良い借金・悪い借金の差、日本とアメリカで異なる奨学金の実態・・・「借金」観について考えてみる【日米文化の裏側】

突然ですがクイズです。奨学金・住宅ローン・クレジットローン、この中で「良い借金」に当たるのは何?言語学者のアン・クレシーニさんが、アメリカと日本、二つの国の違いについて考察する連載。今回のテーマは「借金」です。日本では借金というとネガティブなイメージが強いですが、クイズの答えは・・・?

「奨学金」という名の借金返済に追われた日々

私と旦那は、日本に来た時点で2人合わせて3万ドル(約430万円)の奨学金を借りていました。それから7年間ほどは、一生懸命稼いだ給料のほぼ全額を、奨学金を返すために使っていました。返済はアメリカドルでしなければなりません。当時、ちょうど今と同じくらいの円安(2023年12月26日時点で1ドル:142.30円)でしたから、毎月泣きながら銀行で給料を振り込んでいたものです。「いつになったら円高になるんだろう」と思いながら、7年間、毎月給料のほとんどを振り込み続けました。

そして、やっと最後の振り込みが終わった日には、旦那と「奨学金返済が終わったバイ!パーティー」をしました。ようやくお金の余裕ができ、「これからは何に使おうかな」とワクワクしながら考えていたら・・・早速妊娠しました(笑)!私は4年間で3人の子供を出産。できたお金の余裕は、娘たちが将来通う大学の費用として貯金することになったのでした。

あれから円高になったこともあるけれど、ちょうど去年、長女が「アメリカに留学したい」と決めたタイミングで、またどエラい円安になりました。下の2人には日本の大学に行ってもらおう!!

日本で「ローン」や「奨学金」という言葉はよく耳にするものの、英語の「loan」と「scholarship」の使い方とは微妙に違う気がします。ということで、今日は「借金」に関するいろいろなことを話していきたいと思います!

日本とアメリカ、それぞれの借金観

「借金」は英語でなんて言う?

まずは「借金」という単語から見ていきましょう。英語ではdebtと言います。発音記号は/dét/で、カタカナだと「デッ(ト)」という感じかな。「b」は発音しないので、気を付けてね。

そして英語には、good debt(良い借金)とbad debt(悪い借金)という二つの概念があります。good debtは投資のような感じと考えてください。大学に行くためのローンや住宅ローンなど、あってもあまりデメリット(欠点、短所)とは捉えられない借金を指します。一方、bad debtは、利子が高く、投資よりも「縛り」というイメージが強いものです。クレジットカードの借金はbad debtの典型ですね。good debtである大学のローンは良い仕事につながるけれど、bad debtであるカードの借金は何も良いものにつながりません。ただし、どちらも「debt」と言います。

私は日本に来た当時、奨学金だけではなくカードの借金も少し抱えていため、返さないといけないお金があちこちにありました。こういう場合、

I had a lot of debt when I came to Japan.
日本に来たとき、借金持ちやった。

と言います。in a lot of debtという表現を使うこともできます。

I was in a lot of debt when I came to Japan.

金額が入ると、次のような表現になります。

I was 35,000 dollars in debt when I came to Japan.
日本に来たとき、3万5000ドルの借金がありました。

もう少し文を見てみましょう。

Many Americans have a huge amount of credit card debt.
多くのアメリカ人は多額のクレジットカードの負債を抱えている。

In general, Japanese people tend to try to avoid debt.
一般的に、日本人は借金を避けようとする。

My dad accumulated massive debt because of his gambling habit.
父はギャンブル癖によって多額の借金を抱えていた。

他に、借金とほぼ同じ意味のowe moneyという表現もあります。oweは「~(人など)に金銭上の借りがある」という意味です。

I owe my parents a lot of money.
I’m in a lot of debt to my parents.
私は親にお金をたくさん借りている。

I owe a lot of money to the credit card company.
I have a lot of credit card debt.
クレジットカード会社に多額の負債がある。

