学習した音声であれば、「ながら学習」でも、結構耳が拾っているものです。

語彙力アップに単語帳を使うのであれば、自分が触れた文章の中で、知らなかった単語だけを抜き出して自作するのが効果的です。その際、英英辞典を参考に英語の定義も書くとよいでしょう。それぞれの単語にはコアイメージというものがあります。英単語の日本語の訳は、文脈や訳す人によって変わるので、そうした訳を一つ一つ覚えるのは非効率的ですが、英英辞典はその単語のコアイメージを的確に説明しています。本当の定義を知るには英英辞典がおすすめです。

活用術2:スピードを上げる

直読直解には多読が効く

ネイティブスピーカーは1 分間に160ワード前後を発話するといいます。そのため、ネイティブの発話スピードに付いていくには、頭の中で瞬時に理解する処理能力が求められます。スピード感を養うなら、英字新聞などで多くの英語に触れる「多読」が有効でしょう。まずはストレスなく読めるレベルの英語をたくさん読みましょう。しっかり理解できるようになったら「音読」へ。左から右に、英語の語順どおりに理解するトレーニングになります。日本語と英語は語順がまったく違うので、いちいち日本語に置き換えているとスピードが遅くなってしまいます。

リスニングも、スピードを養うのに有効なトレーニングです。音読のときに行う直読直解と同様、聞こえてくる順番どおりに理解しなくてはならないからです。まず、いろいろな英語の文章に触れましょう。多読をして、その文章を理解したら音読をする。さらにその音声を繰り返し聞くことで、日本語に訳さず語順どおりに理解する力が養われ、おのずと読むスピードは速くなっていきます。

活用術3:情報処理力を磨く

「木を見るより森を見る」が大切

分からない言葉が出てくると、その都度辞書に頼りがちですが、多読に関しては辞書を引かない方がいいでしょう。普段、私たちが日本語で会話するときは、知らない言葉にいちいち立ち止まって質問せず、文脈から推測して全体を理解しようとしますよね。英語を読むときも、同じように推測力を働かせて先へ進む方が情報処理力は高まります。どうしても気になる単語がある場合は印を付けて、後で辞書を引くとよいでしょう。

英字新聞を読むときは、興味のある記事だけを辞書を引かずにサラッと読んでいくのも手です。人によって趣味嗜好(しこう)は違います。興味のないものは飛ばしてしまう方が、無理なく継続につながります。興味のある記事は、多読後に精読もしましょう。知らない単語は辞書を引き、完璧に理解するのです。

「木を見て森を見ず」にも気を付けなくてはいけません。先日、オリンピック延期のニュースに、安倍首相がバッハIOC 会長と「中止はないと確認した」という文がありました。confirmed that ~とあれすぐに理解できる内容が、confirmed with Bach that ~となっていました。間にwith Bach があるだけで、「どういう意味だろう?」と、細部(木)に気を取られて全体(森)が見えなくなったのです。情報処理力を高め、一語一語にとらわれずに全体を見渡せる力を付けましょう

活用術4:表現力を高める

自分が使いこなせない表現を洗い出す

「自分がこの英語を使うとしたら、果たして使えるだろうか?」と、アウトプットを念頭に置いてインプットすることが最も効率よく表現力を高める方法です。「使えないだろうな」と思ったときはすぐにメモ。言いたいけれど言えなかった表現や、読んでいて自分では使えそうにないと感じた表現をメモしておくと、意外と記憶に残るものです。

また、記事を読み終えたら、3文程度に要約してみましょう。慣れないうちは本文から大事と思える文をそのまま抜き出すのでもオーケーです。要約を通じ、本文の表現を自分でも使ってみることが大事なのです。「本文をなぞるだけでも勉強になるの?」と思うかもしれませんが、ただ読むだけなのと、要約を通して自分で使ってみるのとでは大きな差があります。読んでインプットしたものを要約という形でアウトプットする。これを1年繰り返せば、相当力が付きますよ。

活用術5:学習者向け英字新聞で語学を継続する

続けることが力になる

『The Japan Times Alpha』では、Newsのコーナーに関しては学習者向けにオリジナルをリライトしている記事はほとんどありません。「Easy Reading」というコーナーで取り上げるものには、一文を短くするなどのリライトを加えていますが、ほかは語注を付ける程度です。

