寒いけれど暖かい?ロンドンで過ごす冬の「防寒」「冷え取り」対策【LONDON STORIES】

寒い冬を、暖かく快適に過ごすための工夫がたくさんのイギリス。室内はTシャツ1枚で過ごせるほど暖かいセントラルヒーティング、体の中から温まるホットワインやお菓子など、イギリスの寒さ対策について、ロンドンの冬が大好きな宮田華子さんが紹介します。

寒い国だからこそ味わえる「暖かさ」と「暖かな雰囲気」

今年のロンドンは「暖冬」と聞いていたが、12月前後から一気に冷え込んできた。氷点下を記録する日も多く、「寒いですね」が日々のあいさつ代わりだ。

こんなに寒いのになぜか雪がほとんど降らない不思議の国イギリスだが、朝は霜が降りるので窓から見える風景は真っ白だ。加え、今冬は雨が多く湿度が高いため、霧が立ち込める日もある。冬季は朝8時にならないと明るくならず、16時にはもう真っ暗。朝起きて窓の外を眺めると、暗い中に白く輝く幻想的な世界が広がっている。

早朝のリッチモンドパーク。霧がかかった風景も美しい。

地球温暖化の影響でイギリスの気温も確実に上昇しているが、それでもロンドンの冬は「ちゃんと」寒い。1年12カ月の内、4、5カ月は厳しい寒さと暗さに耐えなくてはならないので、イギリス人は冬が「大嫌い」だ。寒さに対する不平不満を、懇切丁寧、言葉を尽くして冗舌に語るので「もはやイギリス伝統の話芸かも?」と思うほど(笑)。過去20年にわたりさまざまな角度から人々の「冬大嫌いトーク」を聞き続けているが、それでも毎回「なるほど、冬にはこんな側面もあるのか」となんらかの気付きがある。私にとって、友人たちが語る「冬大嫌いトーク」は毎冬のひそかな楽しみである。

そんな冬嫌いな人々に囲まれて生活しているにもかかわらず、実は私はロンドンの冬が大好きだ。「ロンドン生活の醍醐味は冬にあり」と思っているくらい冬好きなのだが、それは寒い国だからこそ味わえる「暖かさ」と「暖かな雰囲気」が大好きだからだ。禅問答のようで恐縮だが「確かに外は寒いけれど、実は日本より快適で暖かい」のが「冬好き」の理由である。

家の中はTシャツ1枚

野外はしっかり寒いイギリスの冬。それだけに室内をしっかり暖めるのがイギリス式だ。イギリスの住宅の暖房は温水ラジエーターによるセントラルヒーティングが一般的だ。温度設定をしておくと自動的についたり消えたりするシステムである。

ボイラーから出てくる温水が、家中に張り巡らされたパイプを通って各部屋のパネル(ラジエーター)に給水される。「温水」なのでパネルを触ってもやけどするような熱さではないのだが、柔らかな暖かさを放射し続けるのが特徴だ。温風ヒーターほど一気に暖める威力はないのだが、一日中ずっと「ぼんやり」と暖かい。

温水ラジエーター。下に見えるパイプがボイラーにつながっている。

この「ぼんやりとした温かさ」がなんとも心地よい。「風」ではないので部屋が乾燥することもなく、じんわりしたぬくもりが家中に広がる。冬でも背中を丸めずに過ごせる感覚がある。

とにかく「寒いのが大嫌い」なイギリス人は、室内温度を20度くらいに設定している人が多い。温度計がどの場所にあるのか、そしてラジエーターの性能にもよるのだが、室内をしっかり暖めて「家の中は冬でもTシャツ1枚ですごす」人も多い。寒い冬の日、誰かの家に遊びに行くと「室内はまるで夏」と思うほど暖かく、一瞬で汗が噴き出すため慌ててコートを脱ぐこともある。

ボイラーとワイアレスでつながっているサーモスタットで室内温度を調整する。

同じように公共施設も屋内はとても暖かい。カフェもレストランも店内では夏服でOKなほどの室温だ。なのでちょっとおしゃれして出掛けたいレストランの場合、分厚いコートさえ着ていれば「一張羅」はノースリーブでも大丈夫。こんな暖房事情もあり、イギリスには「衣替え」という習慣がない。コートの出し入れはするものの、夏でもセーターが必要なときもあるし、通年半袖&ノースリーブが活躍するのでクローゼットの入れ替えは不要だ。

