ビジネスに「英語」と「教養」が必要な本当の理由とその本質

著しく変化し続け、さまざまな境界がなくなっているビジネスの世界。AIがますます実用化されていく中で、私たちはどんなスキルを身に付け、どんな指針を持って働き、生きていけるでしょうか?アメリカで学んで同地で勤務したあと、日本で「英語でアート」を学べるスクールを主宰している宮本由紀さんに、この問いへのヒントを教えてもらいましょう。

テクノロジーの進化が加速

AIをはじめとするテクノロジーの時代が確実にやって来ています。どちらかと言えばITオンチな私がそう感じているので、本当にそうなのだと思います。

身近なところでは、近所のスーパーのレジは客が機械で行うセルフレジになっているし、コンビニも客が商品のバーコードにスマホをかざして支払い 完了 。家ではスマートスピーカー(AIスピーカー)があれこれ教えてくれて、翻訳までやってくれる。レジ打ちはすでに必要なくなってきていて、翻訳家や通訳家も特殊な場合を除いて要らなくなります。

テレビでは先日、「寿司のテレポーテーション」が取り上げられていましたが、何なのでしょう?!テレポーテーション!時代は進んでいます。その昔、ある外資系企業で社長のアシスタントを長年務めていましたが、秘書業なんて「昭和と平成に存在したらしい仕事」と懐かしがられる日もそう遠くはないのかもしれませんね。

変化の激しい時代をどう生き抜くか

そのうち国から「ベーシックインカム *1 」なるものが全国民に支給されるといいのですが、そんな夢みたいな話は当分ないでしょう。やはり自分で働かなくてはなりません。

とすると、人生において次のような課題が出てきます。

この時代をどう生き抜くのか。

一体どうすれば生き残れるのか。

若ければ若いほど、考え、不安に思うかもしれません。だって、あなたがまだ30歳だとすると、あと何年働かないといけないのでしょうか。

最近よく耳にする「人生100年時代」。今30歳だと、あと70年もあります。従来の仕事がどんどん減っていく中、その不安を払拭するためには今からどう動けばいいのでしょうか。

また、現代は半端なく大量の情報が渦巻く時代です。作り上げられたフェイクな情報や偏った伝え方をするニュースも多い中、何を指針にして生きていけばいいのでしょうか。

「アート」と3つのキーワード

これからの働き方、生き方のヒントは「アート」にあると私は信じています。広く言えば「リベラルアーツ *2 」、そしてピンポイントで言えば「西洋美術史」です。

どういうことか説明していきますね。

まず、これからの時代を生き抜くためのキーワードは次の3つ。

(1) 人間

(2) オンリーワンになれる知識やノウハウ

(3) 英語コミュニケーション力

この3つを総合すると「リベラルアーツ力」と言ってもいいと思います。もう少し分かりやすく言い換えると「グローバル教養力」。

「英語力」 に関して は当たり前過ぎて触れるのも忘れそうになりますが、ここで言う「英語力」は人に伝え、コミュニケーションが取れる英語力のことです。ボーダーレスに活動するには、海外の方と対等に会話、対話できることが求められます。英語は当たり前、それを土台にして、(1)と(2)が必要なのです。

では、「人間力」と「オンリーワンになれる知識やノウハウ」って一体どういうことなのでしょうか。

ルネサンス期の2人の芸術家

私は西洋美術史の講座で先人たちの言葉を引用することが多いのですが、その中でルネサンス期の2人、レオン・バッティスタ・アルベルティ(1404~1472年)とジョルジョ・ヴァザーリ(1511~1574年)の、現代にも通じる考えを紹介します。

まずは、ヒューマニストおよび建築家だったアルベルティの言葉から。彼は、成功する画家の条件として、まずは「善良な人間であり、リベラルアーツに精通している人。画家の技術や専門性よりも、その人物の真っすぐな性格や優しさの方が、パトロンとなる人々の好意を得ることができる」と自身の著書『絵画論』に書きました。

アルベルティはここで画家の人間性について言及しているわけですが、私は画家のみならず、いかなる人物においても共通する内容だと思っています。真面目で誠実で心優しく、かつリベラルアーツに精通している人。なぜそのような人に惹(ひ)かれ、応援したくなるのでしょうか。偽者や偽物がはびこる世の中、このような人物との出会いはまれで貴重で滅多にないからなのです。

リベラルアーツで「人間力」を培う

私は日米のアーティストが海外で個展を開けるよう、エージェント的な仕事もしていますが、実際のところ、一緒に仕事をするアーティストやギャラリスト(ギャラリーの経営者やスタッフ)はアルベルティが言う「善良な人」に限ります。一緒に仕事をしていて気持ちのいい人。どんなに作品が素晴らしくても、この点は譲れません。性格が穏やかで謙虚で、一般常識が通じて芯がしっかりしていて、かつ向上心のある人が理想です。

私の持論でもありますが、リベラルアーツに長けた人には人間的な魅力があります。つまり、「寛容力」があり、何事においてもバランス感覚を持ち、フェアプレイヤーであり、精神的に自立していて、「自分軸」を持っているのです。「寛容力」のある人とは、大きな枠で物事を考えられる人であり、人の悪口を言ったり、意地悪をしたり、愚痴を言ったり、日々の小さなことで悩んだり不満に思ったりせず、自分の小さな枠から出て多様性を受け入れ、グローバルに多視点で考えられる人のこと。 今後は 日本国内のみではなく世界が自分の舞台になるなら、寛容力を兼ね備えた人物になるのはマストです。