I owe a lot of money to the IRS.
I am in debt to the IRS.
国税庁に対してめっちゃ滞納してる。

IRSは「Internal Revenue Service」の頭文字を取ったもの。アメリカ政府の税徴収機関で、日本では国税庁にあたります。

ローンは嫌い、貯金は好きな日本人

英語のloanはそのまま日本語でも「ローン」で、意味は大体同じですが、「ローンに対しての考え方」は違うといえます。まず、英語でloanがどのように使われているか見てみましょう。

car loan(自動車ローン、オートローン)
college loan(大学費用のローン)
housing loan(住宅ローン)
business loan(ビジネスローン、事業資金の融資) など

car loanを挙げて思い出したのですが、日本に来てめっちゃビックリしたことがあります。それが、「現金で新車を購入する人がたくさんいる」ということ。「は?マジで?アメリカでは見たことも聞いたこともないよ!大金持ちじゃない限り、新車を買う大金なんてあるわけがない!」ととにかく驚きました。だけど、日本では普通の人が普通に現金で購入するんですよね。

そして、大きな気付きもありました。日本人は貯金体質。対して、アメリカ人は借金体質です。特に、日本と比べてクレジットカードの借金で悩みを抱えている人は非常に多いと思います。「新車は現金で買うもの」とは、ほとんど誰も思っていないでしょう。うーん、私の周りにいなかっただけかな?中古車なら現金で買うことはあるかもしれませんが・・・。

そういうアメリカの文化で育った私が日本でどうしたかというと、中古車を購入したときは現金で払いましたが、新車に近い車を買う際にはローンを組みました。現金がないわけではなかったけれど、どうしても出せなかったのです。「ローンの利子が高い!もったいない!」と分かっていながら、それでもローンを組みました。なぜなら「高い車は現金で買うものではない」という考えが染み付いていたから。

先日、私は日本国籍を取得したけれど、この考え方はなかなか変わりそうにありません。いつか、次の新車を買うそのときは・・・現金で買うのかな・・・?

日本の「奨学金」、その実態は「scholarship」ではなく「loan」

私の両親はものすごく節約家で、ローンや奨学金なしで私たちきょうだい3人を大学に行かせてくれました。子供の頃は「ケチだなあ」と思ったこともありますが、大人になって、あれは「節約」であったのだと感謝するようになりました。周りの友人が多額のローン返済を抱えていたのに対して、私は何もなかったのです。大学院に進学したため、そのローンは自分自身で払う必要がありましたが、大学の学費は親が全部払ってくれました。

さて、ここまで読んで、「あれ?それってローンなの?最初に奨学金って言ってなかった?」と疑問に思った方もいるかもしれません。そう、日本語と英語では使い方が微妙に違うんです。

日本語で言う「奨学金」は、英語だと「教育ローン(education loan)」に近いと思います。要するに、利子が低いローンです。卒業した後はお金を返さなければなりません。中には返済不要の奨学金もありますが、多くの場合は、返さないといけません。実態はローンなのに、日本語の「奨学金」はloanではなく、よく「scholarship」と訳されています。

アメリカの「奨学金:scholarship」は借金ではない

アメリカではscholarshipと言うと、その実態はプレゼントです。言わば、「返さなくてもいいお金」。さまざまな種類のscholarshipがあり、大まかに次の二つのカテゴリーに分けられます。

academic scholarship(学力の奨学金)
athletic scholarship(スポーツ[体育]の奨学金)

要するに、学力やスポーツ面で特に優れている人がもらえるのがscholarshipというわけです。

さらに、full scholarship(全額支給の奨学金)とpartial scholarship(一部支給の奨学金)があります。full scholarshipなら学費や生活費を一切払わなくてもいい、ということです。大学が出してくれます。partial scholarshipなら、学費の一部が免除になります。

大学によって、そしてスポーツの種類によって、scholarshipの数は変わってきます。アメリカの学費は非常に高いため、こうしたscholarshipをもらっている高校生も少なくありません。

