できそうで意外とできない、正しい英語の発音。Google翻訳を使って自分が正しく発音できているかを簡単に調べる方法があります。今回は英単語のnineや、日本人にとって特に難しい[w]の音について、Google翻訳を使った矯正方法を英語音声学者の小川直樹さんが解説します。
簡単な単語でも正確に発音できていない!?
前回の記事を出した直後、新しいYouTube動画をUPしました。それは、Google翻訳(以下「G翻」)にカタカナ発音の英数字を入れて結果を見る、というショート動画シリーズの1本です。その動画では「ナイン」を入れてみています。
残念ながら、カタカナの「ナイン」は、nightと判定されてしまうのです。日本人からすれば、それはあり得ない、と思いますよね。でも、血も涙もソンタクもない機械の冷徹な判定では、nightになっちゃうのです。
じゃ、なぜnightなのか?なぜ[t]が出てくるのか?それは、語末の子音が聞こえないからです。「ナイン」などの日本式の語末の「ン」は、第2回の記事で述べたとおり、母音の一部と言えるもの。何かありそうだけど、子音としてははっきりと存在していないんです。だから、G翻としては「[naɪ]+聞こえない音がありそう」と判断します。
そこに一番ピタッと当てはまるのが、night[náit]なんです。語末の[t]は、破裂する前に終わる、つまり聞こえないまま終わることがよくあります。この[t]と解釈されたのです。
nineを確実に出すには
上に挙げた動画の後半で、G翻にnineと認識させるための対策を2つ、ごく簡単に紹介しています。それを詳しく見ていきましょう。
①母音を長く発音する
「ナーイン」と発音すると、nineと認識されやすくなります。なぜならば、nine[náɪn]は、有声子音[n]で終わっているからです。前回の記事で説明したように、有声子音は、その前の強勢母音に対して、緩いブレーキとして働きます。緩いからこそ制動距離が長くなる、つまり母音が伸びる、というわけです(詳しくは前回のfiveの説明を見てください)。
なお、二重母音では、主役である前側が伸びます。だから「ナーイン」なんです。G翻としては、「母音が長いぞ→ならば後ろは有声子音だな」と判断するわけです。これで、nightという選択肢は消えます。なぜなら[t]は無声子音ですから。その代わりに、nineが選ばれるのです。
なお、nineを始め、tenやfiveなど有声子音で終わる単語(数字に限りません)は、伸ばして発音すると、とたんに英語っぽく聞こえます。日本式の発音はそれだけ速くて短いんです。
②語末にしっかり「ヌ」を付ける
もう一つの対策は、「ナイン」ではなく、「ナイヌ」と発音するというもの。
日本人からしたら「まさかこれで」、と思えるような方法です。でも、これは極めて効果的。上述のように日本人の「ン」は、ほぼ母音の一部。でも英語としては、nineの語末には、ちゃんとした子音がないといけない。そのちゃんとした子音が「ヌ」なんです。
[n]は、語頭でも語末でも、必ず舌先が上歯茎に触れます。それを語末で、思いっきり大げさに表現したのが、「ナイヌ」です。本来は「ナインㇴ」としたほうが、自然に聞こえます。でも大げさな「ナイヌ」でも、正解にたどり着けるんです。英語では語末の子音が、これほどまでに大事だということです。
もちろんこれは、oneやtenばかりか、[n]で終わるあらゆる単語に当てはまります。
なお、①と②の両方を混ぜた「ナーインㇴ」という発音なら、あなたのnineはネイティブのように聞こえること間違いなしです!
数字の発音を学んだ学生の感想
ところでボクは、英語がけっこうできる生徒が多い大学で音声学を担当しています。3年生向けの英語の教職課程用の科目です。そこでも1~10の数字の発音を扱いました。すると、学生の感想はこんな感じでした↓↓
- 数字は、小学生レベルの言い方が身に付いてしまっていて、矯正は難しそうだが、しっかり正しく発音したい。
- 保育園のときから知っている英数字の発音が難しくて、ショック。完全にできる気になっていた。長く発音すると確かに英語っぽくなるなど、驚きの連続だ。
- 数字の発音は思ったよりも難しいのに、小学生のときにサラっと終わらせてしまう。そんな英語教育は良くないと気付いた。
21世紀生まれで、英語が得意なはずの学生たちでさえ、数字の発音は盲点だったのです。小学校でも英語教育が行われている今だからこそ、英数字などの基本単語の発音は丁寧に扱ってほしいものです。
[w]で始まる単語はヤバい!
