チャレンジはchallengeに非ず!?正しく使い分けるのはchallengingなチャレンジです!【日米文化の裏側】

皆さんは今年、何か新しいことにチャレンジする予定はありますか?「言葉」大好きアンちゃんは、40代になってから突然「チャレンジ精神」が溢れてきたそうです。ところで、実はこの「チャレンジ」と英語の「challenge」は似て非なるもの。何が違うのか、じっくり見ていきましょう!

アンちゃん、チャレンジャーにリニューアル!

私は40代に入ってから、いろいろ変わり始めました。髪形を刈り上げにしたり、ピアスの穴をたくさん開けたり、まるでそれまでとは別人のようになりました。外見だけではなく、中身もだいぶ変わりました。価値観や考え方などがあまりにも変わりすぎたから、「アンちゃんは生まれ変わった」と言っても過言じゃないと思います。

そしてもしかしたら、周りの人が一番びっくりしたのは、私の中に誕生したチャレンジ精神だったかもしれません。今まで全く勇気のなかった私が突然、「なんでもかんでもやってみよう!」と思うようになりましたから。やったことがないこと、食べたことがないもの、行ったことがない場所。とにかく、新しいことをやってみたい気持ちが溢れ出したんです。

英語では、中年になってこういう急激な変化を迎えることを、midlife crisisというときがあります。このmidlife crisisの特徴はさまざまですが、今までやっていないことをやりたくなったり、それまでとは全然違う自分になったりすることが多いです。crisisにはかなりネガティブなニュアンスがあります。辞書にも意味として載っていますが、「危機」みたいな感じですね。けれど、私が経験したのはめっちゃポジティブなものなので、midlife renewalがいいかな。言うなれば、「中年パワーアップ」でした!!

「アンちゃんはチャレンジャーだ!」「チャレンジ精神がすごいね!」と言われたり、「次は何にチャレンジするの?」とよく聞かれたりするので、たびたび「チャレンジ」というカタカナ言葉を耳にします。今の季節は春。皆さんももしかしたら、何かにチャレンジしようと思っているかもしれませんね。

でも、ちょっと待って!この「チャレンジ」という言葉――英語なのでしょうか。それとも、和製英語?実は、日本語の「チャレンジ」と英語の「challenge」のニュアンスには違いがあります。・・・というわけで、今日のテーマは「チャレンジ」と「challenge」についてです!

「チャレンジ」と「challenge」の違いとは?

さて、最初は2つの間にある主な違いについて一緒に考えていきましょう。

  • 日本語の「チャレンジ」には、いつもワクワク感のようなものが存在しますよね。これに対し、英語の「challenge」には、大変なことや難しいことに立ち向かうニュアンスがあります。
  • さらに、日本語だと「チャレンジする」と動詞の形で使うときも、そこには前向きな意味が伴いますが、英語はそうではありません。英語の「challenge」を動詞として使う場合、意味はかなり異なってきます。

では、具体的に英語の「challenge」はどのように使えばいいのか、主な4つを順に見ていきましょう。まず、動詞として使われるパターン〔1〕と〔2〕についてお話しします。

〔1〕勝負を挑むときのchallenge

私は幼い頃、一緒にスポーツをしたりクイズ番組を見たり、父と一緒の時間をたくさん過ごしてきました。父は競争心がすごく強くて負けず嫌い。何をしてもただの遊びと考えることができずに、「勝負しよう!」と言ってきたものです。

I challenge you!(勝負しよう!)
I challenge you to a contest!(コンテストで勝負しよう!)
I challenge you to a game of tennis!(テニスの試合で勝負しよう!)

そう、「勝負を挑む」という意味で使うchallengeです。もうちょっと例文を見ていきましょう。

I challenge you to a game of table tennis!
卓球であなたと勝負したい!

I challenge you to a hot dog eating contest.
ホットドッグの大食い大会であなたと勝負するよ。

I challenge you to beat my score!
私の点数より良い点数を取ってみて!(※「できないと思うよ!」というニュアンスを含む)

  • beat:(問題・記録などを)打ち負かす、破る

I challenge you to do better than me!
私より上手にやってみて!(※「できないと思うけど、どうぞ!」というニュアンスを含む)

〔2〕異議を唱えるときのchallenge

何かの判断や判決に納得できないので異議を唱える――そんなときにもchallengeを使います。例えばスポーツ競技だと、バレーボールやテニスなどの試合で、審判の判定に異議がある場合、ビデオ判定を要求することができますよね。これはchallenge systemと呼ばれています。

もちろん、スポーツ以外にも家庭や学校、職場などでも「異議を唱える」という意味のchallengeは使われます。例文をいくつか見ておきましょう。

I challenged the judgement.
私はその判定に異議を唱えた。

He challenged the referee’s call.
彼は審判の判定に異議を唱えた。

They challenged the ref’s call and asked for the play to be reviewed.
彼らは審判の判定に(納得がいかなかったので)異議を唱えて見直しを要求した。

The student challenged his grade on his final exam.
その学生は期末試験の評価に(納得できずに)異議を唱えた。

My son is always challenging my decisions.
息子はいつも私が決めることに(納得しないで)食ってかかる。

Don’t challenge me.
反論しないで。

〔3〕障害があることを表すchallenge

3つ目は形容詞としての使い方です。「challenged」という形になり、障害や問題、困難、不自由などがあること示す言葉として使われます。

challenged以外にも、障害や不自由があることを表す英語はあります。例えば、日本語で「ハンデがある」という言い方がありますね。これは英語のhandicappedという単語から来ています。handicappedという単語には「障害者」の意味がありますが、現在は差別用語だと考えられています。「体が不自由である」ことを示す言葉としてphysically challengedを使う人もいますが、これもよくないと考える人が多いです。英語で一番ふさわしいと言われているのは、person with disability / people with disabilities〔*1〕のようです。
〔*1:国連ジュネーブ事務局作成ガイドライン(2019年発足「国連障害者インクルージョン戦略」に関連する取り組みの一環)を参照〕

