日本で普通に使われている外来語や和製英語。でも、世界から見るとかなり不思議!?アメリカで生まれ、日本で暮らし、博多弁を操る言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、最近日本で見つけた「不思議なエイゴ」をご紹介します。今回は、日本人が大好きな(!?)「Let’s」を取り上げます。
目次
取り入れられやすい英語とは?
私には、ずっと不思議に思っていることがあります。
それは、 なぜある英単語は日本語に取り入れられ、他は取り入れられないのか ということです。
初めてこの疑問を持ったときのことをよく覚えています。
それは「アットホーム」という表現を聞いたときです。友達と話していると、彼女が「アットホームな雰囲気がある」というようなことを言いました。
は?「アットホームな雰囲気」?
at home は英語でも使うことはあるけれど、本当にマイナーな表現です。少なくとも私は、人生に数回しか言ったことがないと思います。英語ではこんなふうに使います。
That place really has an “at home" feel about it.
That place makes me feel at home.
あの場所は本当に居心地がいい。
同じ日に、「ノウハウ」も初めて聞きました。
英語で know-how は、「知識がある」とか「技術がある」という意味ですが、これも結構マイナーな単語です。
言葉は、本当に不思議だなぁと思います。
これらの英単語は ランダムに日本語に取り入れられているように見えるけれど、いくつかのパターンがある と思います。
これからそのパターンを少しずつ話していきたいと思います。
アンちゃんと一緒に、楽しく不思議な英語について考えてみましょう!
日本人の「Let’s遊び」って!?
それでは、先ほどの文章からスタートしてみましょう!
「楽しく不思議な英語を考えましょう」は、英語でなんと言うでしょうか?
これは非常に英語に訳しにくい文章です。
まず「不思議」を辞書で調べると、mysteriousやstrangeのような単語が出てきますが、strange Englishとかmysterious Englishとは言わないですね。ぴったり当てはまる英単語はありません。
次に「考えましょう」。
日本人は、「~しましょう」「~しよう」という表現をめっちゃ使う気がします。「頑張りましょう」「考えましょう」「行きましょう」「しましょう」。
これらは、 日本人の集団意識から生まれてきた表現ではないか と思います。「~しましょう」という表現に、「一緒に」という意味も入っているからです。
例えば「頑張れ!」は、私からあなたにエールを送るという意味だけど、「頑張りましょう!」には、「あなたは一人じゃないよ!一緒に頑張りましょう!」というニュアンスがあります。
「頑張りましょう」を英語に訳すと、
Let’s work together!
Let’s do it together!
になるけれど、正直英語ではあまりLet’sを使いません。
言葉は、文化や世界観から生まれるものです。
集団意識を大事にする日本人は、英語のLet’sが好き過ぎてたまらないようです。どこを見ても「Let’s~」の表記があります。
確かにLet’sを直訳すると日本語の「~しましょう」になるけれど、日本人は 勝手にLet’s遊びをしまくっています 。
あらゆる文法ルールを無視して、 Let’sを自分のものにしている のです。よく、名詞、動詞の進行形、副詞などの前に適当にLet’sを入れています。
こうしたLet’sの使い方は、和製英語です。和製英語は日本語ですから、 日本で使われているLet’sは英語じゃなくて、日本語だと言っていい と思います。
それでは、日本語のLet’sは、どんなふうに使われているのでしょうか?インターネットで検索すると、こんな例が出てきます。
- Let’s thinking!
- Let’s happy
- Let’s goal
- Let’s real
- Let’s sale
- Let’s 55
- Let’s dictionary
- Let’s speedy
- Let’s 和ごはん
- Let’s eco together
- Let’s 増税対策
使い方はめちゃくちゃです。
「幸せしましょう!」「辞書しましょう!」「55しましょう!」など。
私は以前、こうしてやたらにLet’sが使われている状況が相当嫌でした。多くの人と同じようにばかにしていました。今もLet’s happy. を見るたびに笑ってしまいます。
もちろん、正しい英語を必死に取得しようとしている日本人にとって、この適当なLet’sの使い方は大きな妨げになるに違いありません。
けれど 日本人同士で使うと、言いたいこと、つまり「一緒になにかしよう!」ということがすごく伝わりやすい のです。
Let's+動詞の現在形が正しい英語
では、英語で正しくLet’sを使うにはどうしたらよいでしょうか?