次は、数字に限らず、日本人の基礎発音力に決定的に欠けている音を扱います。それは、[w]です。
[w]で大事なことは、円唇(唇を丸めること)です。口笛を吹くぐらい丸めます。
でも、こんな円唇は、日本語の発音にはありません。だから、日本人は、英語を話している最中に円唇を混ぜ込むことが苦手なのです。これ、なかなかヤバい結果を生み出しちゃうのです。例えば、日本語でも当たり前のように使われる「ウィーク」と「ワイン」。その和風発音、G翻に入れてみるとどうなるか、という動画を作りました↓↓
多様性の原因を探る!
とにかく、weekにせよwineにせよ、カタカナ発音ではきちんと伝わりません。動画では、「なにもそんなに違う単語を出さなくたって!」というほど違う単語・句が出てきました↓↓
ウィーク⇒Lee、We could.
ワンウィーク⇒long week、Lalique
ワイン⇒lying
ワイン、プリーズ⇒Lion could eat.、lying pretty much
いくら多様性を受け入れる時代だとはいえ・・・ここまで変わると意味不明です。それにしてもなぜ、こんなことが起こるんでしょう?
もちろん、円唇のない日本語式の発音のせいです。それで語頭の子音を、[w]と特定できないんです。その代わりにG翻では、[l]を選ぶようです。実際、上のようにLはたくさん出てきました。なぜなんでしょう。
日本語の「ウィ」や「ワ」は円唇がないので、かなり母音に近いんです。とはいえG翻としては、「完全な母音で始まっていないようだぞ。何か子音で始まっていそうだ」と判断します。そこでG翻は、子音の中でも母音に近い性質を持つものを選ぶわけです。
では、そんな子音とは?それは[l]か[r]なんです(両方をまとめて「流音」ということがあります)。これらは声を出す音で、しかも摩擦とか破裂とかがない、滑らかな響き。だから母音に近いんです。
でも、[r]じゃなて、[l]が選ばれる!なぜって・・・円唇がないからです。語頭の[r]は、円唇します。ちなみにネイティブの子供は、言葉を覚えたての頃、[r]がなかなか言えません。代わりに[w]を使うんです。だから小さい子供が言う「ウサギ」はwabbitなんです。それだけ、[r]と[w]は音が近い、ということです。
一方、日本人の「ウィーク」や「ワイン」には、円唇がない。だから[r]はあてはまらない、というわけで、[l]が選ばれちゃうのです。
ただし、実際のネイティブは「ワイン」や「ウィーク」と聞いて、[l]を感じているわけはありません(なにしろ[l]は、日本人にはなかなか出せない音なのです。これについては次回説明します)。あくまで機械が、機械の論理で単語を探すと、[l]の付く単語にたどり着く、ということなんです。
G翻としては、あとは母音や語末子音などを頼りに、単語を探します。ところが、①日本式の発音では語末子音が弱すぎる、②語末子音の後にさらに母音が付いてしまう、などが原因で迷走するのです。例えば①の結果がLee(←week)です。②だと、we could.(←weeku)、Lion could eat.(←Wine pulease.)ですね。
いずれにせよ、日本式の「ワイン」や「ウィーク」は、[w]が出ていないことで迷走を引き起こすのです。きれいな英語の発音のためには、日本人はもっと[w]を練習せよ、ということです。あとは、①語末の子音をはっきり言うこと、②子音に余計な母音をくっつけないことも必要です。
なお、「ワイン、プリーズ」がLying pretty muchとなぜか3語になっていますよね。これは、「ズ」の影響です。日本語の「ズ」は多くの場合、滑らかな[z](摩擦音)ではなく、息を止めてから出す[dz](破擦音)なんです。
G翻には、この破擦音が聞き捨てならなかったようです(笑)。なんとか反映しようとして、意味も通るように考慮して(多分・・・)、加えたのがmuchです。-chは、[tʃ]という破擦音です。muchを足すことで、[dz]ではないものの、破擦音を維持したのです(けなげな努力です・・・)。
[w]はゆっくり、こってり、のんびり!
日本人には苦手な[w]。この音をしっかり出せるようにするには・・・ゆっくり、こってり、のんびりがポイントです。
[w]の出し方は、連載第2回のoneのところでも扱いましたが、さらに、[w]の出し方をまとめた動画を作りました。以前のアゲアゲEnglish!動画で、[w]を扱った部分を短くまとめた動画です。この動画を見ると[w]の出し方のコツが、アシスタントの女優で歌手のデリスさんの歌声(笑)とともに、頭の中にグリグリ擦り込まれると思います↓↓!
なお、この動画では、webという単語を例に挙げています。実は日本語の「ウェブ」は、恐ろしく速くて短いんです。日本人にも聞き取りにくい速さですから、ネイティブにはマッハのスピードに聞こえると思います。だからこそwebは、ゆっくり、こってり、のんびり発音することで、発音が劇的に改善される好例なのです。
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