「TOEIC=ビジネス英語」は完全な誤解!実践的な英語力の鍛え方【リスニング編】

TOEICはビジネス向けの英語の試験で実践的な英語力アップにはつながらないと思っていませんか?実は、教材の使い方次第で効果が大きく変わるのです。今回は「通訳」で「英語講師」の西田大(にしだまさる)さんに、「TOEIC教材を用いた学習法」と「TOEICスコアアップのコツ」をご紹介いただきます。

「TOEIC=ビジネス英語」という誤解

「TOEIC」という言葉を聞いたとき、「TOEIC=ビジネス英語」というイメージを持つ人もいるようです。「ビジネス英語」という言葉の定義も難しいですが、「TOEIC=ビジネス英語」は完全な誤解だと思います。

TOEICで使用されている表現やシチュエーションは 日常生活で頻繁に遭遇するものが中心 になっています。オフィスでの会話、仕事上のメールのやり取りなどの状況も含まれますが、それらはあくまでも「日常生活におけるひとコマ」として使用されているだけです。

つまり、TOEIC教材を用いての学習は「TOEICのスコアアップ」だけでなく、「実践的な英語力」の向上にもつながるのです。

今回は、 TOEICのリスニングセクションにおける、「TOEIC教材を用いた学習法」と「TOEICスコアアップのコツ」を紹介 します。

パート1、パート2はシャドーイングに最適

まずは私のTOEICリスニングセクションの学習法を紹介します。

パート1(写真描写問題)、パート2(応答問題)はシャドーイング学習に最適 だと思います。基本的にこの2つのパートは一つ一つの短文で構成されているため、シャドーイングをしているときに、英語音声に置いていかれがちな(ついていけない)人でも、一文と一文の間に、十分に言い直す時間があります。

また、使用されている英文が非常に実用的です。もう少し付け加えるなら、ネイティブはサラっと使うけれども、日本人は聞き逃してしまいがちな表現が多く含まれています。

You offer a senior discount, don’t you?
シニア割引を提供していますよね?

Didn’t you take notes during the meeting?
会議中にメモを取らなかったのですか?

このように、「シニア割引」や「メモを取る」などの実践的でありながら、なかなかアウトプットしにくいような表現を、シャドーイングで「自分の表現」として身に付けられるのです。

パート3、パート4で英文暗唱と反訳トレーニングに挑戦

パート3(会話問題)、パート4(説明文問題)では英文暗唱と反訳トレーニング(=日本語を見ながら英語にすること)に挑戦してみてください。

パート3、パート4は、日常の場面が設定されていることが多いため、実践の場でも使えます。

やり方は、まずは「精聴」します。一文一文の意味がわかることはもちろん、どのようなテンポで話されているかも含めてじっくりと何度も聞いてください。特に、耳で聞いた英語の意味はしっかり理解できるようにしておきます。意味のわからない英文をただ声に出しても、効果が期待できません。

次に「コピーイング」です。スクリプトを見ながらスピーカーの物まねをするイメージです。一文が長過ぎるときは、一文を数回に分けて行うといいでしょう。ネイティブの発音を「まねする」ことで、ネイティブ特有のリズム、抑揚などが身に付きます。

最後に日本語のスクリプトを見ながら英語にしていきます(反訳トレーニング) 。最初はスムーズに英語が出てこないかもしれませんが、間違ってしまったり詰まってしまったりした箇所を1つずつ修正していくことでスムーズな英語が出てくるようになります。

これらの方法を、ぜひ、自分流にアレンジして、「英文暗唱」に挑戦していただきたいと思います。

各パート別「スコアアップのために」やるべき2つのこと

ここまでお伝えしてきたように、TOEICの学習は実践的な英語力の向上に非常に役立ちます。しかし、「英語力」と同じように「TOEICスコア」も上げたいと思うのは英語学習者として当然のことです。

ここでは少しでも高いスコアを取るために、 TOEICの学習中や受験中にやるべきこと をリスニングセクションの各パート別に2つずつ紹介させていただきます。

パート1:単語を言い換える習慣を身に付ける

1 ) 「人」が写っていたら、その人の行動を具体的に「日本語→英語」で考える

例)
女性がコピー機を使っている。 → She is using a photocopier.
男性がカウンター越しに立っている。 → He is standing behind the counter.
複数の人がソファーの上で休んでいる。 → Some people are resting on a sofa.

