なぜオランダでは英語がこんなに普通に使われているのか?【「学ぶ英語」と「使う英語」の あいだで】

YouTube やポッドキャスト、書籍を通じて英語学習に役立つ情報を届けてきた「Sakura English」のサクラさん。現在は、ご家族とともにオランダで暮らしています。非英語圏ながら、オランダは英語力で世界のトップクラス。そんなオランダでの生活の中で、「英語を教える・届ける側」と「英語を使って暮らす側」の両方の視点を生かし、サクラさんが英語について考えたことをつづります。
第1回は「なぜオランダでは英語がこんなに普通に使われているのか?」。現地での体験を交えながら、オランダの英語事情や、英語を学ぶことで広がる可能性について語ります。

オランダで考える、英語のこと

みなさんはじめまして。今月から連載をさせていただくことになりました。Sakura English のサクラです。 YouTubeやポッドキャスト、さらに書籍で、「英語を身につけたい!」という方に向けて、英語のコンテンツを届けています。

私自身一人の学習者として初心者からスタートし、現在も学習を続けています。役立ったこともあれば、やらなくてよかったこともたくさん経験し、それらの経験からSakura Englishの活動をしています。

現在住んでいるのはオランダの小さな街です。ここに住むことになった理由はいくつかありますが、その一つは友人の恋人がオランダ人だったことです。背が高くて、英語の上手な彼が「僕より上手に話せる人はオランダにたくさんいるよ」と言っていたのが印象に残りました。それがオランダに興味を持った最初のきっかけです。そう考えると、今こうしてオランダに住んでいることも、「英語」抜きでは語れません。

そこで連載第1回は、私がオランダで暮らしていて感じる「英語」について書いてみたいと思います。

「英語で大丈夫」が本当に大丈夫

オランダの公用語はオランダ語です。ところが生活をしていると、「国民全員が英語話せるんじゃないの?」と思うくらい、多くの人が英語を話します。道を尋ねる。レストランで注文する。銀行で手続きについて質問する。これくらいなら、ほかの国でも珍しくないかもしれません。

でも、オランダで暮らしてみると、こんなことがありました。

私には3人子どもがいます。3番目の息子は、オランダの現地の学校へ通っています。ですから、息子の学校生活はオランダ語、先生との会話もオランダ語です。学校では学期末に、日本と同じように先生との面談があります。本来ならオランダ語でやり取りをするのが当然ですよね。ところが、私がオランダ語をあまり話せないとわかると、先生はすぐに英語に切り替えてくれました。

“I’m not very good at English, sorry.” 「私あんまり英語が得意じゃないからごめんね」

そう言いながら、先生はとてもスムーズな英語で面談をしてくれました。

ほかにも、勧誘や募金のお願いで家にやってくる人たちも、私が「オランダ語があんまりできない」とわかると、すぐに英語にスイッチして普通にトークを始めます。そのスイッチの速さや自然さ、さらに英語で話すこと自体に特別なことをしている感じがない。これが、オランダに来て私が驚いたことでした。

学校のイベントにて。自然がいっぱいで、こぢんまりした印象のオランダ現地校。

小さな国だからこそ、外とつながる

オランダは、非英語圏の中でも英語力が非常に高い国として知られています。どうしてオランダの人たちはこんなに英語が上手なのでしょうか。何度かオランダ人に聞いてみたことがあります。

“Why are Dutch people so good at English?” 「どうしてみんな、そんなに英語が上手なの?」

返ってくる答えはさまざまです。中には、「本当にそれだけで、こんなに話せるようになるの?」と思うものもありました。「テレビを見てたからね」「クラスにイギリス人がいたんだよ」「学校で勉強したからね」学校で勉強しているのは私も同じ。最後のコメントは耳が痛い思いでした。

日本から来て実際にオランダで暮らしていると、強く感じることがあります。それは、「外国との距離の近さ」です。

オランダは日本と比べると、とても小さな国です。周囲にはドイツやベルギーがあり、海を越えればイギリスがあります。車や電車で、するっと国境を越えることもできます。ビジネスでも観光でも教育でも、日本と違って自分の国の中だけで全てが完結するわけではありません。外国とのやり取りは、生活の延長線上にあるのでしょう。

そして、そのときに共通語の一つとして使われるのが英語です。実はオランダでは、オランダ語と英語だけでなく、さらに別の言語も話せるという人にもよく出会います。外国語を使う必要性が身近にあること。オランダ語と英語をはじめ、ヨーロッパの言語同士に共通点が多いこと。そうしたさまざまな要素が重なっているのだと思います。