高校3年生のときには、いろいろな大学のスカウト担当者が試合を見に来ます。ですから、日本のように「3年生で部活を引退する」ことはあり得ません。そもそも、日本のような受験制度がないので引退する必要はありません。そして、最も技術が磨き上げられ、スカウトも一番増える時期に、部活を辞めるなんてことは絶対にないのです。だって、スカウトに「この人はうまい!うちの大学に来てほしい!」と思わせるようなプレーができたら、憧れのsports scholarshipをもらえるチャンスになりますからね。

scholarshipには、大学が提供するものだけではなく、企業や自治体、個人や家族などによるものもあります。例えば、工学関連の会社が、エンジニアリングを学びたい高校3年生に提供するscholarshipだったり、医学部の学生を対象とした病院提供のscholarshipだったり。つまり、地域・専門分野・収入・性別・職業・人種など、それぞれに条件を設けたいろいろなscholarshipがあるんです。この場合、条件を満たす人しか応募できません。

さらには、こんなscholarshipも。

ある高校生が事故で亡くなりました。ものすごくバスケが好きな学生でした。遺族は、亡くなった学生の生きた証を残すために、毎年決まった金額のscholarshipを1名に提供します。応募できるのは、バスケが大好きな学生だけ。そうすることで、亡くなった学生はずっと、scholarshipを通して生き続ける――。なんだか感動的ですよね。

scholarshipを使ったいろいろな英文

では、scholarshipを使った例文を見ていきましょう。

My son got a full basketball scholarship to the University of Virginia.
私の息子は、バスケットボールで全額給付の奨学金をもらってバージニア大学に進学した。

He got a perfect score on his SATs, so he got a full academic scholarship to Yale.
彼はSATの試験で満点を取って、イェール大学の全額給付の奨学金をもらった。

SATは日本の「大学入学共通テスト」のような位置付けの試験です。満点は1600点。

It’s a private university, but if you can get at least a partial scholarship, maybe we can swing it.
私立大学だけど、一部免除の奨学金をもらえたらなんとかなるかもしれない。

swingには、し言葉で「(~を)思い通りにする、うまくやり通す」という意味があります。

full scholarshipのくだけた言い方は、full rideです。

He got a full ride to play football at Alabama.
彼はアラバマ大学でアメフトの(全額給付の)奨学金をもらった。

She got a full ride to study medicine at Harvard.
彼女はハーバード大学で医学を学ぶための(全額給付の)奨学金をもらった。

一番覚えておいてほしいのが、「アメリカにおいてはscholarship=返さなくてもいい」ということです。つまりは、学費の免除。すでに述べた通り、全額免除ならfull scholarshipで、一部ならpartial scholarshipとなります。

「返済が必要な奨学金」はアメリカだとなんて言う?

では、学費を返さないといけないものはどう言うのでしょうか。答えは、college loanです。利子は安いですが、scholarshipと違って卒業後に返済が必要になります。

現在、アメリカの大学の学費は高過ぎて、多くの人はscholarshipかloanなしにはなかなか支払うことができません。私の知り合いがアメリカの私立大学に通っていますが、学費・寮費・食費などを合わせると、日本円に換算して年間で約1500万円かかるそうです。1年間でこの金額だよ!?

ふう・・・では、このloanを使った例文を見ていきましょう。

It is going to take me about ten years to pay off my college loans.
大学のために借りた奨学金を返すのに10年くらいかかりそう。

pay offは大体同じ意味のpay backに言い換えることもできます。

It is going to take me about ten years to pay back my college loans.

I need to take out a loan to for college.
大学の学費を払うためにローンを組まないといけない。

take out a loanで「お金[資金]を借りる、ローンを組む」という意味になります。

I borrowed about 200,000 dollars for college.
大学に行くために20万ドルを借りた。

I finally paid off my college loans, so I am officially debt-free!
大学のために借りた奨学金をやっと返したので、正式に借金から開放された!

まとめ

私が大学院のローンを全部返し終わったのはずいぶん前ですが、最後の1ドルを返したときの喜びはいまだに覚えています。もちろん、ローンや奨学金なしで教育を受けられるならそれが一番理想的だと思いますが、とにかく、返し終わったときの達成感は半端なかったです。

そしてやっぱり、娘がアメリカのscholarshipをもらえることになったらバリうれしいです!どう考えても、返さなくていいscholarshipのほうが、返さないといけないローンや奨学金よりずっといい。娘たち、頼むよ!full rideを期待しているからね!

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

アン・クレシーニさんの書籍や連載

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upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!

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本文画像:いずれもGetty Images from Canva

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