本当に簡単です。 動詞の現在形の前に置くだけ です。
- Let’s go.
- Let’s eat.
- Let’s go home.
日本のテレビや雑誌で、動詞の現在進行形の前にLet’sが置かれているのをよく目にしますが、これは間違いです。
×:Let’s eating.
×:Let’s going.
×:Let’s thinking.
また、名詞の前に置かれていることもあります。
×:Let’s English.
×:Let’s trip.
英語では、絶対に目的語の前に動詞が必要です。
〇:Let’s tudy English.
〇:Let’s take a trip.
ただ、英語では、そこまでLet’sを使わないと思います。
私は記事やブログで、よく「アンちゃんと一緒に英語を勉強しよう!」「一緒に頑張ろう!」みたいな日本語を書くけれど、英訳してLet’s study English together. と書くのには抵抗があります。英語で、このような表現はあまり使わないからです。
- OK, let’s go!(行こう。)
- Let’s think about it for a while.(しばらく考えよう。)
- Let’s eat out tonight. (外食しよう。)
などはよく言うけれど、
- Let’s work hard together.(一緒に頑張ろう。)
- Let’s cheer them on.(応援しよう。)
- Let’s study English together.(一緒に英語を勉強しよう。)
などはあまり言ません。
そもそも、「頑張る」「応援する」という日本語にぴったり当てはまる英語はありません。
読者からよく「アンちゃんの活動を応援しているよ!」みたいなことを言われます。すごく感謝していますが、「応援」も「活動」も、英語に訳すことはなかなかできません。
コロナ時代の今よく聞くのは、「頑張っている人を応援しよう!」というメッセージです。
この場合、Let’s cheer for those doing their best.よりは、Let’s give our support to those doing their best during this hard time.のほうがよく聞くと思います。
でもやっぱり、日本語ほどLet’sは使いません。
日本のこのLet’s祭りは本当に不思議です。
前に住んでいた街には、Let’sという名前のスポーツジムがありました。
初めて見たとき、 Let’s what? と思いました。
考えてみて。「しましょう!」という名前のスポーツジムがあったら、バリ笑えるよね?
でも、そのスポーツジムはすごく人気がありました。名前には宣伝力があったようです。よく考えてみれば、スポーツジムなんだから、「何を」しましょうなのか、いちいち説明しなくてもわかるのです。いろいろ言わなくていい日本の文化では、Let’sはふさわしい名前なのです。
「ジムやけん、当たり前やん!言わんでよかろう?!」
確かに、「Let’s exercise」というジムはきっと人気がないでしょう。私も、そんなジムには行こうと思わないかもしれません。
日本語の文化にぴったりな英語が取り入れられる
英語のLet’sが日本語に取り入れられた理由は、 日本語の文化にぴったりな表現だから だと思います。なんでも一緒にすることが好きな日本人は、当然、この「一緒に」という概念を表す英語を好きになります。
ですから、日本人のLet’sの使い方が不思議だと思っている人もいるかもしれませんが、本当はそんなに不思議ではないのです。
日本語は、英語由来の単語を取り入れて、そして、自分のものにしています。このLet’sは、「変な英語」じゃなくて、「面白い日本語」だと言っていいでしょう。
つまり、 これは立派な和製英語 なのです。
けれどあくまで日本語ですから、英語を話すときには正しくLet’sを使いましょう!
Let’s use “let’s” correctly when we are speaking English!
今後も、アンちゃんと楽しく不思議な英語を勉強しましょう!
あぁ、でもこの文章はうまく訳せないなぁ。困った・・・。
アン・クレシーニさんの書籍や連載
アンちゃんが英語&英会話のポイントを語る1冊
upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!