「ワニ」はalligator?crocodile?言葉が通じても、頭の中の絵は同じじゃない

ずいぶん前、小学校で英語を教える先生向けの月刊誌を作っていた頃、付録の絵カードを制作していました。動物の絵に英単語を添える、ごくシンプルな教材です。ところが、「ワニ」のカードにalligatorと入れたところ、「この絵は本当にalligatorなのか。crocodileではないのか」という話になりました。それまで私にとっては、どちらもまず「ワニ」。英語にしようとした途端、それまで気にしていなかった違いが目の前に現れたのです。

「ワニ」の絵にalligatorと書いていいのか

日本語で「ワニ」と言われたら、私はまず、大きな口と長い尻尾を持った、あの爬虫類をぼんやりと思い浮かべます。

少なくとも当時の私は、「これはアリゲーターだろうか、クロコダイルだろうか」などとはほとんど考えていませんでした。

ところが、英語の絵カードとなると話が変わります。

「ワニ」という日本語だけならそれらしい絵で済んでいたものが、alligatorと文字を付けた瞬間、「この絵はalligatorとして正しいのか」が問題になります。

alligatorとcrocodileは、もちろん同じ動物の別名ではありません。例えば、一般にアリゲーターは幅の広い丸みのある口先、クロコダイルはより細く尖った口先を持つなど、見た目にも違いがあります。

参考:National Geographic「American Crocodile」

絵カードを作っていたときに問題になったのは、こうした生物学的な違いを詳しく教えることではありませんでした。

日本語なら「ワニ」で済ませていたものを英語に置き換えようとしたら、「では、どのワニなのか」と考えざるを得なくなった。

私には、そのことの方が印象に残りました。

「カボチャ」とpumpkinも、ぴったり重ならない

似たようなことを、つい最近も考えました。

日本で「カボチャ」と聞けば、濃い緑色の皮をした、煮物や天ぷらにもするカボチャを思い浮かべる人が多いでしょう。

でも、英語のpumpkinから思い浮かべやすいのは、ハロウィーンでもおなじみの、丸くてオレンジ色のカボチャです。

日本でよく食べるタイプは、英語ではkabochaやkabocha squashとも呼ばれます。

日本語では同じ「カボチャ」の中に入れているものを、英語にすると少し違った呼び分けが見えてきます。

この話は、先日公開した記事でも取り上げました。

絵カードのワニと同じで、「カボチャ=pumpkin」と単語を一対一で置き換えただけでは、どうも収まりが悪いのです。

cornfieldを見て、どんな畑を思い浮かべる?

さらにややこしいのは、同じ英単語を使っていても、地域によって思い浮かべるものが違う場合です。

その面白い例がcornです。

アメリカ英語でcornと言えば、通常はトウモロコシを指します。

ところが、EJの過去記事で翻訳家の宮脇孝雄さんが紹介しているように、イギリスの文章ではcornが「麦」などの穀物を指すことがあります。そのため、イギリスの小説に出てくるcornfieldを機械的に「トウモロコシ畑」と訳すと、まったく違う景色になってしまうことがあります。

同じcornfieldという文字を読んでいるのに、一人の頭には背の高いトウモロコシ畑、別の人の頭には麦畑が広がっているとしたら、なかなか面白い話です。

言葉は同じなのに、その向こうに見えている景色は同じとは限りません。

dogと聞いて、どんな犬を思い浮かべる?

もっと単純な例でも同じことがありそうです。

dogという英単語を知っている人は多いでしょう。では、dogと聞いて、どんな犬が頭に浮かぶでしょうか。

柴犬かもしれません。ラブラドール・レトリーバーかもしれません。ジャーマン・シェパードかもしれないし、子どもの頃に飼っていた犬かもしれません。

これは「dogの意味が分からない」という話ではありません。

意味は分かっている。それでも、頭の中に浮かんでいる「犬」の姿まで同じとは限らないという話です。

appleもそうでしょう。

赤いリンゴを思い浮かべる人もいれば、緑色のリンゴかもしれません。大きさも形も味も、実際にはいろいろあります。

ここまで来ると、必ずしも日本語と英語の違いだけではありません。住んでいる地域や文化だけでなく、育った環境や、それまでの経験によっても、言葉から浮かぶ像は変わりそうです。

同じ言葉を使っていても、同じものを見ているとは限らない

「異文化理解が大切だ」という言葉をよく耳にします。

もちろんその通りなのだと思います。

ただ、昔の絵カードのことを思い出すと、きちんと相手を理解するというのは、そう簡単なことでもなさそうです。

「ワニ」という、ごく具体的な動物一匹でも、alligatorなのかcrocodileなのかという違いが出てくる。

カボチャ一つ取っても、こちらが頭に浮かべているものと、pumpkinという言葉から相手が思い浮かべるものが同じとは限らない。

同じcornを読んでいても、頭の中の畑が違うことさえあります。

まして、礼儀や家族、仕事、幸福といった、目に見えないものについて「同じように理解している」と思うのは、ずいぶん難しいことなのかもしれません。

だからといって、いつも細かく定義を確認しながら話すわけにもいきません。

むしろ面白いのは、「え、そっちを思い浮かべていたの?」と、ズレに気付いた瞬間なのではないでしょうか。

私にとっては、あの「ワニ」の絵カードがその一つでした。

言葉が通じた。その先で、見えているものが少し違っていた。

そんなところから始まる会話も、きっとあるのだと思います。

山本 高裕
山本 高裕(ENGLISH JOURNAL編集部)

青山学院大学文学部英米文学科卒業後、高校英語教師として9年間勤務。その後、アルクで英語教材・語学コンテンツの編集に携わる。TOEIC通信講座を中心に15年以上、小学校英語関連の月刊誌でも7年間、教材・雑誌編集を担当。英語学習ウェブメディア「GOTCHA!」の編集、月刊『ENGLISH JOURNAL』編集長を経て、現在はENGLISH JOURNALのウェブコンテンツ制作や日本語学習動画の企画・制作に関わる。TOEIC L&Rスコア975。写真・ソーシャルメディアでの発信では、Google+で約360万人のフォロワーを集めた経験を持つ。

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