自分では英語を正しく発音できていると思っていても、実はそうでないことも・・・。試しにGoogle翻訳に、音声入力で「three」「five」を入力してみてください。正しく表示されなかった人は、特に必読!英語音声学者の小川直樹さんが、簡単にできる発音矯正法を解説します。
日本人にとって、英数字の発音は盲点!?
最初に報告!
アゲアゲEnglish! Again動画の新作で、面白いネタを取り上げました。オンラインゲームで英語力UPというネタです。アシスタントを務める女優の髙木デリスさんが、Apex Legendsを使って、まんまと英語力を上げたんです。その方法は?という話です(前後編2本です)。
で、本編です。前回は数字の発音を取り上げましたが、今回は数字の発音その2。
日本人には、英数字の発音はけっこうな盲点。なぜって、英数字、とりわけ1~10までのごく基本的な英数字は、日本語の中でも、当たり前に使われます。だからカタカナ語の発音の癖が、染み付いてしまっているんです。
その代表が、前回扱ったoneやsix、tenです。でも、残りの英数字だって、かなりtrickyです。あ、trickyは、基本的には「難しい」ということ。合わせて「落とし穴のある」(出典:ジーニアス英和辞典)という意味です。英数字の発音はまさに、そんな感じです。
「three」はtricky!!
trickyな発音の代表は、threeです。
なにしろ、この発音[θríː]は、日本人には難物中の難物。まずTH([θ])を出して、次に[r]を出して、さらに[iː]を出すわけです。どの音も日本人には易しくありません。その集合体ですから、そりゃ難しい。
にもかからわず、threeの正確な発音の仕方は、残念なことになかなか教えてもらえません。基本中の基本の単語なのに、そしてその発音がすこぶる難しいのに、ちゃんと教えてもらえないのです(日本の英語教育、しっかりしてっ!)。
じゃ、ネイティブの発音動画を見れば、解決するかというと・・・どうも、イマイチよく分からないじゃないですか。日本人の口では、あの動きはそう簡単には真似できないんですよ。これね、盆踊りしかやったことがない人が、いきなりバレエの動きをせよ、というようなものですから。
だから、日本人がthreeの出し方を学ぶには、ただ口の動きを見せて終わり、という指導法じゃ不十分なんです。
なのでボクは、手を使ったオリジナルの練習法「OKメソッド」で指導しています。これでthreeを学ぶと、発音の仕方がまさに手を取るように分かりますよ!
意外にも音声入力は易しいthree
このthreeときたら、出し方は難しいのに、実はGoogle翻訳(以下「G翻」)に音声入力するのは案外簡単なのです。ここがtrickyなところなんです。だって、けっこうカタカナっぽい「スリー」でも、比較的あっさり「3」と認識されちゃうんですから。それはなぜでしょう?
日本人の「スリー」の場合、出だしが[θ]ではなく、[s]になっちゃいます。それに「リー」が続くわけです。というわけでG翻としては、[sríː]に近い音の並びを持つ単語を探すわけです。ところが、そんな単語は見当たらない。そこでG翻としては、仕方なく、涙をのんで(?)、その音の並びに近いthreeを選んで出す、というわけです。
こんなわけでG翻では、あまり発音が正確ではない「スリー」でも、正しい答えにたどり着けるのです。普段は忖度(そんたく)なし、情け容赦なしの厳しい判定をするG翻。でも、ことthreeに限っては寛容なんです(「こんなのいカンヨー!」ですよね・・・(-_-;))。
正確な発音を学ぼうとする英語学習者には、他の単語とは逆の意味で厄介な、まさにtrickyな単語なんです。
関西弁話者のための注意点
ただ、あなたが関西弁のネイティブスピーカーなら、ちょっと注意が必要です。関西弁では、母音が入りやすいからです。
例えば「ネクタイ」の「ク」や「~です」の「ス」。東京弁では[k]や[s]だけでいいんです(これ、一応、母音を言っているつもりなので、「母音の無声化」と呼ばれます)。ところが関西弁だと[ku]、[su]となります。はっきり母音が入るんです。ということは、関西弁ネイティブの場合、threeは[sríː]ではなく、[suríː]となってしまいやすいということです。こうなると、threeという正解にはなかなかたどり着けません。
じゃあ、どうなるか・・・。
G翻では、cityとか、CDとか、謎の単語sudie(G翻によると、リトアニア語で「さようなら」という意味のようです・・・)という単語を連発することになります。2音節、つまり母音が2つ入った単語が出てきちゃうわけです。G翻は、けっこう細かいところまで聞いているんです(笑)。
こういう人の場合、まず[θ]や[s]などの無声子音を、子音だけで出せるようにする練習が必要です。
