皆さんはどんなジュースが好きですか?甘いフルーツジュースに爽やかな炭酸飲料。種類は実にさまざまですが、そもそもジュースにはどこまで入るのでしょう。運動後に飲みたいスポーツドリンクや、砂糖入りのコーヒー・紅茶は?「言葉」が大好き過ぎる言語学者アン・クレシーニさんが、今回は「ジュース」をテーマに考察します。
目次
みんな大好き「ジュース」の定義
今日は、私がホームパーティーを開いたときの話をします。来る予定をしていた若者の1人が、「ジュースを持っていくね!」と言ってくれました。そして・・・到着した彼女を見て私はとてもびっくり!なぜかと言うと、彼女が持ってきてくれたのは、コーラ、ポカリスエット、C.C.レモン、Qoo(クー)、三ツ矢サイダーなどだったから。
と言うのも、英語の「juice」は、果汁100%のものしか指しません。そして実は、日本語でも「ジュース」の定義は英語のそれと同じなんです。
【ジュース(juice)】
果物や野菜の絞り汁。果汁。また、それを薄めて砂糖などを加えた清涼飲料水。食品の表示基準では果汁100パーセントのものをいう。
(出典:デジタル大辞泉[小学館])
けれど、言葉は生き物なので、意味や使い方は常に変化しています。一般的に日本人がジュースという言葉を使うとき、何を示しているのか。それはやはり、世代によって違います。中高年世代の方々は、恐らくアメリカ英語と同じ感覚で使っているのではないでしょうか。そして、年齢が若くなればなるほど、ジュースの意味を広く捉えている気がします。
若者たちの“ジュース感”
では、若者からすると、何がジュースなのでしょう?
彼らにとって“ジュース感”が強いのは、炭酸類です。コーラ、スプライト、三ツ矢サイダー、ファンタなどは間違いなくジュースでしょう。そして、Qooや、りんご、みかんなどの果物の飲料をジュースと呼ぶ人もいます。ポカリスエット、アクエリアスをはじめとしたスポーツドリンクは意見が分かれるみたいですね。たくさんの若者に聞いてみたけれど、スポーツドリンクをジュースだと考えるかどうかは、人によって違います。一方、コーラはほぼ全ての若者がジュースだと思っていることも分かりました。
現在高校3年生の娘にも確認――「ね、若者にとってさ、ジュースの定義って一体何?」。彼女はしばらく考え込んだ後、「お茶とコーヒー以外の、ペットボトルに入っている体に悪いやつ!」と返事をしました。確かにね!笑っちゃいました。
娘の定義も大体合っていると思うのですが、例えば、砂糖が入ったお茶やミルクティーなんかも、”ジュース感”がありますよね。
その“ジュース感”の程度に関して言うと、スーパーで面白い発見をしました。
ポイントは、「陳列」です。ジュース感の強い炭酸類は向かって左にあり、右に行けば行くほど、ジュース感が薄くなっていったのです。炭酸類の隣には、Qooなどのいわゆる甘い飲料。その隣にスポーツドリンク。さらに隣に午後の紅茶シリーズと他ブランドのミルクティー。そして、ウーロン茶や麦茶。一番右に置かれていたのはミネラルウォーターでした。
ジュースは実に変幻自在!?
私がジュースの定義について考え始めたのは最近ではありません。数年にわたり、さまざまな人にジュースに関することを聞いたり、調査したり、一緒に考えたりしてきた結果、やはり「言葉は何よりも面白い」という結論に行き着いたのでした。
興味深いことに、「時と場合によって、ジュースの意味は変わってくる」ということも分かりました。例えば、若者もその他の世代も、「お茶はジュースですか?」と単純に質問されたら、日本人のほとんどが「いや、お茶はお茶だよ!」と返事するだろうと思います。
しかし、これがホームパーティーという場になると・・・。何人かで役割分担をする場合に、「じゃあ、あなたはジュースを持ってきてくれる?」と頼まれたら、コーラや三ツ矢サイダーと一緒に、ペットボトルに入っている麦茶や緑茶も持ってきてくれる人が多いと思います。
つまり、ホームパーティーの場合、「ジュース」=「ペットボトルに入っている飲み物」と範囲が広がるのです。
幅広く使える英語の「drinks」
英語ではこのような場面においては、drinksを使います。
Can you bring some drinks to the party?
Would you mind bringing some drinks to the party?
パーティーに飲み物を持ってきてくれる?
文脈によっては、drinksは「お酒」の意味を持つこともあります。
Let’s go out for drinks!
