『45歳 仕事をやめてコロンビア大で見つけた 英語の新しい勉強法』の著者・西山数紀さんが、ご自身の留学のリアルな体験をつづる連載です。英語教員として20年間教壇に立った後、45歳で仕事を辞め、米国コロンビア大学教育大学院への留学を決意。本には書ききれなかった挑戦の舞台裏や、ニューヨークでの生活、現地での驚きや発見を紹介します。第2回は、いよいよ始まったニューヨークでの大学院生活。授業初日からクラスメイトの英語が聴き取れず、打ちのめされた西山さんが、リスニング力を伸ばすために取り組んだ意外な練習法と、試行錯誤の日々を振り返ります。
第1回はこちら▼
マジで聴こえないリアルな英語

日本にいる家族と週1回のLINE通話をするようにしていました。そして毎回、嘘をついていました。心配をかけたくなかったからです。
コロンビア大学教育大学院の初日、初めて授業を受けたあの衝撃は忘れません。クラスメートたちの英語が聴こえないのです。私立進学校で20年にわたり英語を教え、早い段階で英検1級も取得し、さらに国際交流室長として海外の提携校と接することも多かったため、英語にはそれなりの自信がありました。
でも、そんな私のプライドなんて、授業初日に一瞬で奈落の底へ(涙)
「聴こえねえ、マジで聴こえねえ……」
「ホントにこれ英語?!」
コロンビア教育大学院の授業料は64,000ドル(約1,000万円)、奨学金が出たとはいえ、学費とニューヨークでの生活費でコツコツ貯めてきた我が家の全財産を使い果たすチャレンジです。
授業は1コマおよそ3万円。このままではバカ高い授業料が全部パーになるぞ……
私は覚悟を決めました。1日でも早く授業についていくために、死ぬ気で空き時間の全てを英語に捧げようと。超スパルタ的な英語メニューの開始です。家族の顔が目に浮かぶ。情けない、が、やるしかない。
教育エリートたちが集まる世界最高峰の教育大学院
私の所属していたコース「Private School Leadership」では、たった11名の超少人数クラスでした。しかもそのうち9名がアメリカ人で英語ネイティブ。将来、校長や教頭、教育系企業のリーダーシップポジション(管理職)を目指すために、世界中・全米中から優秀で情熱あふれる教育者たちが学びに集まる非常に特殊なコースでした。そして、日本人は私一人だけ、逃げ場なしの状態です。
とんでもないところに来てしまったぞ……
人間、あまりにもピンチの状況に陥ると、1周まわってもう笑うしかなくなるんですよね。
教授が何か問いかけ、生徒たちは笑い、活発なディスカッションが始まる。しかし、私はまるでお地蔵さん状態。ネイティブのクラスメートに必死に耳を傾けても、理解できるのはせいぜい3割ほど。SVOCどおりの整った英文などは存在せず、省略、倒置、比喩表現、聞いたことのないスラングなどが混じり合います。
45歳、ニューヨークで「きかんしゃトーマス」を聴く
こんな状態から、私の英語スパルタ特訓が始まりました。挫折から生まれた私の「リスニング克服法」を紹介します。日本で学んだ英語とニューヨークでネイティブ同士が学ぶ英語とのギャップを埋めるために、必要だと思ったことはシンプルに以下の2つ。
- ネイティブ特有の抑揚・リズムに「大量に」浸ること
- 凄まじく速いスピードに慣れること
この2つをベースにとにかく大量に聴いて聴いて聴きまくりました。ただし、やみくもにたくさん聴いてもリスニング力は伸びません。第二言語習得論的に、リスニングを伸ばす上で最も大切なことは、「9割分かるものを大量に聴くこと」です。慎重にリスニング素材を選んだ結果、私は「リスニング克服メニュー」をThomas the Tank Engineから始めることにしました。そう、「きかんしゃトーマス」です笑
45歳のいい年した元英語教員がニューヨーク初日からYoutubeで「きかんしゃトーマス」を聴きまくる、今思い出しただけでも爆笑ですが、当時の私はもうやるしかない。1日中、空き時間のほぼ全てを大学寮の自分の部屋で「Thomas the Tank Engine」を聴き、そして飽きてきたら「Curious George(おさるのジョージ)」を大量に聴く・シャドーイングする。でもアニメリスニングをナメたらいけません。学校教科書では学べないような抑揚やカジュアルな表現など、非常に学びが多い。おかげで私ほどきかんしゃトーマスに詳しい45歳はいない自信があります笑。1日5〜6時間はリスニングとシャドーイングをしていました。
