ブレスコントロールを体得して相手に届く英語の声を作ろう【ゴスペルで英語 】

世界で活躍するゴスペルシンガー、ボイストレーナーのNOBU(鬼無宣寿)さんが教える、英語の発音と発声のトレーニング法の連載。今回は、説得力のある声で英語を話すためのブレスコントロールを紹介します。記事の最後で響く声を出す練習ができるゴスペルの動画を紹介しています。NOBUさんと一緒に「Amazing Grace」を熱唱してみましょう。

相手に届く言葉で英語を話すために必要なブレスコントロールとは

英語を話すとき、「息が続かない、足りない」と感じたことはありませんか?

コロナ感染防止対策でマスク生活が長かったため、「声が小さくなった」「話していて息が長く続かなくなった」という相談が増えました。ニュースでも「呼吸」というキーワードが頻繁に取り上げられ、私たちの体は20代半ばを過ぎると徐々に肺およびび呼吸機能が低下していくそうです。また職種によって、息を吸う力が弱くなる場合もあります。私の知人は仕事上、対面で会話をするよりパソコンのチャット機能で人とやりとりをしているそうです。気が付くと一週間誰とも話さなかったこともあり、「なんだか息を吸う力が弱くなり、声が小さくなった気がします」と、話されていました。

ゴスペルを歌うときに欠かせないトレーニングは、「ブレスコントロール」です。なぜなら声は息によって生まれるからです。ブレスコントロールとは、息を取り込む力と吐く力を鍛え、自分の意思で呼吸をコントロールすることです。英語の発音や文法も大切ですが、英語を発するときの体作りのために、私たち日本人が取り組まなければならない「必須項目」だと思います。英語を話すときのブレスコントロールの必要性について、ハーバード・ケネディ・スクール教授のアリソン・シャピーラ氏は、Breathing Is the Key to Persuasive Public Speaking(呼吸こそ説得力あるパブリック・スピーキングの鍵 )という記事の中でこう述べています。

Now, having taught public speaking and presentation skills for over a decade, I can say with confidence that the ability to harness your breath is one of the most important and least taught areas within public speaking.
(ここ10年以上、パブリックスピーキングやプレゼンテーションスキルについて教えてきましたが、これだけは確信しています。呼吸を上手に行うことは、パブリックスピーキングで最も大切でかつ最も語られていない分野の一つなのです)

アリソン教授は、人前で話すときに、相手に届く言葉で英語を話すためには、ブレスコントロールが必要だと強調しています。ブレスコントロールについて、2つの点を一緒に見ていきましょう。1つ目は腹式呼吸をつかむこと、2つ目にロングブレスです。

日本語を話すときには使わない、腹式呼吸を意識してみよう

ブレスコントロールには、「腹式呼吸」が効果的です。この呼吸法を意識的にできるようになるには、少し時間がかかります。その理由は、私たちが普段日本語を話すときには、頻繁に使わないからです。しかし、全く使っていないわけではなく、実は自然に腹式呼吸をしているときがあります。それは寝ているときです。寝た状態で呼吸をするとき、体がどう動いているのか確認してみましょう。

1. 仰向けで寝る

平たい床に仰向けになって寝ます。柔らかいベッドの上ではなく、硬い床の上などの方が腹式呼吸を感じやすいでしょう。

2. 両手をおなかの上に置く

両足は楽に広げてリラックス。両手は軽くおなかの上に置きます。

3. ゆっくりと鼻から息を取り込む

ゆっくりと鼻から息を取り込みます。このとき、たくさん息を取り込もうとしないことです。息を吸うと、おなかの動きに合わせ両手がゆっくりと天井に向かって上昇することを感じます。

4. ゆっくり鼻から出す

取り込んだ息を、ゆっくり鼻から出していきます。このとき、両手がおなかの動きに合わせて下降することを感じます。

5. 体の動きを感じる

3と4を3セット行い体の動きを感じましょう。

6. 片方の手を腰にあてる

今度は片方の手を腰にあて、息を取り込んだとき腰周りが床に向かって広がることを確認しましょう。息を取り込むとおなかが天井に上がるだけでなく、腰回りも広がり、おなか周りが360度広がるようなイメージです。

7. 口から「スー」と音を立てて吐く

6を確認しながら、口から「スー」と音を立てて吐きます。6と7を3セット行いましょう。

いかがでしょうか。腹式呼吸を感じられましたか?リラックスして寝ている状態のときに、私たちは自然と腹式呼吸をしているのですね。今度は立った状態でも腹式呼吸ができるようにして、「ロングブレス」にチャレンジしましょう。

立った状態で腹式呼吸「ロングブレス」にチャレンジしよう

ロングブレスとは、息を長く吐き続けるトレーニングです。体に取り込んだ息があっという間に流れ出ることを抑え、息を長く使うことができるようになります。例えば有名な「Amazing Grace」という曲があります。この曲を歌うとき、次の (ブレス)と書いた部分で息を取り込むことが多いです。

Amazing Grace!(ブレス)How sweet the sound(ブレス)
That saved a wretch(ブレス)like me!(ブレス)
I once was lost, (ブレス)but now am found,(ブレス)
Was blind, but now(ブレス)I see.(ブレス)

アメィジング・グレイス!なんという麗しい響き
私のようなみじめな者を 救ってくださった恵み!
以前は道を失っていたが 今は見いだされ
盲目だったが 今ははっきり見ることができる

