cornにギクッ!英語か米語か意識しないとへんてこな翻訳に!

アルクが クラブアルク会員 様向けに発行している語学情報誌、『 マガジンアルク 』より「イギリス英語 vs. アメリカ英語」と題して、さまざまな違いについて全3回に渡りご紹介します。

第1回では、 語彙・つづりの違い についてネイティブスピーカー同士の苦労についてご紹介しました。 

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第2回では、ベテラン翻訳者の宮脇孝雄さんに 語彙や文体の違い についてお話していただきます。

宮脇孝雄さん
40年間英米文学翻訳界の第一線で活躍し、『 マガジンアルク 』にて「英語翻訳ミヤワキ研究室」を連載中。

日常語に多い英米の違い

イギリス英語とアメリカ英語は、語彙、文法、文体などさまざまな点で異なります。でも近ごろ、若手の翻訳者の仕事を見ていると、イギリス英語とアメリカ英語の違いを意識せずに訳し、間違いを犯している人が多い。ほとんどの人がアメリカ英語を学んでいるので、イギリス関連の文章を訳す際に誤訳するケースをよく見掛けます。

私は大学などで翻訳を教えていますが、そういうわけで「イギリス英語とアメリカ英語の違い」について、基本的なところから授業で扱っています。

最も多いのが「日常的な語彙の違い」。特に名詞。おなじみなのが「1階」を first floor(米) ground floor(英) という例ですが、groundfloorはイギリスだけでなくヨーロッパ全体で使われています。また、車のトランクをイギリスでは boot と言いますが、「この荷物をbootに入れといて」と言われたアメリカ人が「ここに?」とブーツを指さすとか、この手の話は枚挙に暇がありません。

イギリス英語とアメリカ英語の違いを取り上げた辞書は結構多い

決まり文句の例では、イギリスでは You’re welcome. Thank you .への受け答えより、「いらっしゃいませ」という客への挨拶としてよく使う 。アメリカのホテルに滞在して違和感を覚えたと、あるイギリス人がエッセーに書いていました。それから、 Cheers! はイギリスでは 「乾杯!」よりThanks!の意味 でよく使われます。また、語感の問題ですが、アメリカでレストランの給仕係が客に Enjoy! と言うのを、bossy(偉そう)とか「余計なお世話」ととるイギリス人もいる。 Have a nice day! についても同様です。

前置詞の使い方でも差があって、write him(手紙を書く、正しくはwrite to himだが、米俗語は to を省く)、I met with him. / Where is the hotel at? (米俗語:それぞれ with 、atが余計)など。意味は通じても、小さな違和感をお互い抱えるかもしれません。

日常語・名詞の違いの

雑誌や書籍、ネットといったさまざまなメディアに、英米語の違いについて互いにカルチャーショックを受けた体験談などが載っていて、授業の題材はそういうところから選んでいます。例えば「ハリー・ポッター」シリーズは、英米語の違いに基づいてイギリス版とアメリカ版の両方が出版されていますが、どこが違うのかをピックアップして比べているサイトはいろいろありますよ。 

翻訳者の鬼門 corn

イギリスの小説を手掛ける翻訳者がほとんどと言っていいほど間違えるのが corn 。これは、イギリスでは「トウモロコシ」ではなくて「麦」を指します。 cornfield なら「トウモロコシ畑」じゃなくて「麦畑」。もともとcornは「穀物」の意味ですが、イギリスの代表的な穀物は麦なので、「麦」を指すようになりました。米語でcornが「トウモロコシ」を指すのは、昔アメリカに渡ったばかりの人たちが、あちこちに野生のトウモロコシが生えていたのでもっぱらそれを食べていた、そしてそれがcornとして定着した、という説が有力です。

cornにはもうひとつ“問題”があります。「麦」「トウモロコシ」のcornは不可算名詞なので冠詞のaは付きません。 a corn と出てきたら、これは イギリスでもアメリカでも穀物ではなく「ウオノメ」を指します 。たいがいの辞書に出ているのですが、簡単な単語なので、確かめてみないんでしょうね。誤訳している人がほとんど。私は英文にcornが出てくると、いまだにギクッとします(笑)。

あとよく見るのが dresser の誤訳。アメリカでは「化粧台」ですがイギリスでは「食器棚」の意味です。イギリスの小説を読んでいて台所に化粧台がある場合は、訳が間違っているということです(笑)。他にも誤訳を招く語彙の違いはたくさんありますが、訳していて違和感があったら必ず辞書で確認することですね。

回りくどい英文は回りくどく訳せ

イギリスの文章は、副詞や形容詞、修飾句が多くて長くて回りくどいのですが、翻訳も回りくどいままに訳して原文の味や面白さを表現しなくてはなりません。それを無視する人がこのところ多いんですよね。「わかりやすいほうがいいでしょ」とばかりに、文を短く分けて訳したりしていて、イギリス英語らしさを消している。最近、イギリスのユーモアミステリーの翻訳書が面白くない 原因 は、そこにあります。くねくねと曲がりくねった長い文の最後の一言で笑わせる、といった面白さを訳出しなければ、翻訳したとはいえないのです。

一方、アメリカの小説の文は短いから全てわかりやすい、というわけでもありません。イギリス人の文章は長回しですが、論理的につながっているので文をたどっていけばたいてい、無理なく結論に行き着く。アメリカ人の文章は、一文は短めだけれど文と文の間に「飛躍」があって、論理や発想がわかりにくい場合がままあります。実に難しい。それをわきまえずに字面だけ訳しても、作者の世界観はまったく伝わらない。SFやファンタジー小説の世界でいうと、アーサー・C・クラークはわかりやすい前者、ジーン・ウルフやブライアン・エヴンソンなどは後者に当たります。

英米語の違いを無視して翻訳する人たちは、ただの「英語のお仕事」として受けている場合が多いのではないのでしょうか。彼らの頭の中には、イギリス英語でもアメリカ英語でもない「グローバル英語」というものがあるのかもしれません。まずそういう意識を変えることが、きちんとした英文翻訳への一歩だと思います。

 

いかがでしたか? 第1回 の記事でも、同じつづりで意味の違う単語による混乱体験談をご紹介しましたが、翻訳者が苦しむのは英語と日本語の狭間だけではないということですね。イギリス英語とアメリカ英語の違い、これが大きな誤訳につながることもあるということなので、まず、「違う」という認識を持つことが大事ですね。

語り:宮脇孝雄
取材 / 文 / 構成 / 写真:マガジンアルク編集部
編集:GOTCHA!編集部 末次志帆

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