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ウィキペディアは正体不明のユーザーたちがひっそりと編集している――そんなイメージがあるかもしれませんが、実はウィキペディアの編集者たちはしばしばオフ会を開催しています。カフェで2、3人がおしゃべりする小規模なものから、数百人が集う国際会議まで、その規模はさまざま。今回は、2024年5月にマレーシアで開催された大規模な国際会議で、筆者も参加した「ESEAP Conference 2024」を紹介します。
ESEAP Conferenceとは?
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2024年5月10日から12日にかけて、マレーシアのコタキナバルで「ESEAP Conference 2024」が開催されました。ESEAP とは“East, South East and Pacific”の略で、その名のとおり本会議には、東アジア、東南アジア、太平洋地域から100名近くのウィキメディアン(ウィキペディアをはじめとするウィキメディア・プロジェクトを編集するボランティアたち)が集まりました。
この会議を主催したのは、当該地域のボランティアたちが結成するESEAPハブです。また、ウィキペディアなどを運営するアメリカ合衆国の非営利法人ウィキメディア財団からのサポートもありました。
ちなみに、よく勘違いされるのですが、ウィキメディア・プロジェクトの編集や、それにまつわるイベントの運営を実際に行っているのは、基本的にボランティアのウィキメディアンたちです。ウィキメディア財団は各種サービスの維持・管理や、イベントの資金援助を行う後方支援部隊と考えてください。
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文化保存活動など、さまざまな発表
会議に参加したウィキメディアンたちは、各地のグッドプラクティスや課題を共有したり、ウィキメディア全体のガバナンスについて議論をしたりしました。以下、いくつかご紹介します。
まず特筆すべきは、ウィキメディア・プロジェクトを活用した文化保存活動でしょう。本連載で以前紹介したウィクショナリーなどを用いて、中央ドゥスン語の保存に取り組む学生団体ケント・ウィキ・クラブや、アオテアロアの文化を保存するウィキメディア・アオテアロア・ニュージーランドが発表を行なった他、教科書プロジェクト「ウィキブックス」を活用してスンダ族の料理のレシピを記録する「WikiRenjana」というプロジェクトが紹介されました。
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また、ウィキメディア全体のガバナンスについての発表・ディスカッションも行われました。ウィキメディア運動の価値や原則が記された「ウィキメディア運動憲章」や、ESEAP地域における「ESEAPハブ憲章」についての情報が共有された後、今後のウィキメディアがどのように成長していくべきか、参加者たちが意見交換を行いました。
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なお、ウィキペディアへのアクセスが制限されている地域から参加した方もいらっしゃいました。中国のウィキメディアン HiNacny さんは、同地でVPNを使いながらウィキペディアを編集するユーザーたちへのインタビュー調査を取り上げ、女性ユーザーの数が少ない現状を紹介しました。
日本のウィキメディアンたち
なお、日本からも、私を含む3人のウィキメディアンが参加し、発表を行いました。
まず発表を行なったのは、ボランティアグループWikimedians of Japan User GroupのメンバーVZP10224さん。2023年秋に同グループが実施した、日本語版ウィキペディア利用者たちの属性やモチベーションに関するアンケートについて発表しました。なお、会議の参加者からは「こんなに詳細なアンケートが行われたのですね」いうコメントがありました。
次に発表したのは、書籍『70歳のウィキペディアン』の著者である門倉百合子さん。ウィキペディアンとしてのご自身の経験を紹介し、「シニアこそぜひウィキペディアの編集を」という提言を行いました。また、司書として働かれていた経験から、図書館とウィキペディアの相性の良さについても紹介しました。
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また、私もマレーシアの友人タウフィク・ロスマンと一緒に発表を行いました。私とタウフィクはESEAP地域のウィキメディアン・オブ・ザ・イヤー受賞者として、これまで開催した編集イベントや国際プロジェクトなどについて共有しました。
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国際会議の意義と成果
このような国際会議は、ウィキメディアンが知見を深め、プロジェクトを発展させていく上で、非常に重要なものだと思います。私自身、いろいろなことを学ぶことができましたし、ESEAP地域の友人たちとの親睦を深めることができました。なお、各国のユーザーたちもウィキメディア・プロジェクト上にレポートを作成しているので、興味がある方はぜひご覧ください。
まとめ
ウィキメディアンの国際会議「ESEAP Conference 2024」を取り上げ、その内容や意義についてご紹介しました。ウィキメディア・ムーブメントに関心を持っていただくきっかけとなれば幸いです。
さて、突然ですが本連載「ウィキペディアの歩き方」は今回が最終回です。
2024年1月に前任の北村紗衣さんから連載を引き継いで以来、私は6本の記事を書かせていただきました。このような貴重な機会をいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。皆様からいただいたコメントには何度も勇気づけられましたし、励みになりました。また、機械翻訳を活用して記事を読んでくれた海外のウィキメディアンからメールで感想をもらえたのも、大変うれしかったです。
最後に改めて、アルク社の皆さま、ご協力いただいたウィキメディアンの皆さま、そして本連載を読んでくださった皆さまに心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。またどこかでお目にかかれれば幸いです!
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