すみません・恐れ入ります・ごめんなさい・申し訳ございません・・・日本の「謝罪」の言葉と独特の文化に迫ります【日米文化の裏側】

ご迷惑・ご不便をおかけして、お騒がせして、ご不快な思いをさせて、「申し訳ありません」「ごめんなさい」「すみません」。日本の「謝罪」に関する表現や文化、慣習は独特で、海外から疑問視されたり、時には国内から「過剰だ」という声が上がったりもします。日本語も英語も博多弁も操る、“言葉が大好き過ぎる”言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんの目には、どう映っているのでしょうか?

「謝罪」の意味、そして日本とアメリカの違いは?

とにかく謝る日本人

「日本人はずーっと、永遠に謝っている」

これは、私が日本語を勉強し始めてからすぐに思うようになったことです。全ての文章の始まりと終わりには、「恐れ入ります」「申し訳ございません」「すみません」「お手数ですが」などの言葉がくっついている気がしました。

皆さんも、飛行機の機内アナウンスで流れる日本語が、英語より3倍は長いと思ったことはありませんか?その理由は、日本語のアナウンスの最初と最後が、謝りの言葉だらけだからです。一方、英語のアナウンスはHey folks!!(やあ皆さん!)なんて言葉で始まったり、 I hope you enjoy the flight!(フライト、楽しんでねー!)みたいなカジュアルなニュアンスが多かったりします。あまりにもギャップがありすぎて笑いたくなることさえあるくらいです。

ポイントカードのない私が謝罪された!?

続いて、コンビニでの体験談をお話ししましょう。ある日、レジの人に「ポイントカードをお持ちですか?」と聞かれて、「いいえ、持っていません」と答えたら、「恐れ入ります」と言われました。日本に「謝る文化」というのがあるのはずっと前から知っていたけれど、私がポイントカードを持っていないからって、レジの人が謝るとは・・・と、不思議で仕方がなかったです。

ここで「恐れ入ります」を使うのは日本語として変だと思う人がいるかもしれませんね。(もしかして、バイト敬語の一種なのかな?でも、ここではそれは脇に置いておきます。)

「恐れ入ります」を辞書で調べてみると、Sorry to trouble you.が出てきます。アメリカの場合、コンビニのレジ係は間違いなく、ポイントカードを持っていないお客様にSorry to trouble you.と言わないでしょう。とはいえ、アメリカが「謝らない文化」というわけでもありません。

じゃあ、人間って一体いつ謝るべきなんだろう?そして、「謝る」ってそもそもどういう意味?もしかしたら、日本語と英語の感覚や概念は全然違うのかもしれません。

というわけで、今日は、日本語と英語の謝罪の言葉と概念について解説していきたいと思います!さて、始めましょう!

日本語の謝罪の言葉

まずは、日本語のさまざまな謝罪の表現と、対応する英語のフレーズをリストアップしてみます。

  • 「ごめんなさい」:I am sorry / excuse me
  • 「恐れ入ります(が)」:I am sorry to trouble you / excuse me / pardon me
  • 「お手数ですが」:I am sorry to trouble you
  • 「すみません」:I am sorry to trouble you / excuse me / I am sorry
  • 「申し訳ございません」:I am sorry / unfortunately / excuse me

日本語を学習している人がこれを見ると、「全部同じで困る!」と思ってしまうかもしれません。だけど、日本語を勉強すればするほど、これらの表現のニュアンスの違いがだんだん分かってくるのです。

先ほどのポイントカードの話に戻りましょう。この場合、レジの人は「ごめんなさい」とは言わないでしょう。上のリストからも分かるように、「恐れ入ります」と「ごめんなさい」のどちらにもsorryのニュアンスがありますが、日本人は使い分けていると思います。

謝罪の言葉に関して、私は次のように考えています。

  • 「ごめんなさい」:自分が間違いなく悪いことをしたから謝るときの表現。
  • 「恐れ入ります(が)」「お手数ですが」:ちょっとしたことを頼んで迷惑をかけていることに対して謝る表現。文章や、接客のシーンでよく使われている。
  • 「すみません」:自分が悪いときや、ちょっとした迷惑をかけたときに謝る表現。そして、ささやかな感謝の気持ちを伝えたいときにも使う。
  • 「申し訳ございません」:とても複雑な意味を持つ表現。自分が悪いときや、まずい状況のとき、または、とにかく謝った方がいいときなどに使う。

どうでしょうか。このアメリカ系日本人の解釈は合っていますか?

