日本で暮らし、博多弁を操る言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが出会った「間違いやすい日本語」をご紹介します。音が似ていたり、発音しづらかったり、私たちが英語を話すときに困った経験を、海外の方は日本語で感じているかもしれません。日本語を見つめ直すことで、英語学習への意外なヒントを発見してください!
大人の発音習得は「まねして練習」あるのみ!
前回 の記事では、私がどんなに「婚約」という単語を言えないかということについて話しました。なぜか、どうしても「 婚約」と言いたいとき、「こんにゃく」と言ってしまう 。どうやって「彼氏とこんにゃくをする」のかはわからないけれど、想像するだけで笑いたくなりますね。
私が大学院にいたとき、発音 に関して すごく印象に残ることを聞きました。それは、「思春期を過ぎてから外国語を勉強し始めたら、どんなに勉強しても、ネイティブのような発音ができるようにはならない」ということでした。
そうか。それは確かに残念だけれど、がっかりして絶望するようなことではないと思います。というのも、私が日本語を話しているとき、間違いなく今でも訛(なま)りがあります。けどさ、昔と比べて時間がたてばたつほど、どんどんなくなっているような気もするんです。それに、「言いたいことは99%相手に伝わっているから、それでよかろう?」とも思います。相手に言いたいことが伝わっていれば、コミュニケーションは成功していると言えますから。
出川哲朗さんに見る、コミュニケーションの成功例
TBSで放送されている「出川イングリッシュ」 *1 を見たことがありますか?私はあの番組が本当に好き!爆笑する、マジで。
見たことのない方のために簡単に説明すると、まったく英語が話せない出川さんが海外に行き、なんらかのタスクを与えられます。それをクリアするために、片言の英語で現地の人に話し掛けます。出川さんの話す英語の発音はやはり、バリ日本語っぽい。そして、英語で返事をされても聞き取れなくて、あまり理解できない。それでもお互い、なんとか言いたいことが伝わるんです。これも、コミュニケーションの成功だから、それでいいんだなと思います。
つまり、自分の母語でない言葉を話すとき、 発音はそんなに気にしなくていい と思います。とはいえ、やっぱり、私みたいな完璧主義者はできるだけ発音を磨きたくなります。英語にない音、どうやって、磨くと? 「まねして練習する」しかない と思う。
旅行はいつ良子に行く?ややこしい「う」の音
さて、前回に続いて、外国人が悩む日本語について話したいと思います。主に取り上げる音は、日本語の「う」です。このややこしい「う」を、なかなか聞き取れない人は山ほどいるよ!いくつか、例を挙げてみます。
ここ:here高校(こうこう):high school
こうもり:bat子守歌(こもりうた):children’s song
良子(りょうこ):Ryoko20年前に、「良子」という名前の友達がいました。私はどうしても「良子」と「旅行」をしっかり区別して聞き取ることも、発音することもできませんでした。「旅行は、いつ良子に行くの?」と何回も聞いてしまっていた気がします。旅行(りょこう):trip
もし、日本人がゆっくりと「りょ・う・こ」とか「りょ・こう」と言ってくれたら、私たち外国人にも聞き取れるかもしれません。けれど、普通の会話の中では、そういうふうに話さないですよね。それに、話さなくてもいいと思います。自然な日本語を覚えたいから、耳が慣れるしかないなぁ。
「教授」は「今日中」に「授業」に行きます
こういう間違いやすいペアは、ほかにも山ほどあります。私がどうしても間違えてしまうものがもう一つ。
補講(ほこう): makeup class私は大学で教えているけれど、たまに出張のために授業を休講します。だから、その分はいつか補講を入れないといけません。何回言っても、どうしても、「ほうこう」や、時には「ほうこ」と言ってしまって、相手に言いたいことが通じないことがあります。頭の中ではわかっているけれど、なぜか、口から正しい発音は出てこない。方向(ほうこう): direction
こんなふうに、困ってしまう「う」の音は日常の中にあふれています。ほかにも紹介しましょう。
「きょう」と「きょ」これも、わけわからない!「じゅう」と「じゅ」
私は、毎日「従業」をしに行くんじゃなくて、「授業」をしに行きます。そして大学で教える人は「今日中」じゃなくて、「教授」。「重症」と「住所」は絶対に間違えたらあかん!
