奇麗に英語を発音したいのに、「どこをどう直せばいいのか見当がつかない」「そもそも正しく発音できているか分からない」などの悩みを持つ人は多いでしょう。本連載では英語音声学者の小川直樹さんが、Google翻訳を使った誰でも簡単にできる発音矯正法を紹介します。第2回の今回は、できなきゃマズイ正しい数字の発音です。
簡単な数字でも正しく音声入力できない!?
英語音声学者の小川直樹です。前回から、Google翻訳(以下「G翻」)に英語を音声入力して、その結果から発音を直していく、という企画を始めました。
前回はgirlを扱いました。記事がUPされて、数日したらボクの知り合いから、SNS上に書き込みがありました。
自分もgirlがgodになったが、先生の記事に書いてある通りにやってみたら、見事girlが入力できた!
この方、中高年男性です。もう何十年も、girlに聞こえないgirlを発してきたんです。それがちょっとばかりの修正で、ちゃんとgirlと認識される発音に改善できたわけです。日本人だから、そして純ジャパだから発音は直せない、なんてことはないんです。的確な指導さえあれば、発音は改善できるんです。
で、今回のテーマは数字です。数字の発音というのは、日本の英語教育ではあまり丁寧に扱われません。みんななんとなく知っているからです。なにしろ、英数字は、子供のうちから日本語の中で覚えます。その結果、極めて日本語的な発音が擦り込まれてしまうのです。
例えば、子供がお風呂に浸かっている。パパから「英語で10数えたら出てもいいよ」と言われ、子供は大急ぎで「ワンツースリー・・・テン!」と数えて、お風呂を出る。そんな1~10はカタカナ英語。とっても和風な発音で、しかも早口で音も崩れている。英語と呼べるような代物ではありません。でもパパは、「よく言えた!」とほめてくれます。
こんな感じで、誰しも日本語的な英数字を、なんの疑問もなく身に付けてしまうのです。この発音が、あなたの人生にず~っと影響しているんですよ。ヤバくないですか?
「シックス」で試してみると・・・
例えばsix[síks]。日本語では「シックス」が当たり前。だから、ついつい英語でも、「シックス」と言ってしまう。では、G翻に「シックス」を音声入力すると?
出てきたのは、sheexという謎の単語。そんな単語はありませんけど・・・。「シックス」では残念ながら、sixにはたどり着けないということです。そして、この謎のsheexこそが、日本人英語に慣れていないネイティブの反応なのです。
ただ、日本在住の、日本通のネイティブの先生なら分かってくれるでしょう。でも、その先生に英語が通じる=自分の英語が世界で通用する、とは限らないんです。
さて、皆さんも実際にG翻に向かってsixを発音してみてください。
6を出すには[s]が大事
G翻で「6」を確実に出すには?
まずは出だしを「スィ」とすることです。英語では、 [s]と[ʃ]の違いは、意味の違いを生み出します。実際、seat[síːt]とsheet[ʃíːt]は別の単語ですよね。[s]と[ʃ]は、ネイティブには全く別の音だということ。だからこそ、[s]をきちんと出す必要があるんです。
英語の[s]を出すコツは、強さと長さ。英語の[s]は、日本語の[s]よりもはるかに強くて長いんです。ちなみに、[s]と[ʃ]では、[s]の方が強く、[ʃ]の方が弱い。そして日本語の「シ」は、英語の[ʃ]よりも、もっと弱い音なんです。
そもそも日本語は、弱々しい発声で事足ります。そんな日本語に慣れた日本人には、弱い「シックス」がどうしても言いやすく、強い[síks]は難しいんです。
というわけで、sixを発音するには、強い発声が必要ということ。G翻に入力する際は、G翻の入力ボタン(マイクのイラスト)を[s]で射抜くイメージです。[s]をレーザービームのように一点に集中して照射するのです(↓↓イメージ画像(笑))
専門的な音声学の本には、英語の[s]と日本語の[s]の違いが、舌の位置やら形やらがどうのこうのと、細かく書いてあります。でも、そんな違いは、普通の日本人には再現できません。それよりも「英語の[s]は強くて長い」「相手にめがけてレーザー」というイメージで解決します。ちなみに、下の動画の3分辺りを見ると、ボクや相方の女優、髙木デリスさんがレーザーを発しています(笑)
「シックス」は母音も違う
ところで、「シックス」と音声入力するとsheexという謎の単語が出る件、実は日本人英語の特徴をもう1つ示しています。それは-ee-という母音。これ、長母音[iː]を表すスペリング。本来短い[ɪ]となるべき母音が、[iː]となってしまっているということです。
「ちょっと待て!オレは伸ばして発音してないよ。短く『シッ』って言ってるよ!長い[iː]のスペリングが出てくるって、おかしいだろっ!」
ですよね!でも、ここに英語の母音と、日本語の母音の違いが現れているんです。実は、[ɪ]と[iː]は、長さよりも音質の差がポイント。英語の[ɪ]は、「エ」に近い緩んだ母音。でも[iː]は、口を思いきり横に引っ張って出す、鋭い「イ(ー)」。
一方、日本語の「イ」は、英語ほどではないけど、鋭い「イ」の部類。とりわけ「シ」では「イ」の音質が鋭くなります。しかも、G翻の前で頑張って発音すると、なおさらです。力んだ「イ」になって、より鋭さが増しちゃうんです。その結果、[iː]としか判断されないから、-ee-という表記が現れるのです。
というわけで、sixを英語らしく発音するには、[s]を強く発音して、そこでエネルギーを使い切る。そして[ɪ]では、口を緩めて短く発音する。
ちなみに、[ks]は「クスっと笑う」の感じ。声を出さずに、こっそり素早く「クス」という感じです。
なお、[ɪ]で口を緩めすぎると、口がちょっと広がって、みんな気になるあの単語(笑)になっちゃいます。ご注意ください!
