2025年の「Word of the Year」は、主要辞書でそろって“ネット空間の変化”を示す語が選ばれました。本記事では、各社の公式発表をもとに、選定語と意味・背景を分かりやすく整理します。
目次
2025年の Word of the Year(主要辞書の発表)
2025年は、各国の主要辞書がそれぞれの視点から「AI時代の言葉」を選びました。以下の表は、各辞書が公式に発表したWord of the Yearをまとめたものです。
| 辞書 | 2025 Word of the Year | ざっくりと意味 |
|---|---|---|
| Merriam-Webster | slop | AIで大量生産される 低品質デジタルコンテンツ |
| Macquarie Dictionary | AI slop | 生成AIによる低品質コンテンツ |
| Oxford | rage bait | 怒り・憤りを意図的に引き出して 拡散/流入を狙う投稿・コンテンツ |
| Collins Dictionary | vibe coding | 自然言語の指示でAIにコードを 書かせる(“雰囲気でコーディング”) |

それぞれ、なぜ2025年を象徴したのか
Merriam-Webster: slop
Merriam-Websterは2025年のWord of the Yearに slop を選びました。slop はもともと「ぬかるみ/泥」や「残飯のような水っぽい食べ物(飼料)」など、“ぐちゃっとした価値の低いもの”を指す語です。近年は、そこから転じて「AIで大量生産される低品質なデジタルコンテンツ」を表す言い方としても広がっています。
“量産できる”ことが価値になりやすいネット環境で、質の低い生成物が可視化された一年だったことを示す選定と言えます。
- definition
digital content of low quality that is produced usually in quantity by means of artificial intelligence(AIによって、たいてい大量に作られる低品質なデジタルコンテンツ)
Macquarie: AI slop
オーストラリア英語の標準辞書として知られるMacquarieは、委員会選定のWord of the Year 2025にAI slopを選出。さらにPeople’s Choice(一般投票)でも同語が選ばれた、と公式に説明しています。
「求められていないのに出てくる」「誤りが含まれることが多い」といった説明も、生成AIの普及局面での“生活者の実感”に近いポイントです。
- definition
low-quality content created by generative AI, often containing errors, and not requested by the user(生成AIで作られた低品質なコンテンツ。誤りを含むことが多く、ユーザーが求めていないのに出てくるもの)
Oxford: rage bait
Oxford Word of the Year 2025はrage bait。rageは「激しい怒り」、baitは「(釣り針の)えさ」=人をおびき寄せる“えさ”という意味で、Oxfordはこの語を「怒りや憤りを引き出すよう意図的に作られたオンラインコンテンツ(通常はトラフィックやエンゲージメントを増やす目的)」と定義しています。
- definition
online content deliberately designed to elicit anger or outrage, typically posted in order to boost traffic or engagement(怒りや憤りを引き出すよう意図的に作られたオンラインコンテンツ。通常はトラフィックやエンゲージメントを増やす目的で作られる)
Collins: vibe coding
CollinsのWord of the Year 2025はvibe coding。vibeは「雰囲気/感じ」を意味し、細かな仕様を厳密に詰めるというより“こんな感じで”とAIに自然言語で指示してコード生成する開発スタイルを指します。Collinsもこの語を“新しいソフトウェア開発”として紹介しています。
プログラミングが「構文を正しく書く」から「やりたいことを言語化して依頼する」へと重心移動していることを、象徴的に表しています。
- definition
an emerging software development that turns natural language into computer code using AI(AIを使って、自然言語の指示をコンピューターコードに変換する新しいソフトウェア開発手法)
他の辞書によるWord of the Year 2025発表
Cambridge Dictionary: parasocial
Cambridge DictionaryはparasocialをWord of the Year 2025に選定し、著名人・インフルエンサー・AIチャットボットなどに対して生じる「一方通行の関係(片方向のつながり)」への関心の高まりを背景として挙げています。
- definition
involving or relating to a connection that someone feels between themselves and a famous person they do not know, a fictional character, or an artificial intelligence(面識のない有名人や架空の人物、またはAIに対して、人が“つながり”を感じる関係に関すること)
Dictionary.com: 67(six-seven)
Dictionary.comは2025 Word of the Yearとして67(“six-seven”)を選定しています。67 はアルファ世代(Gen Alpha:一般に2010〜2024年ごろ生まれ)のあいだで広がった数字スラングです。楽曲のフレーズなどをきっかけにミーム化し、両手を天秤のように動かすジェスチャーとセットで、「まあまあ」「どっちとも言えない(たぶん)」「微妙」などの曖昧な返事として使われることがあります。
同記事では、ニュース見出しやSNSトレンド、検索結果など複数データを分析して選んだことも説明されています。
- definition
a viral, ambiguous slang term used among Gen Alpha; some use it to mean “so-so” or “maybe”(アルファ世代(Gen Alpha)の間で使われる、拡散した曖昧なスラングを指すこと。文脈によって「まあまあ」や「たぶん(どっちとも言えない)」の意味で使われることがある)
まとめ
主要辞書の選定語を並べると、①AI生成物の氾濫(slop / AI slop)、②感情(怒り)を燃料にした注意経済(rage bait)、③制作手段そのものの変化(vibe coding)という流れが見えてきます。
つまり今年は、「何を信じるか」だけでなく「何が見えてしまうか」「何が作れてしまうか」までが、言葉として可視化された一年でした。日々の情報収集や発信でも、見出しや動画の“勢い”に引っ張られすぎず、出典・文脈・意図を一呼吸おいて確かめる——そんな姿勢が、ますます重要になっていきそうです。