暖炉のあるパブで過ごす「幸せ」

その昔、イギリスの一般暖房は「暖炉」と「石炭ストーブ」だった。各家庭の煙突から出る煙に加え、産業革命による多数の工場・自動車・ガス灯などから出る煙やガスにより、ロンドンの空気は汚染された。こうした大気汚染(スモッグ)によりロンドンが煙に包まれ「霧の都」となった話は有名だ。「霧」はテムズ川から自然発生的に立ち上ったわけではなく、公害によるものだったのだ。

その後、大気汚染の改善を目指す取り組みと暖房器具の進化により、一般家庭の暖炉は一つ一つ閉じられていった。古い家が多いイギリスでは、ほとんどの家に「暖炉跡」がある。わが家にもあるが、閉じられて久しいようだ。わが家の暖炉跡には、「フェイク炎」が映写される電気ヒーターが取り付けられている。前の持ち主が取り付けたものだが、全く気に入っていないので、もう少しトラディショナルなデザインのヒーターに付け替えたいと思っている。

ツリーの裏に見える、わが家の暖炉跡。暖炉部分に電気ヒーター(「フェイク炎」が映写される)が取り付けられている。

木をくべる暖炉もダルマ型の石炭ストーブも形としては愛らしく、古い家が多いイギリスの住居にはよく似合う。しかしエコの観点からこうした古い暖房システムを維持している一般住宅はほぼなく、(下の写真のような)「昔風の」デザインだが、石炭も石油も使わないエコ仕様のストーブを暖炉跡に取り付けるのがトレンドである。

そんなエコ事情の国ではあるが、唯一パブだけは今でも本物の暖炉が残っている場合がある。パブは「Public House」であり、つまり皆が集まる場所。ここでだけ暖炉を“たくさんの人と共に”楽しむのであればそれは「エコ」とも言えるので、パブの暖炉に文句を言うエコポリスはいない。わが家から最も近い場所にあるパブにも、「本物の暖炉」を一つ残している。パブのドアを開けると放射熱によるほかほかの暖かさに包まれる。皆、吸い寄せられるように暖炉の前に行き、体が温まったところでコートを脱ぎビールやドリンク類を頼む。

暖炉のそばで飲むビールは・・・おいしい(笑)。

寒い冬の日、パチパチとたき火がはじける音を聞きながら過ごすパブでのひとときは至福そのものだ。炎を眺めながら静かに過ごす人もいれば、本や新聞を読む人、友人と会話を楽しむ人、パブに用意されているボードゲームで遊ぶ家族連れも多い。夏のパブもいいものだが、「暖かな」冬のパブで過ごす時間は、私にとって他に代えがたい、ぜいたくな時間である。私は週末の夜にパブに行くことが多いのだが、ぼんやりと暖炉を眺めることで一週間のストレスをリセットできているような気がする。このひとときがあるのなら「ロンドンの冬がもっと寒くてもいいな」と思うほどだ。

スパイスで「冷え取り」

長々と「イギリスの冬の室内の暖かさ」について書いてきたように、家の中に入れば暖かいのでイギリスには「冷え取り」という言葉は特にない。そして「体の中から温める」ことに熱心な人にもあまり出会わない。

しかし「ガイジン」として「寒い国イギリス」を眺めると、いえいえどうして、無意識ではあるもののしっかり「体の中から温める食生活」を実践していることに気付く

冬になるとよく飲む「ムルドワイン(Mulled Wine)」と呼ばれるホットワインもその一つ。赤ワインにオレンジの輪切り、ショウガ、クローブ、八角、シナモンなどのスパイス類を入れて温めたものだが、本当に体が温まる飲み物だ。スーパーでスパイスを束ねたセットが売られているので家庭でも作るし、冬場は屋台やパブでも売られている。特にてつく寒さの日、屋台で購入するムルドワインは最高だ。公園の売店やストリートマーケット(マルシェ)で売られていることが多いが、1杯飲むだけで胃のふから温まる。冬の散歩や買い物時の楽しみである。

