アルクが クラブアルク会員 様向けに発行している語学情報誌、『 マガジンアルク 』より「イギリス英語 vs. アメリカ英語」と題して、さまざまな違いについて全3回に渡りご紹介します。
最終回はモデルやタレントとして活躍するハリー杉山さんと、作詞家・作曲家のカン・アンドリュー・ハシモトさんの対談をお届けします。英語の元祖、イギリス英語にアメリカ人はどんな思いを抱いているのか?英語という国語は両国それぞれにとってどんな社会的な意味を持つのか? イメージや言語観の違い について思い切り語り合っていただきます!
ハリー杉山さん
イギリス人ジャーナリストの父と日本人の母のもとに、1985年に東京で誕生。11歳で家族と共にイギリスへ。ウィンチェスター・カレッジを経て、ロンドン大学では中国語を専攻。北京師範大学に1年間の留学経験も。日本に帰国後は、タレント、司会者、モデルとして活躍する傍ら、2013年より、駐日英国大使館「食の親善大使」も務める。NHK「ニュース シブ5時」、J-WAVE「POP OF THE WORLD」などTVやラジオの出演多数。
カン・アンドリュー・ハシモトさん
作詞家・作曲家。ジェイルハウス・ミュージック代表取締役。アメリカ・ウィスコンシン州出身。小学校でのALTを経て、教育・教養に関する音声・映像コンテンツ制作を手掛け、英語教材や教育用映像を多数制作。著書に『CD付き 3語でできるおもてなし英会話 すぐに 使える簡単な案内&接客フレーズを厳選!』(ディーエイチシー)など。
長くて遠回しなイギリス英語 短く直接的なアメリカ英語
―アメリカ人であるカンさんが、初めてイギリス英語と出会ったのはいつですか?
小学校2年生くらいの時、あるおばあちゃんから、 “Hello, pet!” ※1(pet=おりこうさん)と声を掛けられたのね。そうしたら母が、“Oh, she is British.”と言ったの。子ども心に、「これってイギリス英語なんだ」と思ったのが最初です。
もっと大きくなってからは、 憧れる音楽が全部ブリティッシュ 。60年代以降イギリスが世界の音楽をリードしていたからね。それがそのまま、本当の意味で、イギリス英語との出会いになった。ミック・ジャガーなんか、歌っている時は黒人っぽいんだけど、インタビューが始まると、“Wow, he is British!”なんだよ。ハリーの前で言うのはシャクだけど(笑)、 音楽はもちろん、イギリスの英語の音に対する憧れ も、どこかにあったの かもしれない 。大学のキャンパスで、イギリス英語を話す女の子がいると、わざわざ顔を見に行ったりしたものね(笑)。イギリス英語といえば、君たちがよく使う fancy (~を好む)という言葉、僕は結構好きだな。
ああ、fancyはよく言いますね。「最近、好きな子誰なの?」という感覚で、“Who do you fancy?”とか。
fancyは「高級な」という形容詞としてしか僕らは使わないな。君たちのfancyに一番近い表現は、アメリカだと、たぶん crush on 。“high school crush”という言葉があるんだけど、高校の時に好きだった子のことなんだよ。このcrushは名詞だけどね。
“crush on you”って、かわいらしい響きですよね。
うん、crush on も fancy も、気持ちが伝わってくる言葉だよね。
―アメリカの人たちは、イギリス英語にどんなイメージを持っていますか?
響きがとてもユニーク。しかも 頭が良さそう に聞こえる。
これは本当に人によると思うんだけど、アメリカ人の男性より女性のほうがイギリス英語を好む 傾向 が多少あるみたい。映画『ラブ・アクチュアリー』には、もてたいという妄想を抱いてアメリカを目指すイギリスの男の子が出てきます。
あと、 イギリス人の英語って、遠回し なんですよ。長い単語をやたらに使うし。だからカンさんが言うように、イギリス英語は頭が良さそうに聞こえるのかもしれません。だけど、「もっと簡潔に話してくれ」って言われることもありますよ(笑)。
長く言うと、丁寧な感じになるよね。僕はたばこ吸わないけど、“Can I smoke?”より、 “Do you mind my smoking?” と言ったほうが丁寧でしょ。彼女のお父さんの前では、丁寧に言ったほうがいい(笑)。
僕も吸いませんけど(笑)、喫煙者が誰かにもらいたばこをしたい時、ごく短い言い方なら“Can I have a fag?”のように言えますよ。“fag”はたばこのスラングです。もっとposh(気取った)に言うなら、 “You know, I really shouldn’t say this, but … ah … could I possibly have a cigarette please?” 長いし胡散臭いですよね(笑)。
アメリカ英語だったら、“ May I?”で済んじゃうな。日本で英語の学習書を作った時にね、ドアのノックに“Who is it?”と答えると書いていたら、アメリカ人の友人が言うんだよ。「そんなの“What?!”でいいじゃん」って(笑)。 アメリカの場合、シンプルな言い方でも、イギリス人が感じるほど失礼には思わない文化背景がある の かもしれない 。
―ハリーさんは、最初は日本のインターナショナルスクールで学んだそうですね。
5、6歳くらいから、英国系インターナショナルスクールに通いました。アメリカ英語を話す子もいましたが、映画やアニメでアメリカ英語にはなじんでいたから、違和感はなかったです。僕の英語自体、イントネーションなんかは、けっこうアメリカ寄りだったと思いますね。
11歳で父の故郷イギリスに引っ越しましたが、そのとたん、自分の英語をなんとかしなくては、という空気を感じました。ほぼ白人しかいない現地の学校で、僕は完全に東洋人だったし、話す英語もみんなとだいぶ違っていましたから。アメリカ英語とかいろいろ混ざった“インターナショナルアクセント”で、語彙力もなかったしね。
その後はイギリスで暮らす中で、自然とイギリス英語を話すようになりました。イギリスは好きだし、自分はやはりイギリス人だというプライドは、子どもながらどこかにありましたからね。
―アメリカ英語とイギリス英語の違いに、今でも戸惑うことはありますか?