ただ、1つの記事の長さはだいぶ違います。日刊『The Japan Times』では1000ワードほどになる内容の記事でも、Alphaに掲載する際は半分ほどの長さにします。短いものは100 ワード程度ですから、スラスラ読めるようになると40秒ぐらいで、中高生でも1分少々で読めるボリュームになっています。また、一部のニュースについては、耳を鍛えるための音声素材を会員制サイトで提供しています。

Alphaは、ニュース記事以外に読み物や学習コンテンツが豊富なことも特長の一つです。読者が好きなコンテンツを選んで読めるよう、バラエティー豊かな構成になっています。メインターゲットはビジネスパーソンですが、小学生から100歳を超えるお年寄りにまで幅広く愛されています。記事の概要を日本語で入れたり、学習コンテンツとして表現クイズを設けたりと、英語学習者が気軽に、自分に合った使い方ができる工夫を織り込んでいます。

「子どもがエンタメの記事しか読まない」と嘆くお母さんから相談を受けたこともありますが、「エンタメだけでも構わないので読み続けて」とアドバイスしました。好きなコーナーだけでも毎週読み続けていけば、必ず力になります。

英語ニュースにチャレンジ①

[和訳]科学者は、現在のカナダ東部に当たる河口の浅い水域をはっていた約3億8000万年前の魚の太いヒレの中に、人間の手の進化的起源となるものと彼らが呼ぶものを発見した。

研究者は、Elpistostege watsoniと呼ばれる魚の見事に完全な化石を調査した。それは、魚から陸上脊椎(せきつい)動物への移行という地球の生命史上で重要な段階を示している。

Elpistostegeのような頑丈なヒレを持つ魚 から後に進化した初期の両生類ではなく、魚にそうした性質が発見されたのは今回が初めてだ。

『The Japan Times Alpha』 2020.4.10号より

英語ニュースにチャレンジ②

[和訳]2003年から2006年の間にがんの診断を受けた患者10年生存率は、57.2%となり、前回調査から0.8%ポイント上昇したと、国立がん研究センターが3月17日に発表した。

2002年から2005年に診断された人の生存率からの上昇は、同センターが1990年代後半にデータを集め始めて以来、平均余命の増加傾向を継続させ続けている。早期発見技術の向上と、特定のがん細胞を狙った薬物療法といった治療法の選択肢の改善が助けとなっている。

10年間の調査は、がん治療を専門とする全国の20ほどの病院で診断と治療を受けたおよそ8万人の患者を対象とした。

『The Japan Times Alpha』 2020.4.10号より

旬な話題で力を磨く英字新聞

The Japan Times Alpa

時事英語を大量に読み込むことを通して、リアルな 英語の習得を目指すことがコンセプトの英語学習者 向け英字新聞。「日本語の注釈付きで効率的に読め る」「エクササイズが充実している」 「楽しみながら 英語に触れるコンテンツ満載」などの特長を持ち、 入試・検定試験はもちろん、ビジネスや通訳の現場 にも通用する英語力が養えます。

絶対に目標達成したい人、 必読

英語 最後の学習法――英字新聞編集長が明かす「確実に効果の出る」 メソッド

英語学習者向けの週刊英字新聞『The Japan Times Alpha』編集長が、英語の勉強につい て迷っている人、過去に挫折したことのある人に贈る学習法の本。英語学習に対する誤った思い込みを正し、「ネイティブの話すスピ ードについていく英語の処理能力を身に付け 「るには?」「頭に入れるだけでなく、忘れない最強のインプット法とは?」など、目的に到達するためのノウハウを丁寧に解説します。

高橋敏之(たかはし・としゆき)
高橋敏之(たかはし・としゆき)

英語学習者向けの週刊英字新聞 『The Japan Times Alpha』 編集長。慶應義塾大学卒業後、大学入試予備校英語講師、英語教材編集者を経て、2007年にジャパンタイムズ入社。『週刊ST』(Alphaの前身)編集部で 国際ニュースページや英語学習コラムの執筆など等を担当し、2012年より編集長を務める。本職の傍ら、企業・大学等での英語研修や講演も多数実施。仕事柄、大量の英文メディアに日々触れる過程で、単語の使い方を深く知ることが英語力アップの鍵だという確信を持ち、単語の用法を徹底的に観察。そうして身に付けた知識を伝えることを、今後のライフワークにしたいと考えている。モットーは「単語学習は人付き合いと同じ。深く付き合わないと本当のことは分からない」。TOEIC 990点、英検1級、 動物検定3級。趣味は最近始めたウクレレ。

取材・文:吉澤瑠美
トップ写真:山本高裕(ENGLISH JOURNAL 編集部)

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