それには、声なしで、その音だけを長く伸ばす練習をします。[θ ː ː ː ː ː ]とか、[s ː ː ː ː ː ]のような感じです([ː]は伸ばす記号)。機械的な噪音(雑音)だけが、数秒間響く状態にするんです。「ウ」を言いたくなっても、言っちゃダメです。声帯振動(=声)はこらえて、口先だけの噪音を作ることに集中してください。
なお、[θ]は[s]に比べ、元々響きが弱いです。だから、なんか物足りないと感じられて、強く言いたくなっちゃうんです。でも残念ながら、この音はいくらがんばってもあまり大きくできません。それが[θ]の特徴です。
[θ]は力まず、そっと短く
声を伴わない、無声子音だけを出す感覚が分かったら、次のステップです。[θ]をそっと短く出す練習です。これは、東京弁ネイティブがthreeをうまく出すためにも、有効です。
一瞬の[θ]を繰り返します。舌先と上前歯の先端を、一瞬接触させます。接触と同時に息をちょっと吐きます。[θ]では、舌を噛まないのがコツです。噛まないで、そっと触れるだけ。だから一瞬の音が出せます。
そんな、力みのない一瞬の音だからこそ、次の[r]に素早く移行できるんです。力を入れて舌先をしっかり噛んでいたら、次に行くのがめっちゃ大変。短い[θ]の後は、舌を後ろ(喉方向)に引っ張るようにします([r]の音)。後ろに行きつつ、唇を横に思いっ切り引っ張ります([iː]の音)。
慣れるまではゆっくり行うのがコツです。なお、手を使うともっとよく分かります。これ、上のアゲアゲEnglish! Again動画第9話をご覧ください。
fiveがpipeに!?
次に、これまた衝撃の事例を挙げておきましょう。
G翻に「ファイブ」と音声入力すると、pipeと出ることがあるんです。母音は合ってますけど。でも、[p]って何?しかも語末にまで?この動画、急遽作りました(笑)↓↓
じゃ、なんでpipeが出ちゃうんでしょう。
まず語頭子音。和風発音の「ファイブ」の語頭子音は、[f]とは認識されません。これ、「フー」って具合に、唇を使って出す子音なんです。この子音、発音記号ではこう表します↓↓
[f]とは別の記号です。[f]とは明らかに違う音だということです。G翻としては、この音を聞いて、
①[f]ではない
②でも唇を使う無声子音だ
と認識します。
次は母音。ここは一応、大丈夫そうですね・・・。
そして、語末の子音。「これは唇を閉じた音だな!」とG翻は判定しています。
以上から、あなたの入力した「ファイブ」は、[唇を使う無声子音]+[aɪ]+[唇を閉じる子音]と分析されます。この組み合わせの単語を探し出すと、この条件に合うのがpipeなんです!
「いやいや、語末に[p]なんて言ってない![b]って言ってるって!」
とあなたは思うでしょう(そこまで分かってるなら、[v]と言ってほしいけど)。
実はG翻が、あなたの語末子音を[b]ではなく、[p]とみなしてしまう決定的な理由があります。それは母音の長さなんです!
英語の母音の長さの秘密
なんと、英語の強勢母音の長さは、変わるんです。後ろに来る子音の種類によって変わっちゃうんです!こんな感じです。
後ろに来る子音は、母音(声帯振動)のブレーキなんです。
- 無声子音は急ブレーキ。
- 有声子音は緩いレーキ。
- 子音なしはブレーキをかけずに止まる(エンジンブレーキ)。
という具合です。つまり母音の長さは、制動距離ということなんです。
そこで、和風発音の「ファイブ」なんですが・・・この母音「アイ」は短いんですよ。短いということは・・・後ろの子音は、急ブレーキ=無声子音と判定されちゃうんです!だから語末の子音は、[p]と判定されちゃうんです。
一方、英語のfiveの語末の[v]は、有声子音。緩いブレーキということ。だから、母音は伸びます。
なお、二重母音では、伸びるのは前側。だから、[aɪ]じゃなくて、[aːɪ]なんです。
というわけで、和風の「ファイブ」を、英語らしいfiveに近づけたければ、母音を伸ばせばいいんです。「ファーイブ」と言ってみてください。そうすると、「5」と判定される確率が、グーンと高まります(上述の「ファイブ」の音声入力のショート動画、後半はこの例です)。
ただしこの場合、[f]や[v]が不十分なので、vibeと判定されることもあります。でもvibeは良い線です。最後が有声子音と判定されている=母音の長さが十分長い、ということですので。
実は英数字では、母音の長さがかなり大事なんです。この件、アゲアゲEnglish! Againの数字シリーズでは、けっこう詳しく扱ってます。とりあえずfive編をご覧いただければ分かります↓↓
とはいえ、[f]と[v]がきちんと出せていれば、母音の長さが短くても、「5」と認識されます。その出し方は下の動画をご覧ください。
一言だけ言っておくと、[f]と[v]のコツは①力まない、②長く、です。
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