例えば上記の例文なら、「おしゃれなレストランかバーに行って、ワインかカクテルを飲みながら話そう!」というニュアンスになります。一方、Let’s go drinking!だったら、ワイルドな若者のイメージが強くて、「飲みに行こうぜー!」って感じです。面白いよね。
drinksは、アルコールが入っていないジュースとか飲み物全般に使ってOKです。
「ソフトドリンク / soft drinks」が指すもの
英語の辞書でsoft drink(s)の定義を調べてみました。
【Online Oxford English Dictionary】
a nonalcoholic drink, especially one that is carbonated(ノンアルコール飲料、特に炭酸類)【Cambridge Dictionary】
a cold, usually sweet drink, that does not contain alcohol(アルコールの入っていない、冷たくて、多くの場合甘い飲み物)【Britannica】
any of a class of nonalcoholic beverages, usually but not necessarily carbonated, normally containing a natural or artificial sweetening agent,・・・(ノンアルコール飲料の一種で、通常は炭酸飲料であるが、必ずしも炭酸飲料である必要はなく、通常は天然または人工甘味料を含む、・・・)
これを見ると、英語のsoft drink(s)は、コーラや三ツ矢サイダーなどのような炭酸類のイメージが強いものの、必ずしもそうとは限りません。唯一の「絶対」はアルコールが入っていないことですね。
soda/pop/coke、アメリカ人はどう呼ぶ?
アメリカでは、soda、pop、cokeという言い方もあり、どの言い方をしているかは地域や家庭によってかなりバラバラです。例えば下記の地域では、それぞれ次の言い方が主流だそうです。
- カルフォルニア州:soda
- ワシントン州、オレゴン州、ニューヨーク州:pop
- テキサス州などを含む南部:coke
- フロリダ州soda、coke
この呼び方について触れた記事によると、大きく分けて北部はpop、南部はcokeと呼ぶようです。ただし、北西部と南西部はsodaと呼ぶ傾向がありますね。
- Mom, do we have any soda?
- Mom, do we have any pop?
- Mom, do we have any coke?
上の3つの英文は全部、「ねえお母さん、ソフトドリンク(ジュース)あるの?」という意味になるわけですね。意味は同じでありながらこんなにもバラエティが豊かな言葉だなんて、ものすごく面白いと思いませんか?
ちなみに、私の故郷バージニア州ではsodaが主流ですが、cokeと言う人もいます。私が一番使っているのは・・・やっぱり、drinksですね。
アメリカの南部以外では、cokeは基本的に「コカ・コーラ」の意味しかありません。日本語では「コーラ」と呼ばれることが多いですが、アメリカだとCokeかPepsiと呼ぶのが普通です。
ちなみに、アメリカのソフトドリンクの市場占有率を見てみると、こうなります。
- Coke:17%
- Diet Coke:9.4 %
- Pepsi:8.9%
(参照:How Coke Won the Cola Wars)
正直なところ、私はペプシやダイエットペプシのほうが、コークやダイエットコークよりよっぽどおいしいと思っているけれど、特にダイエットペプシはなかなか日本では見つからないなあ。レモン味もあったけどちょっと苦手だな。みなさんは、どっち派ですか?
飲み物にまつわるいろいろな例文
全ての飲み物を表す英語はbeverageです。アルコールが入っているものは、alcoholic beverageと言い、アルコールが入ってないものはnon-alcoholic beverageです。
英語の会話例を見ていきましょう。
A:Can you bring some drinks to the party?
B:What do you want me to bring?
A:Mostly soft drinks, but could you also bring some fruit juice for the kids and maybe a bottle of iced tea?
B:What kind of soft drinks?
A:Maybe a couple bottles each of Coke and Sprite, a Diet Coke, and some Fanta Grape ?
B:Sure.A:パーティーにジュースを持ってきてくれる?
B:何がいい?
A:主にソフトドリンクだけど、子どもたちのためにいくつかフルーツジュースと、アイスティーを1本持ってきてくれるかな?
B:どんなソフトドリンクがいいの?
A:えーと、コーラとスプライト2本ずつと、コカ・コーラゼロ1本、ファンタグレープ2、3本かな。
B:了解!
最後に、いろんな英単語が入った例文を見ていきましょう。
Would you like something to drink?
お飲み物はいかがでしょうか。
What would you like to drink?
何を飲みたいですか。
Here is our beverage list.
お飲み物のメニューはこちらになります。
Do you drink?
お酒を飲みますか。
Do you have any non-alcoholic beverages?
ノンアルコールの飲み物はありますか。
I am crazy about sparkling water. I drink it every day.
炭酸水が大好きだ。毎日飲んでいる。
You drink way too many soft drinks. You should drink more water.
ジュースを飲み過ぎだよ!もっと水を飲んだ方がいい。
Let’s go out for some adult beverages.
ちょっと飲みに行こうよ!
Mommy, can I have some Coke?
ママ、コーラを飲んでいい?
まとめ
英語でも日本語でも「飲み物」を表す単語はたくさんあります。考えれば考えるほど、いろいろ思いつきます。
「soda」「pop」「Coke」、「ジュース」「ソフトドリンク」などはみんな無意識に使っていると思いますが、地域によって、言語によって、そして、家庭によって使い方やニュアンスが異なります。それこそ言語や語学の魅力だと思います。「正しい使い方」はあるとしても、国、地域、世代など、自分自身のニーズに応じたカスタマイズをするときもありますよね。
「ジュース」について3000字もの記事を書けるとは思わなかったけれど、できました!ご褒美で私の好きなadult beverageを飲もうかな・・・。
アン・クレシーニさんの書籍や連載
アンちゃんが英語&英会話のポイントを語る1冊
upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!
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