「世界のニホンゴ調査団」の第30回は、スペイン・マドリード在住のライター、小池ケイコさんがリポート。今回のテーマは「karaoke」です。日本生まれのカラオケは、今や世界中で愛される娯楽です。歌と踊りの国スペインでは、karaokeはどのように浸透しているのでしょうか。
スペインで「カラオケ」と言えば?
「karaoke」と言えば、世界で知らない人はいない日本語になりつつあります。昔からどこの国でも、音楽や歌は最大の娯楽の一つでした。そんな中で、どんな人でも気軽に好きな歌が歌えるカラオケは、今や世界中で愛される娯楽になっています。
人生の楽しみを追及することに余念がなく、人が集まれば誰かがギターをかき鳴らし、手拍子で歌と踊りが始まるスペインで、そんなカラオケが人気にならないはずがありません。というわけで、ここ数年、都心から田舎まで至る所で、「karaoke」の看板を掲げるお店が増えています。
karaokeは、既にスペイン語の中にも定着し、スペイン王立言語アカデミーにも認可された単語になっています。スペイン王立言語アカデミーのオンライン辞書(Inicio | Real Academia Española (rae.es))では、以下のように定義されています(スペイン語から英訳)。
- Entertainment that involves performing a song accompanied by a recorded musical background, while following the lyrics displayed on a screen.
(録音されたBGMと、ディスプレイに表示された歌詞に合わせて歌う娯楽)- Technical equipment, such as a sound amplifier, microphone, and other devices, used for karaoke.
(マイクやアンプなどを含む、カラオケに使用する機材)- Public place with facilities for karaoke.
(カラオケの機材を有した公共の場所)
このように、少々大ざっぱですが、歌を歌う行為そのものだけでなく、カラオケにまつわる空間や機材など、まとめて「カラオケ」という名称で呼んでいるようです。
スペインのカラオケは、お酒も楽しめるバーにカラオケ装置を設置し、他のお客さんも聞いている前で歌を歌うのが、一般的なスタイルです。日本でもカラオケスナックのようなお店が類似のサービスを提供していますが、みなさんがよく利用するのは、カラオケボックスの方ではないでしょうか?
スペインでも、マドリードのような大都市では、個室スタイルのカラオケも登場し始めましたが、まだまだ主流なのはみんなの前で歌うカラオケ。
「人前で歌うのって恥ずかしくない?」と、カラオケ好きのスペイン人に聞いてみたところ、「なんで?楽しいじゃない。それにみんな酔っぱらってるから、他人が下手でも気にしないよ!」と、実にポジティブな答えが返ってきました。
お店によってはステージがあり、順番が来たらステージに上がって歌を歌う場合もあります。とびきり陽気で、ちょっと目立ちたがり屋の多いスペインで、みんなが楽しむためにはもってこいの方法かもしれません。
スペインのカラオケの歴史
カラオケが世界中に広まったのは90年代のことですが、スペインのカラオケの歴史は意外に古く、70年代終わり頃には、カラオケができるお店が登場し始めました。中でも1979年にバレンシアに誕生した「Pub Karaoke Hemi」は、スペインで最も古いカラオケバーの一つとして、数年前まで地元の人々に親しまれていました。
その後、90年代に入ると、テレビ番組にも「Ven a Cantar(“歌いに来て”の意)」(1993-1994)をはじめ、アマチュアがカラオケを披露するものが登場し、スペインでもカラオケは一般的な娯楽として人々の間に広まり、「カラオケ」という言葉も浸透していきました。
2000年以降になると、「アメリカン・アイドル」(2002- )や「Xファクター」(2004-2015)などスペインでも人気のリアリティー番組が、審査にカラオケを用い、娯楽としてだけでなく歌唱力をアピールする場としても、カラオケは重要な存在となりました。
時を同じくして、ロンドンのゲーム開発会社London Studioが、PlaySation 2対応のカラオケゲーム「SingStar」(2004)を発表したことも、スペインのカラオケブームの後押しをしました。「SingStar」はチームで得点を競う採点式のカラオケゲームで、日本国内ではあまり知られていませんが、ヨーロッパでは1200万本以上の売り上げを誇るメガヒットとなりました。
2006年にはスペイン市場に向けて「SingStar La Edad de Oro del Pop Español(SingStarスペインポップの黄金時代)」が発売され、2006年にスペインで最も売れたゲームの一つとして、スペインのビデオゲーム協会(aDeSe)のダブル・プラチナ賞を受賞しています。
そんなスペインでは、一体どのような曲がよく歌われているのでしょうか?
スペインのカラオケで人気の曲を調査すると、やはり上位はスペイン人歌手のものが多いようです。M-Clanの「Carolina」(2001)やAlaskaの「A Quién le Importa」(1986)、Miguel Boséの「Amante Bandido」(1985)など、日本人にはあまりなじみのない歌手が多いですが、Los del Ríoの「Macarena」(1993、邦題「恋のマカレナ」)など、あれっ?聞いたことがあるぞ!?と思うような往年のヒット曲もあります。
スペインでは元々、スペイン語以外の曲はあまり好まれないのですが、近年では、レゲトン(reggaeton、スペイン語のダンスホールレゲエ)やバチャータ(タンゴと同様、男女の駆け引きを表現した音楽)など、ラテンアメリカ発祥の音楽が世界的に人気になり、その影響で、カラオケでもDaddy Yankee(プエルトリコ出身)やShakira(コロンビア出身)など、スペイン国外の歌手の曲が歌われることも多くなっています。
カラオケ強豪国スペイン?
今ではスペインのどこでもカラオケを楽しむことができますが、それでも「スペインは日本と並ぶカラオケ強国だ」と言われたら、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。しかし実は、スペインと日本は並んでカラオケ世界一になったことがあります。
2003年から開催されている国際的なカラオケ大会「カラオケ・ワールド・チャンピオンシップ」。その2013年大会で、日本とスペインはともに1位を獲得しています(日本は男性部門1位、スペインは女性部門1位となりました)。
前年の2012年にも、女性部門でスペインからの出場者が優勝を飾ったうえ、その他の年にも、スペインからの参加者がたくさん上位入賞を果たしています。そんなスペインは、今ではカラオケ強国として、世界中から密かに注目を集めるようになっています。
This year’s Karaoke World Championships, which features amateur singers from 32 countries, takes place in Lappeenranta, Finland. The competition begins today and runs until Sunday... Last year’s 2012 World Champion was from Spain. ¡Ole!
2013年、32カ国からアマチュアのシンガーが参加するカラオケ・ワールド・チャンピオンシップがフィンランドのラッペーンランタで開催。コンクールは今日から始まり、日曜日まで続きます。(中略)去年のワールドチャンピオンはスペインからの出場者でした。¡オレ!
皆さんがスペインにお越しの際は、ぜひ勇気を出して「karaoke」の看板のあるバーに入ってみてください。そうすればきっと、リアルなスペインの日常を垣間見ることができるでしょう。もちろん聞くだけでも十分に楽しめますが、もしそこで1曲、スペイン語を披露することができれば、その日の主役になること間違いなしです。
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