このメニューを1週間ほどやって少し慣れてきた頃、リスニング素材の難易度を少し上げて「ABC News」を聴き始めました。David Muirの話す英語がかっこよく、大ファンだったのでこれなら何度聴いても飽きずに続けられると思ったからです。ダイジェスト版の1回20分の放送が長さ的にちょうどよく、同じものを朝晩2回聴く、もちろん完全コピーを目指してシャドーイングします。ニュース英語を選んだ理由は、ドラマ・映画ほどカジュアルな表現やスラングがなく、比較的分かりやすい標準的な英語を話してくれるからです。ここはもちろんCNNやBBCなどでも良いと思います。
※動画が表示されない場合は、ENGLISH JOURNALのオリジナルサイトをご覧ください。
そしてそれらに慣れてきた頃にようやく難易度が高いYouTubeやPodcastに移行し、目が開いている時間(起きている時間)で大学院の課題をやる時間以外はとにかくずっとリスニングをしていました。米国大学院入学から数カ月たった秋セメスター(9月から12月)終了時頃には授業の理解率が30%から60〜70%ほどまで上がった感覚がありました。間に合った〜(いや間に合ってない)。
アニメチャンネル → ニュース英語 → Youtube・Podcast
振り返ってみると、比較的短期間でリスニング力を高められたのは「簡単なものから始めたこと」と「大量に聴いたこと」の2つのポイントをしっかり押さえられていたことかなと思います。
あれ? 今日はなんだかはっきり聴こえるなあ
このように感じる日がしばらく続いたあと、どうやらこれは気のせいでも、クラスメートが気を使ってゆっくり話してくれているわけでもなく、自分のリスニング力が大きく向上したのだと気づきました。それまでは、聴き取れなかった部分を推測に頼ることが多かったのですが、音のリンキングや脱落がしっかり聴き取れるようになり、とんでもなく速いニューヨーカーたちの英語にもついていけるようになったのです。
言語習得の基本「簡単なものを大量に」
過去の自分を含めて、英語が伸びなくて悩んでいる人のほとんどは、教材選びで失敗しているように思います。つまり、自分のレベルに合った素材を選べていないということですね。英語学習を頑張る皆さんは向上心が強いため、また、いろんな教材や勉強法がSNS上であふれているため、初めから難しすぎるものを聴いたり読んだりしている傾向にあるような気がします。
第二言語習得論をベースにすれば、言語習得の基本は「簡単なものを大量に」。リスニングもリーディングも、インプット活動には「9割分かるもの」を大量に扱うことで英語回路ができてくるとされています。「え〜こんなに簡単でいいの?!」くらいがちょうど良いのです。TOEICや英検を目標にしている人なら、このような難易度を目安にしましょう。
TOEICを初めて受験する方
→ いきなり公式問題集に取りかかるよりもまずは単語帳を音声学習することから。
そのあとは簡単なPart1&2から取り組む。
英検を頑張っている方
→ リスニングは1つ下の級でまずは正解率8割を目指す。
などですね。
「リスニングが聴こえるようにならない」「リーディングが速く読めない」などのお悩みを抱えている方は、ぜひ一度、自分が「難しすぎる教材」を選んでしまっていないか、教材レベルの見直しをしてみてください。
次回の第3回は、「英語を話すために私が取り組んだこと」がテーマです。授業初日では「お地蔵さん」状態で話せなかったところから、成績オールAで卒業できたスピーキング上達法とは…。お楽しみに♪
西山数紀さんの本
サムネイル画像:Teachers College of Columbia University/Bohao Zhao/Wikimedia Commons/CC BY 3.0(色調補正あり)
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