英語は、楽しい文学や映画、コメディーなどに触れながら学ぶと、習得しやすくなります。具体的な作品を取り上げて、英語の日常表現や奥深さを、シェイクスピア研究者で大学准教授、自称「不真面目な批評家」の北村紗衣さんが紹介します。連載「文学&カルチャー英語」の第5回は、単語や構文は難しくないのに理解しづらいジョークです。
読解が最も難しいのはジョーク
今回はちょっと趣向を変えて、文法や表現はそんなに難解ではないものの、英語の読解としては最もハイレベルだと私が考えているものを紹介したいと思います。それはジョークです。
ジョークは時事問題を扱っていたり、言葉遊びが含まれていたりする ので、相当に英語の運用能力が高い人でもとっさには理解できないものの方が多いと思います。
この記事では、最近の英語のジョークを幾つか取り上げて、意味を解説します。
意味が分かっても笑えない?
スコットランドのエディンバラで毎年、開かれているエディンバラフリンジという舞台芸術祭があります。このフェスティバルは演劇だけでなく、スタンダップコメディー(日本で言う漫談に近いお笑い芸)などの演目もたくさん上演されます。毎年、一番面白いジョークを決める投票なども行われています。
BBCの記事 によると、今年のエディンバラフリンジで1位に選ばれたジョークは、スウェーデンのコメディアンであるオラフ・ファラフェルによる次のものでした。
I keep randomly shouting out ‘Broccoli’ and ‘Cauliflower’ ― I think I might have florets.
難しい単語は1語だけ、最後のfloretsです。これは「花蕾(からい)」、つまりブロッコリーやカリフラワーの先にある小さい花のような部分を指します。直訳すると、次の意味です。
手当たり次第に「ブロッコリー」とか「カリフラワー」とか叫び続けちゃうんだよね。花蕾でもあるのかも。
これだけだと何が面白いのか全く分からないと思います。このジョークのポイントは、floretsがTourette’s、つまり「トゥレット症候群(Tourette's syndrome)」と 韻を踏んでいる ことです。
トゥレット症候群は、本人にはそうする意思がないのに、コントロールできずにののしり言葉や叫び声などを発したり、体が動いたりしてしまう症状があります。
つまり、「ブロッコリー」とか「カリフラワー」とか手当たり次第に叫んでしまうのはトゥレット症候群の症状に似ていますが、ののしり言葉ではなく花蕾がある野菜の名前を叫んでしまうので、自分はトゥレット(英語の発音は「トゥレッツ」)ならぬフロレッツを抱えているのでは、というのがこのジョークの意味です。理解するのにかなりの語彙力が必要です。
映画『ジョーカー』( 別サイト で詳しく書いています)をご覧になっていれば、スタンダップコメディアンを目指しているアーサーが勝手に笑ってしまう症状を抱えていたことを覚えていると思います。アーサーの症状はおそらく トゥレット症候群 か、それに似た症状を呈する 情動調節障害 の一種(あるいは その双方 )です。トゥレット症候群の類は社会生活に深刻な影響を及ぼし、差別の原因になり得ます。
このジョークがエディンバラフリンジで1位になった後、イギリスのトゥレット症候群団体がオラフに抗議を申し入れたことを、 別のBBCの記事 は伝えています。『ジョーカー』を見ていたり、身近にトゥレット症候群の人がいたりすれば、たぶんこのジョークの意味が分かっても面白くは思わないでしょう。
2019年のエディンバラフリンジのジョークで面白かったものの候補一覧は 最初に紹介したBBCの記事 で、全て読むことができます。この中で、英語学習者でも理解できそうで、よく使われる慣用表現が入っているものをもう2つほど紹介したいと思います。
イギリス王室もジョークの種に
ミルトン・ジョーンズによるBrexit(イギリスのEU離脱)についての次のジョークを見てみましょう。
What’s driving Brexit? From here it looks like it’s probably the Duke of Edinburgh.
訳は次のようになります。
Brexitを動かしてるのって何なわけ?ここから見ると、たぶんエディンバラ公みたいに見えるけど。
このジョークは、 driveに2つの意味 があることがポイントです。
最初の文のdriveの意味は「駆り立てる、動かす」です。Whatが主語の疑問文なので、文字通りに解釈すると、「何がBrexitを駆り立てているのか?」という質問になります。
しかしながら、driveには「車を運転する」という意味もあり、その連想でエディンバラ公が出てきます。エディンバラ公フィリップは英国女王エリザベス2世の夫君で現在98歳です。 BBCの報道記事 で読めるように、2019年1月に自分で車を運転中に交通事故を起こしています。
つまり、このジョークでエディンバラ公が出てくるのは、事故を起こすくらい運転がヘタクソだからです。イギリスのEU離脱はあまりにもメチャクチャな経緯をたどっているので、まるで交通事故レベルで、 エディンバラ公が運転しているとしか思えないくらいひどい、という意味のジョークなのです。
フレーズの意味がカギの入門ジョーク
もう一つ、覚えておくと役立ちそうな英語表現が入っているのが、ジェイク・ランバートによる次のジョークです。
A cowboy asked me if I could help him round up 18 cows. I said, ‘Yes, of course. ― That’s 20 cows.’
訳すと次のようになります。
カウボーイが、牛を18頭集めるのを手伝えるかって聞いてきたんだ。「もちろんできますよ、20頭の牛ですね」って言っておいたよ。
この訳だけだと、何が面白いのか全然分かりません。これは、 round upに2つの意味 があることがポイントです。1つ目は「(牛などを)集める」という意味、2つ目は「数字を端数がない形に切り上げる」という意味です。
つまり、カウボーイは最初の意味で言っていますが、答えた人は2つ目の意味で使っていて、18頭という数字を20頭に切り上げているのです。これはジョークとしてはかなり分かりやすい方だと思います。
言語のターゲット層の一員になる
このように、ジョークは、英語表現としては難しくないことが多いのですが、きちんと理解するにはかなりの背景知識が必要です。
外国語の理解力というと、複雑な長い文章を読みこなせるようになるとか、難しい表現を覚えるとか、そういった方向に注意が向きがちです。しかし、実は最も難しいのは、このような文化的背景の部分です。
言葉はほとんどの場合、特定のターゲット層に向けて発せられるもので、 発信する人と受け取る人の間に何らかの共通する文化が想定 されているのが普通です。この共通する文化が全く分からないと、文章自体が全然、理解できないということも起こり得ます。
本当にしっかりと言葉を理解したいのであれば、自分がその言語や文化圏のターゲット層に入る必要があるのです。これは至難の業ですが、普段からニュースなどを読んだり聞いたり、分からないことがあったらまめに調べるようにしたりすることで、少しずつ文化的背景を身に付け、理解力を高めていくことができます。
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注目のシェイクスピア研究者、北村紗衣が、海外文学や洋画、洋楽を、路地裏を散歩するように気軽に読み解きながら、楽しくてちょっと役立つ英語の世界へとご案内。英語圏の質の高いカルチャーに触れながら、高い英語運用能力を得る上で重要な文化的背景が自然と身に付きます。“路地裏”を抜けた後は、“広場”にて著者自身が作問し解説する「大学入試英語長文問題」も堪能できる、ユニークな英語カルチャーエッセイ。
編集:ENGLISH JOURNAL編集部/トップ写真:山本高裕(ENGLISH JOURNAL編集部)
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