比較級は何と何を比較している?文章の内容の正確な読解が求められる問題【難問クイズで学ぶ文法知識⑬】

Twitterで話題になった北村一真さん作成の英語クイズで文法知識&読解力を高める本連載。第13回は文の内容を読解する問題です。

クイズ

The philosopher does not only help us to conceive that others may be wrong, he offers a simple method by which we can ourselves determine what is right. Few philosophers have had a more minimal sense of what is needed to begin a thinking life.

―Alain de Botton: “The Consolations of Philosophy”

文脈:イギリスの哲学者アラン・ド・ボトンの哲学的エッセイからの抜粋です。「自分で考える」のに何が必要で、どういう方法があるかを論じている箇所です。なお、冒頭のThe philosopherは「ソクラテス」のことを指しています。

下線部が言おうとしている内容に最も近いのは?

(1) 哲学者たちは多くの前提がそろって初めて、自ら考える習慣をつけることができると考えている。
(2) 哲学者たちは多くの前提がなくとも、自ら考える習慣をつけることができると考えている。
(3) ソクラテスは多くの前提がそろって初めて、自ら考える習慣をつけることができると考えていた。
(4) ソクラテスは多くの前提がなくとも、自ら考える習慣をつけることができると考えていた。

単語・語句

  • conceive:「考える」
  • minimal:「最小限の」

ヒント

moreという比較級が何と何を比較して使用されているのかを見落とさないように。

つまずきポイント

比較構文であることをしっかりと見極めずに、more minimalのmoreを単なる強調だと考えて「極めて最小の」のように解釈してしまうと誤読しやすいです。

まずは、第1文を確認しましょう。does not only help usと動詞句のところにnot onlyが入っているので、後ろからbut (also)のような形が来て別の動詞句が追加されるのではないかと予想するかもしれません。しかし、後半にbutはなく、コンマ(,)が打たれた後、he offers…という別の節が始まっています。この場合でも、not only A but also Bと同様で、コンマの後の節がbut also Bに当たる内容を表現していると考えて大丈夫です。

つまり、「ソクラテスは他人が間違っているかもしれないと私たちが考える手助けをしてくれるだけでなく、自分自身で何が正しいかを判断するシンプルな方法も教えてくれる」ということですね。

それでは問題の下線部に移りましょう。Few philosophers…と始まっていることから、「…哲学者はまずいない」という否定の解釈で読み始めると思います。have had a more minimal sense…動詞句部分まで読んだところで、「あ、例のやつだな」と気づけるのが理想です。「例のやつ」とは否定語と比較級を組み合わせて実質、最上級に相当するような内容を表現する言い回しのことです。a more minimal senseは、moreという比較級の語句に目を向け、「○○以上に最小の感覚」と解釈することが重要です。この理解を生かして、この文を逐語的に解釈してみましょう。

Few philosophers
…哲学者はまずいない

have had a more minimal sense
○○以上に最小の感覚を持ってきた

of what is needed to begin a thinking life
考える生活を始めるために必要とされるものについて

もう少し日本語らしくすると、「考える生活を始めるのに必要となるものについて○○以上に最小の感覚を持っている哲学者はこれまでまずいなかった」となります。では、「○○以上」の○○とは何を指すのか、ということになりますが、これは第1文からの流れを考えれば、「ソクラテス」であることが読み取れるでしょう。否定と比較を合わせて事実上の最上級を表す構文では、その文のトピックはthan…やas… といった比較対象の位置(下の下線部)におかれます。

Nothing is more exciting than this moment.
「この瞬間ほどワクワクするものはない」→「この瞬間が一番ワクワクする」

Few people are as kind to others as Taro.
「太郎ほど人にやさしい人はまずいない」→「太郎がほぼ誰よりも人にやさしい」

しかし、トピックとはその文が発せられた時点で注目が集まっている対象、つまり、話し手も聞き手もそれについて話しているということを了解しているものですから、あえて言わなくとも分かるだろうということで、このタイプの構文では次のように下線部分がよく省略されるという特徴があります。

Nothing is more exciting.
Few people are as kind to others.

つまり、こういうタイプの文を見た時には、直前まで話題になっていたものを比較の対象として補って考える必要があることです。今回の問題文の下線部でも、Few philosophers have had a more minimal senseまで読んだ時点で、第1文の主語であったソクラテスと他の哲学者を比較しているのだな、と考えて、文末にthan Socratesのような語句を補って考えるわけです。

Few philosophers have had a more minimal sense of what is needed to begin a thinking life (than Socrates)

そうすると、この文の文字通りの意味は、「考える生活を始めるのに必要となるものについてソクラテス以上に最小の感覚を持っている哲学者はこれまでまずいなかった」となり、

考えるために必要な条件や前提についてソクラテスはたいていの哲学者よりも要求するものが少なかった
→多くの条件や前提がなくとも考えることができるとソクラテスは思っていた

という意味であることが分かります。

正解 (4)

訳例

この哲学者(=ソクラテス)は他人が間違っているかもしれないと考える手助けをしてくれるだけではない。何が正しいかを自分で判断することのできるシンプルな方法も教えてくれる。ソクラテスほどわずかな前提条件で考える生活を始めることができると考えた哲学者はそうはいない。

前回までのクイズはこちらから

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北村一真(きたむら・かずま)
北村一真(きたむら・かずま)

1982年生まれ。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。学部生、大学院生時代に関西の大学受験塾、隆盛ゼミナールで難関大受験対策の英語講座を担当。滋賀大学、順天堂大学の非常勤講師を経て、2009年に杏林大学外国語学部助教に就任。2015年より同大学准教授。著書に『英文解体新書』(研究社)、『英語の読み方』(中公新書)、『知識と文脈で深める 上級英単語ロゴフィリア』(共著、アスク出版)、『ジャパンタイムズ社説集2022』(解説執筆、ジャパンタイムズ出版)、『英文読解を極める 「上級者の思考」を手に入れる5つのステップ』(NHK出版新書)など。Twitter:@Kazuma_Kitamura

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