慣れてくるにしたがって、そっくりそのままではなくても、予想した文章に近いものに出合う確率が高まります。

2 ) 「具体的」なものが「抽象的」なもので表現されることを知る

聞き取った「抽象度」の高い単語が、写真に写っているものに言い換えられないかを考える習慣を付けておきます。

例)
女性がギターを演奏している。 → She is playing a musical instrument.
※「ギター」を「楽器」と表現

男性が販売されているを取ろうとしている。 → He is reaching for an item.
※「本」を「商品」と表現

バスが建物の前に停まっている。 → A vehicle is parked in front of the building.
※「バス」を「車両」と表現

普段からの学習で、これらの「抽象的な語」⇔「具体的な語」に注目しておくとテスト本番で慌てることなく対応できるようになります。

パート2:取捨選択を制限時間内に効率的に行う

1) 「〇△×」の消去法を積極的に使う

パート2では、ある人物の発言に対する3つの返答が放送され、内容的に最もふさわしいものを解答として選びます。

パート1同様、放送される選択肢の中で、最も難易度の高い文章(聞き取りにくい文章)が正解となることが多くあります。よって、正解するためには積極的に消去法を用いることが有効です。ここで大切なことは、放送されるすべての選択肢を聞き取れるという前提を持たないことです。

実際の試験中にありがちなパターンはこれです。選択肢A「違う」→選択肢B「違う」→(答えは選択肢Cか?)→選択肢C「違う」。

すべての選択肢を聞き取れるという前提はこのような結果につながります。すなわち、確信を持って「違う」と判断できなかった場合は「たぶん違う(△)」としておきます。

こうすることにより、正解を聞き取れなかった場合に「たぶん違う(△)」を選ぶことができ、完全に勘だけに頼った解答を回避することができます。

2) 「聞き取れなかった」設問は諦めて、次の一問に集中

パート2の問題は一文単位なので、「聞き取れそう」ですが、意外と聞き取れない問題が多いものです。これはリスニングセクション全体に言えることですが、100問すべてが1回ずつしか放送されず、問題と問題の間隔も非常に短く設定されています。

聞き取れなかった1問にこだわり過ぎ、その後の問題に影響を与えてしまうことがないよう、「聞き取れなかった問題は、その場で潔く諦める」ことが大切です。

パート3:先読みと予測を行う

1) 次のセットの先読みはできる限り行う

パート3(とパート4)では、それぞれ1つのセットにつき3つの質問とその選択肢が並びます。本文の放送終了後に、質問が読み上げられるわけですが、この質問を聞いて選択肢を読んで問題を解くのではなく、本文の放送終了後に解答用紙へのマークを終えるのが理想です。

具体的には3つある質問の中の2つ目の質問が読み上げられるときには、3つ目の質問のマークが完了している状態が目安です。

そして、3つ目の質問音声が流れている間に、次のセットの質問を(可能であれば選択肢も)読んでおくのです。

少なくとも、1つ目の質問(と選択肢)を先に読んでおくことで、会話の内容が予測でき、放送内容の理解度が高まります。

2) 解答に関わるセリフが放送されるタイミングを予測

パート3では2人か3人での会話となります。会話中に出てくる解答に関わるセリフがどのタイミングで放送されるかを予測することにより、正解が選びやすくなります。大切なことは、そのタイミングを具体的に予測することです。

例えばWhat does the man say he has decided to do? という設問があるとします。この場合、解答に関わるセリフを話すのはhe(男性)の可能性が圧倒的に高いはずです。

このように、「どのタイミングで解答に関わるセリフが放送されるか?」を具体的に予測することで正解率が高まります。

パート4:解答根拠の待ち伏せ作戦

1) 解答根拠(解答に関わるセリフ)は設問順に放送される。

パート4では、1つのセットにつき3つの質問がありますが、その質問の並んでいる順番に解答根拠が放送されます(パート4の最初のセットでは、問題71→問題72→問題73の順)。

放送開始直後には、問題71と問題72だけを頭の中に入れておきます。問題71の解答根拠が放送される前に、問題72の解答根拠が放送されれば、問題71の解答根拠を聞き逃してしまったことがわかります。このタイミングで問題73の解答根拠を待つ作戦に切り替えます。この「解答根拠の待ち伏せ」は初中級の人には特に有効なようです。

2) パート4の苦手意識を払しょくする

パート4に苦手意識を持っている人が多くいます。

しかし、公式問題集やその他の模試問題集を、私が担当している生徒さんに解いていただいたデータからは、パート4の正答率は最近、難化傾向のパート1または2より高く出ています。

つまり、パート4を難しくしている最大の要因は「苦手意識」なのです。この苦手意識を払しょくして学習や本試験に臨まれることで、スコアアップが期待できるかもしれません。



 
いかがでしたか。TOEICのリスニングセクションの対策を効果的に行い、さらにその問題を使ってトレーニングすることにより、スコアアップしながら、日常的に使う実践的な英語力も上げることができます。ぜひ実践して、TOEICのスコアアップを目指して頑張ってください。

西田大(にしだ まさる)
西田大(にしだ まさる)

1973年生まれ。関西大学文学部英文学科卒業。TOEIC 990点(満点)、英検一級、全国通訳案内士。23年間にわたり県立高校教員として勤務した後、通訳、英語講師として独立。通訳としての技量は高く評価され、国際会議や各国の大臣クラスの通訳にもアテンド。英語講師としては、TOEIC・英検などの検定試験から実用英語まで、幅広い分野の英語学習に精通し、その学習法・対策法は注目を集めている。著書に『 「音読」で攻略TOEIC(R)L&Rテストでる文80 』(かんき出版)、『英語力はメンタルで決まる』(アルク)、『 TOEIC(R)テストに必要な文法・単語・熟語が同時に身につく本』(かんき出版)など。

写真:山本高裕(ENGLISH JOURNAL編集部)

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