「世界のニホンゴ調査団」の第29回は、アメリカ合衆国領グアム在住のライター、陣内真佐子さんがリポート。今回のテーマは「daigo」、グアムで独自の進化を遂げた食材について探ります。グアムでどのようにdaigoは食文化に浸透し、根付いたのでしょうか。
グアムのスーパーマーケットに現れる野菜、daigoとは?
日本から南東へ約2510キロメートル、毎年数多くの日本人観光客が訪れる海洋性亜熱帯気候のミクロネシアの島グアム。その島内のスーパーマーケットをのぞくと「daigo」と書かれた商品が販売されています。その正体は大根。しかし野菜売り場の棚に並べられているdaigoは、日本で売られている大根のように白く長く形の整ったものではなく、手足が生えてまるでマンドレイク(別名マンドラゴラ)(※)のような形に根茎が幾枝にも分かれしたものや長さや大きさが不ぞろいのものばかり。それはグアムの土壌が水はけと通気性が悪い粘土質であり、大根などの野菜作りにあまり適していないからだといいます。
戦時下に生まれた言葉daigoの由来
ではなぜ大根がdaigoと呼ばれるようになったのでしょう。
1941年12月、日本の真珠湾攻撃による太平洋戦争勃発を機に日本の統治下に置かれたグアムは、瓦無ならびに大宮島と呼ばれるようになり、その大宮島に移住した軍人と家族たちが持ち込んだいろいろな物品の中に野菜の種子や苗があったといわれています。
その後日本軍がグアムから撤退するまでの2年7カ月の間、日本人たちの手で育てられた野菜を口にした現地民チャモロ人たちの間で大根をdaigo、ゴボウをgobo、ラッキョウをrockyo、そしてハクサイは菜っぱからnapaと呼ばれるようになりました。そして戦後80年以上たった今でも、グアムでは島の海岸沿いに生育している背の高い松の木をezomatsuと呼ぶなど、野菜だけではなく、さまざまなものに「ニホンゴ」が定着しているのです。
グアムで愛されるdaigo漬け:日本のたくあんとの違い
しかし最近、グアムでは生の大根よりも、大根を使った漬物をdaigoと呼ぶ傾向が強くなりつつあります。島内にあるパパ&ママストア(Pop & Mom Store)と呼ばれる家族経営の小さな店やスーパーマーケットのレジ横には、黄色いたくあん風、激辛キムチ風、rockyoやキュウリ、ニンニクと一緒に漬けたものなどさまざまなdaigoが売られており、グアム島民の毎日の食事には欠かせないものの一つになっています。
また、島中心部にあるグアムの伝統食チャモロ料理を提供するレストランに行くと、食事の付け合わせの定番として添えられてくるほど、daigoはグアムに浸透しています。
グアム版daigoのユニークな作り方
日本でごはんのお供として親しまれているたくあんは、乳酸発酵させたぬか床の中に、天日で干した大根を漬け込んで作るコクとキレのある甘酸っぱい味が特徴の漬物です。では、グアムのdaigoはどうやって作られるのでしょう。
グアムのdaigoは、タンザク切りや薄切りにした大根をトウモロコシや大麦などの穀物から作られた酸度10%のホワイトビネガーにニンニク、唐辛子、ターメリックなどを加えたものに漬けたものがほとんど。その他、ホワイトビネガーにキムチの素を加えた液に漬け込んだ真っ赤なものなど、いずれもスパイシーで激辛ぞろい。黄色いdaigoの見た目は日本のたくあんにそっくりですが、味はかなり違うため、口にしたら驚く日本人が多いのではないかと思います。
daigoを漬けるのに欠かせない酸度10%のホワイトビネガーは、醸造酢や果実酢など一般的な食用酢の約2倍の濃度です。その酸度の濃いお酢は、日本では主に掃除に使われることが多いものです。しかしグアムでは、濃度の高いそのお酢を水で薄めることもせずそのままdaigoを漬けるために使っています。
その理由はというと、ホワイトビネガーは醸造酢のように原料由来の風味が全くなく、あっさりとしたお酢であるうえ安価だからといいますが、醸造酢などの他のお酢で漬け込んだたくあんの味や風味は全く別物です。
興味のある方はグアムに来て、この日本のたくあんとは似て非なるdaigoを、ぜひご賞味ください。
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