世界で生きるには「自分軸」が必要

「自分軸」を持つということは、自分なりの価値観を持つということです。日本ですと、あまり強い「自分」を持っていると自信過剰に見えて逆に嫌われてしまいそうですが、急速に情報過多でボーダーレスな社会となってしまった今では、そんなことを気にしている余裕はありません。

世界対応型になるには、常に自分の考え、自分の意見を持っていなくてはなりません。ブレない人生のポリシーをしっかりさせておかないと、海外に行ったときの「Why?」の質問に困惑します。世間に振り回されてブレまくっている人は信用を失います。しかも、SNS全盛の時代において、その「ブレ」は即座に感知されます。

どう生きるのか、コンサルやコーチングを受けるのもいいですが、最終的に決断するのは自分です。その決断を下すのを手伝ってくれるのが、リベラルアーツなのです。

「自分軸」でオンリーワンに

もう一人のルネサンス人、ヴァザーリは「最初の美術史家」と呼ばれ、画家でもありましたが、ルネサンス期のアーティストたちの伝記も書き上げた人物。現在でもよく美術史で引用されます。

ヴァザーリは、当時の画家ラファエロの伝記に、「若きラファエロは最初、レオナルドやミケランジェロに追いつかなければと必死で彼らのまねをしていたが、途中、彼らを超えるのは無理だと悟り、あきらめて自分の芸術の方向性を変えた」ということを書いています。結果として、ラファエロはレオナルドやミケランジェロや他の同期たちの画風やアイデアを自作に取り入れながら、「総合力」を駆使して調和の取れた誰にでも愛されるパーフェクトな作品を創出することができたのです。

「人間は誰でも、生まれつき、本能的にそれに向いていると直感している仕事に取り組んで進むべきで、他人と競うために、天性向いていないような仕事に 取り組む べきではない。そのようなことをすれば空しく労することともなり、しばしば恥もかき、失態を演ずることともなるのである。(中略)自分で最善を尽くした時は、それ以上頑張るべきではない。(中略)人それぞれ向き不向きがある以上、向かない人は、いかに頑張ろうとも天賦の才に恵まれた人がやすやすと到達した境地にはけっして達し得ないからである。」( 『芸術家列伝2』 白水社刊)とヴァザーリは書いています。

他人と競合しなくても済む、オンリーワンになれる分野、自分が得意とすることを見つけられると、人生はより充実したものとなりますよね。ラファエロがオンリーワンになれたのも、レオナルドにもミケランジェロにもできなかったことを見つけ出すことができたからなのですね。

幸福な生き方とは

話変わって、私は会社員もフリーランスもアメリカでのインターンシップも経験して現在に至ります。13年前にアメリカから帰国して、「仕事は自分で作る」ことに決め、活動を開始しました。そして起業して早7年目。

「あなたも起業して1億稼ぎましょう」とかそんな非現実的な話はしたくないですし、現に私も自分がギリギリ生きていく分しか稼ぎがないので、もっとリアルな話をしたいと思い、これを書いています。

世の中は、手段が何であれ「1億稼ぐ金持ち=エライ、素晴らしい人」と評価しがちですが、果たして本当にそうなのでしょうか。

1億稼がなくても、自分がパッションを注げる好きなことをして生きていけて、その仕事が少しでも人のためになるのであれば、たとえそれに多少のリスクが伴ったとしても、幸福な人生が送れるのではないでしょうか。そして、それができる人にしか味わえない達成感、生きているという実感を日々の学びから得られるのだと思います。

富を最終目標にするのではなく、学びを目標にすると、仕事も幸福な人生も後からついてきます。

人生どう生きるのかを模索されている方には、私が提唱する「西洋美術史」を通して学ぶリベラルアーツをすすめます。しかもそれを「英語」と 同時に 学ぶ「英語でアート」には、ますます複雑化する世の中で小さな幸福を見つけるヒントがたくさんあるのです。この続きはまた次回!

リベラルアーツを学べる本と講座

リベラルアーツを学んでグローバル教養力を身に付けるための、宮本由紀さんの本と講座を紹介します。

海外のビジネスエリートとアートを語れるようになる本

英語でアート!
 

アーティストたちのたくましい生き方を知って元気になれる本

メンタルに効く西洋美術
  • 作者: 宮本由紀
  • 発売日: 2020/08/24
  • メディア: 単行本
 

「自分軸」を身に付けるための講座を開催

Art Alliance (アート・アライアンス)では、英語とリベラルアーツを両方学べる多様な講座が開催されています。

文:宮本由紀

Art Alliance 代表。「英語でアート」(西洋美術史、美術英語)講師。国内外で展覧会を企画。 ヒューストン大学美術史学科卒(学士号)、セント・トーマス大学大学院リベラル・アーツ(美術史)科卒(修士号)、ヒューストン美術館ヨーロッパ美術部門インターンシップを経て、同美術館リサーチライブラリー勤務。日米アーティストのエージェントも務める。共著に『英語でアート!』(マール社)。 https://www.artalliance.jp/

編集:GOTCHA!編集部
*1 :ベーシックインカム:「就労や資産の 有無かかわらず 、すべての個人に対して生活に最低限必要な所得を無条件に給付するという社会政策の構想」( 知恵蔵 より)

*2 :リベラルアーツ(自由七科、七自由科):「ギリシャ・ローマ時代からルネサンス期にかけて一般教養の基本となった7科。文法・修辞・弁証法の3学と、算術・幾何・天文学・音楽の4科からなる」( デジタル大辞泉 より)。なお、現代のアメリカにおける大学の一般的なリベラルアーツの科目には、美術・歴史・文学・哲学・宗教学・社会学などが含まれる。

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