そういえば、こんな間違いもあった。
組織(そしき): organization「PTA組織」と言いたいときに「PTA葬式」と言ってしまったら、大変なことになります。葬式(そうしき):funeral
誰か、助けて!!!
こんなふうに考えると、「う」はバリ大事だよね?だって、必要ないときに使ってしまったり、逆に必要あるときに使わなかったりすることによって、言いたいことが通じないことがあるんですから。私たち外国人が聞き取れない音を発音しないで済ませると、日本人には通じない かもしれない んですね。
書き分けが難しい「お」と「う」
「う」のややこしい親戚は、「お」 です。私は、長く日本に住んでいるけれど、まだこのペアをなかなか区別できません。「お」の場合は、書くときにも困ります。なんで、「お父さん」は「おとうさん」と書くけれど、「通る」は「とおる」と書くんでしょうか?発音は一緒なんだけど、書き方を間違えたくないですね。 ちなみに 、それについていろいろ調べた結果、こんなブログを見つけました。
plaza.rakuten.co.jp遠くの氷を通ってる、多くの大きな狼、オー「お」と「う」の書き分けが難しい単語で、「お」で書くのはほぼこれだけなのだと、覚えやすく紹介してくれています。これ以外はほとんど、「う」。(とおくのこおりをとおってる、おおくのおおきなおおかみ、おー)
それでも例外は永遠に見つかります。私の住んでいる場所の近くには直方(のおがた)市という名前だからさ。日本語は難しいなぁ。
余談ですが、この例文を英語にすると、バリ面白いです。
There are a lot of big wolves passing that far away ice. Oh my!やっぱり、言葉は楽しい。
人の年齢を変えてしまう「あ」
もう一つ似ている問題は、 「おばあさん」「おばさん」の違い です。これも、頭の中では違うものだとわかっているけれど、残念ながら正しい発音は口から出ない時が多いんです。
45歳になった私はよく、冗談っぽく、「私はおばさんになった!」と言っているつもりだけれど、それは「私はおばあさんになった!」と言っているように聞こえるらしいのです。「そこまで年取ってないやん!」と笑われます。
こういう、呼び方や名前に関連して、小さな音が大きな違いになるパターンもとても多いですね。
おじいさんおじさん
おかあさん岡さん(おかさん)
お父ちゃん(おとうちゃん)上の例にあげた「岡さん」以外にも、よく間違う人の名前があります。音ちゃん(おとちゃん)
私には、「大野さん」と「小野さん」という友達がいます。何回、このすてきな2人について、呼び方を間違えたやろう?数え切れないくらいだと思います。2人に申し訳ないし、何よりも、名前を間違えるのは失礼だと思うから、間違えたくない!自分のことを「おばあさん」と言ってしまうのはいいけれど、どうしても「小野さん」を「大野さん」とは呼びたくないなといつも思って悩みます。
ところで、これを英語で書くとき、どうする?
Ono-san個人的な考え方ですが、英語で日本人の名前を書くときに、その「お」や「う」を伸ばす音として表す「h」や「o」をあまり書きたくありません。しかし、書かないと、「大野さん」と「小野さん」の発音を区別できません。困るなあ。Oono-san
Ohno-san
まあ、いずれにせよ、どのように書いても、多くのアメリカ人は「小野さん」と「大野さん」の名前を同じように発音するんですけどね(笑)。
発音の勉強は一生続く
どんなに長く言葉を勉強しても、どんなに習得していると思っていても、やっぱり、言葉の勉強、特に、発音の勉強は一生かかるものだと思います。
だって、私は20年も日本に住んでいるけれど、どうしても「歩道橋」を正しく言えないんです。
ほうどうきょ?ほどうきょう?ほうどうきょ?ほどうきょ?
パソコンに入力して、変換しようとしたら、なかなか出てこず・・・チャレンジしてみたら、やっぱり、「ほどうきょう」でした!今はこうやってわかっているけれど、明日になったらまた、間違える かもしれない (笑)。
もしかしたら、多くの外国人は、私と同じように悩んでいるかもしれません。もし、あなたの周りの人が間違えたら、ぜひ正しい発音を教えてあげてくださいね!
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文:アン・クレシーニ
アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「 アンちゃんから見るニッポン 」が人気。 Facebookページ も 更新 中!
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