なお、なんらかの問題について、冗談めかした言い方をすることもあります。ただし、本人が自分で言うなら大丈夫ですが、他の人に対して使うととても失礼になるので気をつけましょう。具体的には、こんな感じです。

【自分で納得して自分のことを言うなら、使ってもよいケース】
I’m fat.(私はデブだ)
I am an idiot!(私、バカだ!)

【他人に対しての言及であり、失礼に当たるため言ってはいけないケース】
He is fat.(彼はデブだ)
He is an idiot!(彼はバカだ!)

challengedを使って表現する場合も同様です。次のような言葉は、他人に対しては使わないように気を付けてくださいね。

  • vertically challenged:背が低い
  • financially challenged:貧乏[金欠]である
  • intellectually challenged:頭が悪い、知能[知性]が劣っている

例文も見ていきましょう。自分以外の人について言及する英文も作りましたが、失礼になるので言うべきではない、ということに注意してください。

I am financially challenged right now, so I can’t go out to eat this month.
今は金欠なの、だから今月は外食には行けない。(※自分に関することなのでOK)

My daughter’s boyfriend is always financially challenged.
娘の彼氏は、マジでいつもお金がない。(※他人に関すること。失礼に当たる)

I am vertically challenged so I am not good at basketball.
私はめっちゃ身長が低いからバスケが下手なんだ。(※自分に関することなのでOK)

Her husband is vertically challenged, so the kids are short, too.
彼女の旦那さんは背が低いから、子どもたちも身長が低いね。(※他人に関すること。失礼に当たる)

〔4〕大変なことや困難に立ち向かうときのchallenge

最初の方で述べたように、なんらかの大変なことや難しいこと、試練などに立ち向かわないといけないとき、challengeを使います。

Raising kids is a real challenge.
子育ては本当に難しい。

Getting into Harvard University is going to be a big challenge, but I am up to it!
ハーバード大学に入るのはすごく難しいことだけど、私は自信がある!

Beating cancer was the biggest challenge of my life.
がんに打ち勝つことは今までの人生で一番大変なことだった。

Are you up to the challenge?
(これはめっちゃ大変だよ、それでも)挑戦してみる?

I am feeling restless. I need a new challenge in my life.
なんか落ち着かない。新しいことをやってみたいな。

ここまでの5つの文で出てきたchallengeは名詞。形容詞だとchallengingになります。

My daughter’s teenage years were super challenging.
娘が10代の時期はものすごく大変でした。

This is a really challenging time in my life.
今は人生で本当に色々大変なときだ。

The test was challenging, but I think I did really well on it.
試験は結構難しかったけど、よくできたと思う。

「チャレンジ」のニュアンスが伝わるのはtry

ここまで、英語の「challenge」の意味や例文をたくさん紹介してきました。では、日本語の「チャレンジ(する)」が持つニュアンスを伝えるには、英語でなんて言えばいいのでしょうか?

まず、該当する英語はchallengeではありません。例えば、「今年はTOEICテストにチャレンジする」を英語で言うなら・・・

【×】
I will challenge the TOEIC test this year.

【○】

  • I will take the TOEIC test this year.
  • I will try to take the TOEIC test this year.
  • I want to try to take the TOEIC test this year.
  • I am going to give the TOEIC test a try this year.

上記4つの例文のうち3つに出ていることからも分かる通り、多くの場合、「チャレンジ(する)」=「try」がふさわしいです。それでは、tryを使った例文を見ていきましょう。

tryを使った例文

Why don’t you try something new?
何か新しいことにチャレンジしてみたら?

I don’t really like to try new things.
私にはあまりチャレンジ精神がない。

You’ve never eaten sashimi? Why don’t you give it a try?
刺身を食べたことがないの?チャレンジしてみない?

チャレンジしてみたら?

  • You should give it a try!
  • Why don’t you give it a try?
  • Give it a try!

I’d like to try yoga sometime.
いつかヨガにチャレンジしてみたいな。

give it a try」で、「(試しに)やってみる、チャレンジしてみる」という意味になります。

同じことをスラングで言うなら、give it a shot / give it a whirl / give it a goです。

ジェットコースターに乗ったことがないから、チャレンジしてみようかな。

  • I have never ridden a roller coaster. I think I am going to give it a try.
  • I have never ridden a roller coaster. I think I am going to give it a shot.
  • I have never ridden a roller coaster. I think I am going to give it a whirl.
  • I have never ridden a roller coaster. I think I am going to give it a go.

チャレンジしてみたらいいやん!

  • You should give it a try!
  • You should give it a shot!
  • You should give it a whirl!
  • You should give it a go!

まとめ

読み方は同じなのに、こんなにも英語の「challenge」と日本語の「チャレンジ」が違うって、面白くない?言葉を勉強すればするほど言葉の「奥深さ」に気付かされます。ワクワク感が止まらない!

皆さんは、何にチャレンジしようと思っていますか? Is there something new that you want to try?

これから、新しいチャレンジが溢れている1年になりますように!


アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

アン・クレシーニさんの書籍や連載

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upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!

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