英語の謝罪の言葉

英語の典型的な謝罪の言葉は、I’m sorryI apologizeです。意味はほぼ同じですが、apologizeの方がより丁寧でフォーマルになります。

この二つの表現は一番オーソドックスで、後ろに「何に対して謝っているのか」という内容がよく付いてきます。

I am sorry for hurting your feelings.
あなたの気持ちを傷つけてしまってごめんなさい。

I am so sorry for my actions.
自分のやったことを反省しています、ごめんなさい。

I apologize for being so rude.
失礼なことを言ってしまい本当に申し訳ないです。

I apologize for my terrible behavior.
私のやったことは本当にひどかったです、ごめんなさい。

I am sorry about the way I behaved.
自分の振る舞いについて反省しています。

または、sorry / apologizeでいったん文章を区切り、その後にもう一つの文章を付けて、何についての謝罪か説明するパターンもあります。

I am so sorry. I was totally out of line.
本当にごめんね。言い過ぎた。

  • out of line:(発言内容が)言い過ぎで、口が過ぎて

I am really sorry. I feel terrible for what I did.
本当にごめんなさい。私は自分がしたことをとても心苦しく思っています。

I am really sorry. That was really thoughtless of me.
私は全く思いやりがなかった、本当に申し訳ない。

I apologize. I was wrong.
ごめんなさい。私が間違っていました。

それから、次のような、もうちょっと軽い謝罪のフレーズもあります。日本語の「あ、ごめん!」みたいな感じですね。

  • I screwed up! / I messed up!(やらかしてしまった!)
  • Sorry about that!(あっ、ごめん!)
  • Oops!(あっ、やらかした!)
  • My mistake!(やらかした!)
  • My bad!(あ、やばっ!)
  • Sorry, I didn’t mean to do that.(ごめん、わさとじゃなかったんだよ!)

文化の違いについて考える:「せい」vs「責任」

日米間のビジネスで起こりやすい問題

異文化コミュニケーションの専門家ロッシェル・カップ氏は、「反省」についてよく書いたり話したりされています。カップ氏によると、「反省」という概念はあまりアメリカにないため、ビジネスの場面でよく勘違いが起きるといいます。

そもそも、英語には「反省」という日本語にぴったり当てはまる単語がありません。辞書で調べると、reflectionはよく出てきますが、もの足りない感じがします。

カップ氏いわく、ビジネスにおける反省には「3つのステップ」があるそうです。

  1. 起こったことについて謝る。/ Apologize for what happened.
  2. なぜ起こってしまったかを考える。/ Reflect on why it happened.
  3. もう一度同じことが起こらないないように計画を立てる。 / Develop a plan so that it doesn’t happen again.

日米間のビジネスでしばしば問題になるのは、1.です。アメリカ人は、自分が悪いと思っていなければ謝りません。つまり、自分の「せい」であるときしか謝らない。例えば、事故に遭ったときは絶対に謝らない方がいいと言われています。なぜかというと、謝ることによって「自分のせいだ」「自分が悪かった」と責任を認めることになるからです。そうすると、法的に責任を取らなければいけません。

「私のせいじゃない!」は英語でなんて言う?

英語で「~(人)のせい」はfaultを使って表します。

It’s not my fault!
私のせいじゃない!

It’s not my fault! It’s his!
私のせいじゃないよ!彼が悪い!

It’s his fault.
彼のせいだ。

Who’s fault is it?
誰のせいですか。

アメリカではこうしたセリフを毎日のように耳にします。子どもから大人まで、自分を守ろうとする場面で普通に使います。一方、日本に来てからは、あまり「私のせいじゃない!」というセリフを耳にしないことに気付きました。

店員と客、「責任」はどっちにある?