テレビを見て気づいたこと

もう一つ興味深いのが、英語に触れる量です。

オランダでテレビを見ていると、アメリカやイギリスの番組や映画が普通に放送されています。英語の音声はそのまま流して、オランダ語の字幕を付けていることもよくあります。つまり子どもの頃から、映画やドラマ、音楽、インターネットなどを通して「英語の音」が日常生活の中に入っているのです。先ほども触れたように、実際「テレビで英語の番組を見ていたから英語が話せるようになった」、という意見の人もいました。

かたや日本では、最近訪日観光客のインタビューなどをニュースで使っていることもありますよね。でもなぜか彼らの英語の音声の上に、日本語のナレーションがかぶせられていることがあります。視聴者にとっては日本語の方が理解しやすいでしょうが、英語圏ではない人が、わざわざ英語で答えてくれていることもあります。それなのに日本語のナレーションをかぶせてしまうのは、いろんな意味でちょっと残念だなと感じてしまいます。そうしたちょっとしたことが、何年、何十年と積み重なると、英語との距離感に影響してくるのではないか。

オランダに暮らすようになって、そんなことを考えるようになりました。

英語は誰のもの?

もう一つ、英語が公用語でないオランダに住んでから強く感じるようになったことがあります。

それは、英語は必ずしも「英語圏の人と話すための言葉」ではない、ということです。こちらにいると、オランダ人と日本人が英語で話し、ドイツ人とインド人が英語で話し、スペイン人とオランダ人が英語で話す、といった場面が日常的にあります。お互いにとって母語ではない。でも、二人が話すなら英語がいちばん通じやすい。そんな「共通のツール」として、英語が使われています。

私が英語学習を始めた頃は、「ネイティブのように話せること」をどこかでゴールのようにイメージしていました。そんな思いがアメリカ留学につながったと思います。もちろん、きれいな発音や自然な表現を身につけることは素晴らしいことです。でもそのゴールはとても遠く、そのために苦しい思いもしました。

でもオランダで生活する中で、さまざまな国の人が、それぞれの英語を使ってコミュニケーションをしているのを目の当たりにすると、「これだよね!」と肩の力が抜ける感じがありました。大切なのは、自分の言いたいことを伝えられること。そして、相手の言いたいことを理解しようとすること。

オランダで暮らしていると、英語という言葉のそんな一面を見せてもらっている気がします。

日本とオランダ、どちらがいいという話ではなく

オランダに住んで、むしろ日本の素晴らしいところにもたくさん気づきました。時間通りに電車やバスが来ること。安くておいしいものがたくさんあること。丁寧なサービスを受けられること。日本にいた頃には当たり前だと思っていたことのありがたさを、離れてみて初めて実感することもあります。

では、英語学習についてはどうでしょうか。

私は勤勉な国民性の日本人だからこそできる方法があると思っています。その一つが、「英語に触れることを習慣にしてしまう」ことです。

歯磨きをするとき。通勤するとき。料理をするとき。運動するとき。すでに毎日やっていることに英語を組み合わせれば、「さあ、英語を勉強しよう」と気合を入れなくても、英語に触れる時間を少しずつ増やすことができるのではないでしょうか。オランダの人たちがテレビや映画、仕事や日常生活の中で自然に英語に触れているように、英語を普段から耳にすることが習慣になったらいいですよね。

英語が人生を変えた、わけではないけれど。

冒頭で、私が今オランダに住んでいることは「英語」抜きでは語れない、と書きました。

でも、「英語を勉強したから人生が変わった」と言ってしまうと、少し大げさな気もします。英語は、何かを劇的に変えてくれた魔法のようなものではありません。でも、英語なしでは今の私はなかったともいえます。どちらかというと、英語ができるようになったことで、目の前に現れる選択肢が少しずつ変わってきたという感覚かもしれません。

海外へ行ってみよう。
英語を仕事にしてみよう。
日本以外で暮らしてみよう。

英語を勉強し始めた頃には、想像していなかったことが、少しずつ現実的な選択肢になっていきました。そう考えると、英語がくれた一番大きなものは、新しい選択肢だったのかもしれません。

これからこの連載では、オランダで暮らしていて気づいたことや、私自身が英語を学んできた中で感じたことを、いろいろとお話ししていきたいと思います。みなさんの英語との距離が、今よりほんの少し近くなる。そんなきっかけになればうれしいです。

サクラ(Sakura English)
サクラ(Sakura English)

YouTubeチャンネル登録者数80万人、各種ポッドキャストの総フォロワー数100万人(2026年8月現在)を誇る人気英会話アカウント「Sakura English」を運営。 自身も英語学習者として紆余曲折を経験してきたことから、初心者でも自分の意見を英語で伝えられるようになることを目指し、実践的な英語学習コンテンツを発信している。オランダ在住。 著書多数。最新刊『ストーリーと型でよくわかる ふだんの英会話12ヶ月』(大和書房)が11月18日発売。
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