oneを音声入力すると・・・
では、今度はG翻にoneを音声入力してみてください。日本語らしい「ワン」を入力すると、笑撃の結果が出ます!それを動画にしたのが↓↓です。
「ワン」とG翻に入れると、何も出てこないんですよ。え、なんで!?なんで何も出てこないんでしょう?
G翻には、「ワン」に該当する英単語が見つけられない、ということです。これ、衝撃ですよね。日本人がoneと思って発音していた「ワン」は、英語として全く通用しないということですから。
実は「ワン」には、あれこれ大事なものが欠けているんです。英語にあるべきものが、日本語の「ワン」にはないんです。じゃ、英語のoneの発音は?・・・[wʌ́n]です。3つの音から成るんです。
え、日本語の「ワン」だってそうなんじゃないの?だって、ローマ字で書けばWANでしょ?
いやいや、実は日本語の「ワン」は英語からしたら3つの音になっていないんです。母音はまあOKなんですが、前後の子音が全く物足りません。なんなら「え、あんたのその『ワン』って子音あるの?」ぐらいの感じなのです。
子音がなってない!
まず、[w]が全然なってません![w]はしっかりとした円唇(唇を丸めること)が必要です。この絵ぐらい、唇を尖らせるんです。口笛を吹く勢いです。
ちなみに、[w]を出すには、かなり時間がかかります。だって、この表情を作るためには、口周りを大きく動かさないといけません。そして、この状態で音をはっきり出すには、息をかなり出さないといけません。この一連のプロセスのために、[w]は長い音にならざるを得ないのです。
一方、日本語の「ワ」には、全くと言っていいほど、円唇がありません。だから、マッハの速さで出せるんです。英語ネイティブからしたら、口を丸めない「ワ」は短すぎ。表情としても、上の絵のようにならない。だから、だから「[w]あるの?」となるんです。
解決策としては、出だしに小さい「ゥ」を付けて、ゆっくり「ワ」に移行する。もちろん円唇させます。「ゥワ」、いや「ゥーワ」ぐらいの感じでお願いします。
語末の子音が大事!
そして、G翻で[w]以上に大事なのが、語末の[n]です。日本語の「ン」では全く物足りません![n]は、舌先を上歯茎に付けるんです。これが必須。これね、LとかTの舌の構えと同じです。
日本語の「ワン」の「ン」には、こういう舌の動きはないんです。実は、この「ン」は、母音「ア」を出したら、その後半に、響きを鼻に回してるだけ。あとは、そのまま音を立ち消えさせているんです。
これ、子音が存在しないということです!フランス語で言う「鼻母音」で終わっている状態。だから、舌先は全く関わっていません。なので、G翻には、[n]という子音は検出できないわけです。[n]を認識させたければ、舌先と歯茎で生み出される響きをしっかり出すこと。
解決策は、語末でしっかり「ㇴ」を付ける。これで[n]が表現できます。「ゥーワンㇴ」という具合です。「ㇴ」を出すだけで、日本人のoneはだいぶ認識されやすくなります。
tenも音声入力できない
語末が[n]のものは、たくさんあります。tenもそうですね。これも日本語の「テン」では認識されないのです。それを扱ったのが下の動画。この主要な原因はやはり、[n]の不足です。
また、tenでは、語頭の[t]の音質も大事です。時間をかけてしっかり息を溜めて、遠くへ飛ばす意識を持ってください。[t]もレーザービームの意識を持て、ということです。tenの詳しい発音の仕方は下の動画でご確認ください。
なお、アゲアゲEnglish! Again動画では、数字の発音特訓シリーズが、1~10までそろっています。下のボクのYouTubeチャンネルでお探しください。
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