もちろん上記のように息を取り込んでもよいのですが、ロングブレスを使って息を長く使えると(曲調やアレンジにもよりますが)、言葉が流れ、さらに感情的な曲に聞こえるのです。次は、(ブレス)の場所を少なくして歌ったときの例です。記事の最後で紹介している動画はこちらの(ブレス)位置で練習できます。

Amazing Grace! How sweet the sound(ブレス)
That saved a wretch like me! (ブレス)
I once was lost, but now am found,(ブレス)
Was blind, but now I see.(ブレス)

腹式呼吸ができるとこのように息を長く使えるようになるために、立った状態でも腹式呼吸ができるように練習していきましょう。

立った状態で腹式呼吸ができるようにしよう

1. 両足は軽く開いて立つ

両足は軽く開いておきます。

2. 「スー」と音を立てて息を全て吐き切る

まずは、「スー」と音を立てて息を全て吐き切ります。「全て」が重要なポイントです。息を吐き切ることで、肺の中に息を取り込むスペースを作ることができるからです。息を吐き切ることができず肺の中に息が残っていると、息を取り込む力も弱まります。

3. 人差し指で片鼻をおさえる

人差し指で片鼻をおさえ、もう一方の手は、おなかにあてます。

4. 片鼻から息をゆっくりと取り込む

このとき、おなかが外に向かって広がり手が押し出される動きを感じましょう。もしおなかが広がらず肩が上がってしまうとしたら、やり方が間違っている可能性があります。その場合はもう一度寝た状態に戻り、呼吸方法をつかみ直しましょう。

5. 口から「スー」と音を立てて息を吐く

口から「スー」と音を立てて息を吐いていきます。

6. 腹式呼吸を行う

2〜5を3セット行い、立った状態での腹呼吸をつかみましょう。

私が初めて腹式呼吸に取り組んだのは、高校生のときでした。父がオペラを歌っていたので、歌の基礎として腹式呼吸を教えてもらったことを今でも覚えています。習ってからすぐにできたわけではなく、立った状態で意識的に腹式呼吸ができるまでかなりの年月がかかりました。ぜひ皆さんも、体が腹式呼吸を覚えるまで焦らずに続けてみてくださいね。今度は立った状態で、ロングブレスにチャレンジです。

ロングブレス

1. 10秒かけて、息を「スー」と吐き切る

時計を見ながら10秒かけて、息を「スー」と吐き切りましょう。ここでのポイントも、息を「全て」吐き切るということです。10秒以上吐くことができる方も、10秒で息を全て出し切るようにしましょう。

2. 3秒静止する

息を吐き切ったあと、そのまま3秒静止します。息を止めている状態です。この静止状態を作ることにより体が息を欲し、息を取り込むが付きます。

3. 片鼻から3秒かけて息を取り込む

人差し指で片鼻をおさえ、片鼻から3秒かけて息を取り込みます。おなかが外に向かって広がり、当てている手が動いていることを確認しましょう。寝ているときの腹式呼吸と同じように、腰あたりも含めおなか周りが360度広がることを目指してください。

4. 3秒静止する

息を取り込んだあと3秒静止し、広がったおなかの状態を体に覚えさせましょう。

5. 1〜4を5セット行う

1〜4を5セット行います。10秒かけて息を吐くことができたら、15秒、20秒と時間を延ばしてチャレンジしましょう。

腹式呼吸やロングブレスは、アリソン教授が言う「呼吸を上手に用いる」ために有効です。ブレスコントロールは、筋肉トレーニングです。今からでも間に合います。朝起きて会社や学校に行く前、お昼休み、寝る前などの隙間時間に、「毎日5分」続けてみてください。日々の積み重ねの結果、皆さんの声が「はっきりと相手に伝わりやすくなった!」と実感されることを願っています。

「Amazing Grace」を一緒に歌おう

今回紹介した「Amazing Grace」は、ロングブレスを体得するのにピッタリの歌ですので、記事に合わせて特別に動画を作成しました。歌うのは苦手・・・という方もおられるかもしれませんが、ぜひ声を深く響かせるイメージで一緒に歌ってみましょう。「#ゴスペルで英語」というハッシュタグを付けて、音声や動画をSNSにアップロードしていただけたらうれしいです!

NOBU(鬼無宣寿)さんの著書

増尾美恵子
文:NOBU(鬼無宣寿)

ゴスペルシンガー。関西外国語大学英米語学科卒業。2015年、ロサンゼルスを訪れ映画『天使にラブソングを2』のモデル「アイリス・スティーブンソン」氏と対談。同年、彼女を東京に招聘しゴスペルワークショップを開催。2017年から青山学院大学でゴスペル指導。同大学一年生対象の「キリスト教文化論」特別講義を行う。2019年4月、「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」に松任谷由実、ゆずと共演。同年、NHKラジオ第2「カルチャーラジオ芸術その魅力『ゴスペルソングの歴史~讃美歌から現代まで~』」出演。2021年には、英字新聞The Japan Times Alphaで特集記事が組まれ、ゴスペルの素晴らしさを語る。2022年、『ゴスペル式英語の声を良くする本 Discover your own voice!』を出版。現在ARTOS代表。
・Twitter: @NobuhisaKinashi
・Homepage: https://www.nobuhisakinashi.com/

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編集:増尾美恵子

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