あまりないです。でもあえて言うと、例えば piss という言葉。それ自体は「放尿する」だけど、 形容詞として使うと違う意味になります。 “I’m so pissed.” と イギリス人が言ったら、彼は「酔っぱらって」 います。同じことを アメリカ人が言ったら、その人は頭にきて「怒っている」 んです。同じ表現だけど、アメリカとイギリスで、まるきり意味が違う例だと思います。
話す英語で人を評価する国、しない国
―アメリカとイギリスの標準的な英語とは、どんな英語でしょう?
BBCでキャスターが話すようないわゆる標準英語を話すイギリス人って、せいぜい2パーセントくらいだそう。アメリカでも一応、“ General American English”という言葉はあるけれど、もともと移民の国だから、「スタンダードな発音って、それ何?」という話なの。
だけど日本人って、なぜこんなに発音を気にするんだろう? アメリカにも外国語の学習教材はたくさんあるけれど、日本みたいに発音にフォーカスする教材はないんじゃないかな。
僕は発音については、結構敏感なほうですよ。 イギリスは今でも基本的には階級社会で、パーティーなんかに行くと、その人が話す英語で評価される んです。
僕はよく、「きみ、東洋人なのに英語うまいね」と言われます。「オヤジがイギリス人なんだよ!」と言いたいところをグッと抑えて、「はい、僕はこういう学校を出て……」と話すわけです。 そもそも 初対面の会話で、出身校の話をすること自体、ナンセンスだと思うけど、それがイギリスです。
そういうお上品でposhな階層がある一方、下町のパブで気取った英語をひけらかしたりすれば、ヘタするとぶっとばされます(笑)。だから僕は、 普通の英語、下町英語、そしてposhな英語と、TPOで使い分け ています。ウィリアム王子が来日した際に大使館関係の仕事で会話を交わした時には、「男同士」な感じを出すためにあえて少し砕けた話し方をしましたね。
アメリカには、英語の発音で人を 判断 したりばかにしたりするという発想がない んだよ。
本当ですか!
僕の世代ではほとんどみんな、おじいちゃん世代は外国人だったわけだからね。今だって、外国にいっぱい親戚がいたりして、ミックスした発音で話す人が多い。メキシコ人に仕事を取られるからといって、彼らの話すスパングリッシュ(英語とスペイン語のミックス)を見下す人もいるけど、言葉そのもので差別したりはしない。だから日本人が、発音をそこまで気にする理由が、僕にはわからなかったんだけど、今ハリーから聞いたイギリスの話は、とても面白かった。
―そんなイギリスでも、アメリカンカルチャーの 影響 で、若い人を中心に英語は変化するのでしょうか。
大きな 影響 はありませんが、個々の単語ではいくらかあります。例えば dude 。「あいつ」とか「おまえ」とかいう意味で、イギリス英語なら mate ですが、最近はイギリス人の会話にもdudeはよく出てきますよ。
世代によっても英語表現は変わる んだよね。 gross という言葉は、僕たちの世代では「気持ちが悪い」といった意味。でも若い子たちは、awesomeやcoolと同じように、「すごくいい」の意味で“It’s gross!”って言ってるんだよ。以前は「悪い」の意味だった wicked も、「かっこいい」という意味で使われたりする。日本の若い子が言う、「ヤバイ!」と似てるよね。
イギリスでもsickを「かっこいい」の意味で使いますね。あと、ロンドンの労働者階級が使うcockney(ロンドン下町訛り)は有名ですけど、最近いい家の子がワルぶって、 コックニーをまねて話すのを、mockney( mock =まねる)と言う んです。結局 すぐに バレちゃうんだけど、結構mockneyはいるんですよ。
うん、言葉は生きていて、時代と共に変わるからね。
―お芝居の世界では、アメリカ人がイギリス人を演じたり、その逆もよくありますね。
アメリカ人がイギリス人を演じているのを見ていると、すごいなあと思いますよ。『恋におちたシェイクスピア』のヒロイン、 グウィネス・パルトロウは、すごくきれいなイギリス英語 を話してたな。
僕はアメリカ英語からしか 判断 できないけど、舞台で『リチャード三世』を演じた ケヴィン・スペイシーのイギリス英語 も、素晴らしいと思った。
スペイシーのイギリス英語は完璧です。
―TVドラマ『ダウントン・アビー』で人気が出たイギリス人俳優ダン・スティーヴンスが映画『ザ・ゲスト』でアメリカ人役を演じましたが、カンさんはどう思われました?