好みのスパイスを使い、自宅でも簡単にできる「ムルドワイン」。

料理にもハーブやスパイスをふんだんに使う。ローズマリー、クミン、カルダモンなど、冷え取りに良いとされるハーブやスパイス類は家庭に常備されているものだ。冬場に食べる焼き菓子には「冷え取り食材」が凝縮している。冷え取り効果の高いシナモンはどの焼き菓子にも使われるし、冬場はドライフルーツ(なつめなど)やナッツ類を焼き込んだどっしり風味のお菓子が好まれる。スパイス類と紅茶、ミルクを煮だした濃厚なチャイティーと一緒に食べれば、さらに体がホカホカと温まる。

「ミンスパイ」はスパイス、ドライフルーツをパイ生地に包んで焼き上げる、手のひらサイズのパイ。クリスマス前後に食べる習慣がある。濃い紅茶によく合う。

意識せずともおいしく冷え取り食材を取り入れる食生活は、寒い国だからこそ自然に生まれた生活の知恵なのだろう。

冬支度を済ませて迎える「暖かい冬」

イギリスでは夏から「冬支度」を始め、秋には終えるのが習わしだ。わが家も今年、夏に屋根裏の断熱材を取り換え、秋に暖房用の温水ラジエーターの一部を交換した。

私は昨年夏に今の住まいに引っ越ししたのだが、この家で初めて過ごした昨年の冬は記録的寒波に見舞われた。暖かく過ごす工夫がされている「はず」のイギリスの家だが、売却を決めていた前の家主はここ数年家の手入れをしていなかったようだ。そのことに気付かず今の家を購入したため、寒波に耐えうる防寒メンテナンスが甘いまま最初の冬を迎えてしまった。

加え昨年はエネルギー料金の高騰に苦しみ、本来暖房をガンガンつけることに抵抗のないイギリス人でさえ「例年のように気にせず暖房をつけられない」と言うほど光熱費に悩まされた。冷え取りグッズがほぼ話題にならないイギリスでさえ、昨年は湯たんぽや電子レンジで「チン!」する温熱パッド、保温性の高い水筒(温かい飲み物を入れておけば何度も電気ケトルを沸かさずに済む)がよく売れた。

そんな昨冬の経験があったので、今年は夏から近所に住む友人P君(=DIYが大得意。家のエキスパート)の指導の下、イギリスの習慣にならい夏から冬支度に取り掛かった。

暑かった6月のある週。真っ黒になりつつ屋根裏の断熱材の取り換え作業を行った(この写真はほぼ完成した状態、P君が屋根裏の戸の部分を調整中)。

今年は昨年ほど寒い冬ではなさそうだが、冬支度のかいもあり現在のところ「イギリスの冬ならではの、室内の暖かさ」を実感できている。エネルギー代は昨年より低額になったものの、その分政府の助成金がなくなったのでこの点の心配はぬぐえない。

それでも家が暖まらないほど寒い日は、公共施設に行けば済むという気楽さがある。図書館は無料で利用できるし、おいしいコーヒーや紅茶が飲みたくなったらネット完備のカフェやパブで仕事をすればいい。特に昼間のパブはすいている上に机も広く、在宅で仕事をしている近隣住人の「ノマド用オフィス」になっているので行きやすいのでありがたい。

そんな風に寒い冬を「暖かく」そして「暖かな場所」で過ごしながら、今冬も乗り切りたいと思っている。

いつも記事を読んでくださる皆さま、今年もありがとうございました。日本もこれから冬将軍が訪れると思います。心も体もあたたかな年末年始をお過ごしください。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

宮田華子
文・写真:宮田華子(みやた はなこ)

ライター/エッセイスト、iU情報経営イノベーション専門職大学・客員教授。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

公式サイト: https://matka-cr.com/hanako-works
instagram: https://www.instagram.com/hanako_london_matka/
X: https://twitter.com/hanakolondon_uk

トップ写真: AdobeStock
本文3番目のサーモスタットの写真:Arthur Lambillotte from Unsplash
本文7番目のミンスパイの写真:Rob Wicks from Unsplash

連載「LONDON STORIES」

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