ある日、アメリカのカフェで私の前に並んでいた人がバリスタにこう言いました。

  • Excuse me, you forgot to put whipped cream on my coffee.〈すみません、コーヒーに (ホイップした)生クリームを入れるのを忘れてますよ〉

バリスタの返答はこうです。

  • You didn’t tell me you wanted whipped cream.〈あなたは生クリームが欲しいと言ってなかったでしょう?〉

つまり、「私のせいじゃないよ。私は悪くない。生クリームが欲しいと言わなかったお客さんが悪いんです」というわけです。

このやりとりは日本で起こり得ないでしょう。もし、お客さんが「生クリームが欲しい」と言っていなかったとしても、バリスタが自分を守ってお客さんを責める、なんてことはありません。「申し訳ございません。すぐ対応します」と言うケースがほとんどだと思います。

つまり、バリスタの「せい」ではないけれど、お客さんを満足させることはお店の「責任」なので、この不満足な状況を招いてしまい申し訳ございません、という思いで謝罪するのです。

もちろん、日本人と同じように考えるバリスタはアメリカにもいます。そういうバリスタは、I’m so sorry. I’ll take care of that for you right away.(申し訳ありません。すぐに対応いたします)とお客さんに丁寧に伝えます。

アメリカの接客は非常に極端で、ものすごく丁寧でフレンドリーな人もいますし、とても失礼な人もいます。

未曾有のパンデミックで見えた「謝罪」の違い

大切な講演当日、まさかのコロナ陽性

について、また別の側面からも見ていきましょう。

コロナ禍で新型コロナウイルスに感染した芸能人は、必ずと言っていいほど記者会見やSNSで謝罪していましたね。私はこの現象がずっと不思議で仕方ありませんでした。だって、コロナにかかることは別にその人のせいじゃないでしょう?悪いのはウイルスです。それでも、「ご迷惑をおかけし申し訳ございません」と謝罪した方がたくさんいて、正直、気持ち悪かったものです。

しかし昨年、自分がコロナに感染したことで、やっとその「謝罪の理由」を理解できました。

2023年1月、私は非常に大事な講演会イベントの日に、コロナ陽性であることが判明したのです。そのため、当日キャンセルをしなければなりませんでした。私は悪いことや、無責任なことは何もしていません。したがって、コロナ感染は私のせいではないという認識です。

けれど、1年という時間をかけて、一生懸命イベントの準備をしてくれたスタッフの方たちや、私のトークを楽しみにしてくれていたファンの皆さん。彼らへの申し訳ない気持ちがあふれて止まりませんでした。

イベントが当日キャンセルになったことは、私の「せい・・」ではないけれど、私の「責任・・」でした。なぜなら、私なしでイベントは成り立ちません。

この状況になってしまったこと、そして、さまざまな方たちに迷惑をかけてしまったことが残念で仕方がないからこそ、「申し訳ございません」と言いました。そしてその日に、「申し訳ない」の意味を理解することができ、「迷惑」の重さを実感したのでした。きっと、謝罪していた芸能人の人たちも同じ気持ちだったのでしょう。

アメリカで芸能人が「謝罪」する場合

日本に住んで23年。私にはずいぶん前からアメリカ人の感覚がなくなっているけれど、アメリカの芸能人の場合はどうかも考えてみます。

コロナに感染したことによってコンサートや舞台が中止になったとき、がっかりしているファンの人たちに対して申し訳ない気持ちはあるけれど、きっと日本人ほどでないでしょう。「迷惑」という概念の濃い日本人の方が、より苦しむように感じます。

アメリカでイベントが中止になると、芸能人が次のように発言するのをよく耳にします。

I am sorry to disappoint all my fans who were looking forward to the concert.
ライブを楽しみにしてくれていたファンの皆さんをがっかりさせて申し訳ありません。

I am sorry to disappoint everyone who bought a ticket to the show.
舞台のチケットを買ってくださった皆さんを失望させてしまい、本当に残念です。

まとめ

皆さんの耳にタコができるくらい言ってきたことですが、「言葉」と「文化」と「世界観」の繋がりを理解することは多文化理解に欠かせません。

この謝り方の違いについても、もし知らなければ、日本人は「アメリカの人はわがままでプライドが高い」と思ってしまいそうですよね。「ただ謝れば済むのに、なんで謝らんの?」と。一方、アメリカ人は「日本人はすごく弱い」と思ってしまうかもしれません。「なんであの人は、全く悪くないのに延々と謝っているの?強くなれー!」って。

どちらが「良い」か「悪い」か、という問題ではありません。世界観が違うだけです。人間の行動や価値観、そして、国の文化の土台になっているのは、世界観です。

これからもずっと、この大切なことをEJの記事を通して解説していきたいと思います!もし、私の解説が分かりにくかったら、申し訳ない・・・反省して改めます!


アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

アン・クレシーニさんの書籍や連載

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upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!

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