時々、「あ、これはイギリス人の英語だ」ってわかるところはあったね。でも アメリカには、イギリスのルーツが英語に残っている人が結構いる んだよ。アメリカにいるある友人はイギリス人で、イギリス英語しか話さないから、彼の娘たちが話す英語にはイギリス英語が微妙に混ざってる。さっきも言ったけど、親の家系によって、いろんなミックスした英語を話す人が多いのは、アメリカらしいと思うな。
―ハリーさんが、フランス訛りやロシア訛りの英語を話すのをラジオで聞きましたが、いかにもそれらしくて、面白かったです。
イギリスでは、みんなそういう物まねをして、ふざけるんですよ。 イギリスの文化って、お互いをからかったり、ばかにしたりしながら、仲良くなる面がある んです。インドネシアやバングラデシュの人がやっている小さな店に行けば、その人たちの英語のアクセントが面白くて、どうしても笑っちゃう。彼らの英語はユニークで、大好きだし、ユーモアを感じるんです。テレビでも、いろんな国や民族や、poshな人々、各界の権威といわれる人まで、片っ端からこき下ろし、からかうような娯楽番組が人気です。「モンティ・パイソン※2」シリーズとか。僕が好きなのが、コメディアンのサシャ・バロン・コーエン※3。ボラットというカザフスタン人ジャーナリストというキャラに扮してユダヤ人やポーランド人やアメリカ人をおちょくったり、アリ・Gというブラックカルチャーかぶれの白人ラッパーとしてラップの世界をばかにしたり、本当にくだらないけど、ものすごく面白いんですよ。
まさにブリティッシュカルチャーだね(笑)。アイロニックで毒がある。一瞬、アメリカのほうがちょっと幼稚なのかなとも感じた。 アメリカだと、例えば黒人やヒスパニックや、その他マイノリティーの英語をばかにしたり、からかったりすると、冗談じゃ済まない 問題になったりするからね。でも僕には、そういうアメリカの側面もある意味誇りだし、たぶん笑いのツボが違うんだろうと思う。
僕はイギリス人らしく、結構「毒」があるんですよ。でもその「毒」の部分をそのまま日本語にすると、単なる「イヤなヤツ」になっちゃって、真意が伝わらない。
それはわかる気がする。例えば日本ではいちいちpleaseを付けるけど、僕らネイティブには丁寧過ぎて違和感がある。だけどpleaseなしだと、日本語に訳すと「立て」とか「座れ」とか、とても乱暴に感じるんだよ。言葉は文化を連れてくる。だからハリーの「毒」の部分は、日本語文化では「イヤなヤツ」 かもしれない けど、英語文化ではそうじゃないんだよ。
英語を話している時と、日本語を話している時と、人格や性格は変わらないけど、話し方や受け答えはまったく違います。 英語を話している自分のままで日本語を話すと、感覚がずれてしまう んですよね。KYな感じになったり、トーンがノリノリ過ぎたり。だから日本語で話す時は、なるべく日本寄りに考えるようにしています。
―最後に英語を学ぶ日本人に、アドバイスをいただけますか?
例えばアメリカに行って本気で英語を学びたいなら、料理学校でも絵の学校でも、何でもいいから語学学校以外でも勉強して、 体験から英語を身に付けるのがいい。英語はツールなんだから。そして発音は二の次、三の次でいい 。
大事なのは、言葉に喜怒哀楽が乗っている かどうか 、魂がある かどうか 。 誰でも何かしら、趣味や興味があると思うんですよ。僕の場合なら、ファッションとかサッカーとかね。へたくそな英語でも、自分の好きなファッションについて、何とか相手に伝えようと、がむしゃらに話すことで、意思の疎通ができる。そうしたら今度は、新しい表現を探して使ってみる。すると、さらに明確に話が伝わるんです。
―ありがとうございました。
- ※1 petよりもdearのほうが一般的(イギリス)
- ※2 1960年代末~80年代に活躍したイギリスのコメディーグループ。不条理で毒のある笑いで人気を博した。
- ※3 (1971-)ケンブリッジ大卒のユダヤ系。代表作に映画『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』など。
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取材・文:田中洋子
構成・写真:マガジンアルク編集部
編集:GOTCHA!編集部 末次志帆
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