「でたらめ話」は会話を滑らかに進めるために欠かせない?「でたらめ話」とは言っても、どうやら「ホラ吹きになれ」ということではなさそうです。その意味を、茂木健一郎さんに教えていただきましょう。
楽しいコミュニケーターになるためには…
日本語でも英語でも、会話の達人になるためには、どうしても身につけておかなければならない技法がある。
それは何かと言えば、「でたらめ話」。
英語で言えば、「コンファビュレーション」(confabulation)。
認知科学的には、「偽の記憶」など、特別な意味を持つこともあるのだけれども、ここでは、日常で私たちが使う、「適当にでっち上げる」「話を盛る」「創作する」というような意味で、「でたらめ話」=「コンファビュレーション」という言葉を使っている。
ここで言う「でたらめ話」は、別に人をだまそうとしたり、自分を良く見せようとしてするのではない。「でたらめ話」は、むしろ、意識と無意識の間の一つの対話の形式なのである。
「でたらめ話」の感覚と実践を身につけることで、私たちは親しみに満ちた、楽しいコミュニケーターになることができる。
「でたらめ話」の技法を身につけることは、なめらかに会話をするためには、どうしても必要なことなのである。
雑談は一つの「芸術」である
人と話すときに、真面目な人ほど、あらかじめ言うことを決めておかなければならないのではないかと考える。しかし、それでは、会話は絶対にうまく行かない。
なぜならば、最初の一言は予定通りに進んだとしても、相手がどのような反応をするかわからないからだ。
会話、特に雑談は、 予想 外の言葉を返してくる相手に対して、自分自身も当意即妙に言葉を返す一つの「芸術」である。
従って 、あらかじめ準備しておくことは、とてもできないのだ。
そこで必要になるのが、「でたらめ話」である。自分が何を言うのかをあらかじめ決めておくのではなくて、むしろ、話してみて「発見」するのである。
話しながら、「ああ、私はこういうことを言いたかったのだな」と自分でも驚きを感じる。それが、「でたらめ話」の流儀である。
そもそも 、発話というものは無意識の中から起こるものであって、意識がコントロールできることではない。だから、言葉の達人は、無意識をうまくリリースすること、つまり脱抑制することを知っている。
会話を通じて初めて自分を発見できる
英国のケンブリッジ大学に留学しているとき、恩師のホラス・バーロー教授がこんなことを言ったことがあった。
ある学生が、学会のアブストラクト(要約)が書けないで苦労していた。自分が何を言いたいのか、わからないのだ、と言い訳をした。すると、その話を聞いたバーロー教授は、学生がいない場所で、即座に言った。
「だったら書いてみて、自分は何が言いたいのか発見すればいいじゃないか!」
( Then why doesn’t he write it and find out ?)
その場にいた私は、思わず爆笑してしまったが、 同時に 、発話のメカニズムについての深い叡智を感じた。
そうなのである。私たちは、発話してみなければ、自分が何が言いたかったのかを発見できないのだ。会話とは、相手とのコミュニケーションであると 同時に 、自分自身の発見なのである。
即興で英語を奏でる「ミュージシャン」になれ
以前 にも少し紹介したことがあるが、中学校や高校に話をしに行ったとき、脳のことをいろいろ説明した後で、生徒たちにやってもらうエキササイズがある。
まずは、「いきなり英語スピーチ」。学校で一番英語が苦手だという人に出てきてもらう。自薦他薦を問わず、みんながワイワイする中で前に立つ。
そこで、制限時間1分のスピーチを無茶振りする。テーマは「自己紹介」。
すると、みんな、戸惑いながらもなんとかこなす。終わったときには晴れやかな顔をしている。無茶振りでハードルを超えたときほど、脳の報酬系が活性化することはない。脳の英語回路も 強化 されている。
その後で、もう一人に出てきてもらって、今度は日本語で、自分の人生についての「でたらめ話」をしてもらう。即興で1分間。設定は、ほかの生徒に出してもらう。
「私がAKBのメンバーだった頃」
「アメリカ生まれの私が日本に来た話」
「私は宇宙人です」
「私はカレーライスです」
とにかく、あり得ない設定で話してもらう。
日本語だと、案外楽しそうに、なめらかに「でたらめ話」をしている。聞いている方も大笑いである。
それから、私は言うのだ。
英語で会話するということは、今の日本語のでたらめ話のように、とにかく何か言葉を継いでいく、ということなんだよ。
文法が間違っててもいい。単語数が少なくてもかまわない。
自分のできる範囲で、英語という言葉の宇宙の中で、即興演奏をすること。
そのとき、君は、英語のミュージシャンになる。気持ちが伝わる。人の心を動かすことができる。
気楽に、喜びに満ちた、「コンファビュレーション」をすればよい。
そんな風に言うと、「何かをつかんだ」という顔になる子たちもいる。
「でたらめ話」だと思うと、英語はうまく行く。必ず。
このよろこびを、もっと世の中に広めていきたい。
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写真:山本高裕(GOTCHA!編集部)茂木健一郎(もぎ けんいちろう)
1962年東京生まれ。脳科学者、作家。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院物理学専攻課程を修了、理学博士。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。
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