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宇宙人のイメージはどこから?時代とともに移り変わるエイリアン像

UFO時代のリアルとフィクション

米国防総省と米国家情報長官室が発表したUFOの調査報告書が、さまざまな領域で注目を集めています。科学的な専門知識が軽んじられ、デマや陰謀論がはびこることも少なくない今日の現代社会において、私たちは「UFO」や「エイリアン」に関する言説とどのように向き合っていくべきなのでしょうか。現代アメリカ文学がご専門の木原善彦さんとアメリカ社会について考えていきます。

エイリアンのイメージ

前回の記事では、未確認空中現象(UAP)あるいは未確認飛行物体(UFO)についてアメリカの当局がまとめた最新の報告書のことを書きましたが、そもそも今、この文章を読んでいらっしゃる皆さんはUFO、空飛ぶ円盤、宇宙人、エイリアンなどについてどんなイメージをお持ちでしょうか。地球人より高度な文明を有する、人間みたいな姿形の宇宙人?肌が緑色または灰色で、地球を侵略しようとしている怖い存在?アメリカ軍の秘密基地に墜落したUFOが隠されている?人類の古代文明は宇宙人によって導かれていた?

こうした話題は、その時々に発表されたSF小説、映画やテレビなどの影響も受けながら、一種の都市伝説として独特な変化を遂げてきました。私は以前『UFOとポストモダン』という著作の中で、その大雑把な流れを次のように3段階に分けて整理しました。

なお、取り上げている事件や出来事はアメリカで起きていることばかりですが、UFO関連の情報は同時代にそのまま日本で紹介されているものが多いので、特に日本国内の流行と区別して論じることはしません。また『UFOとポストモダン』内の分析については、社会学者の大澤真幸氏が戦後の日本社会を論じた『虚構の時代の果て』と『不可能性の時代』の議論に多くを負っています。

前期UFO神話

まず前回の記事に書いたように、空飛ぶ円盤が言葉としてこの世界に登場したのは1947年のことでした。そのきっかけとなったのが、ケネス・アーノルドという人物が自家用飛行機から空を飛ぶ謎の物体を目撃した事件(俗にケネス・アーノルド事件と呼ばれる)です。実際に目撃されたのはブーメランのような形をしたものだったのですが、報道の過程で「空飛ぶ円盤」みたいなものに話がすり替わってしまいます。

するとそれに続いてアメリカのあちこちでUFOを目撃したという人が出てきますが、やがて、自分は高度な文明を持つ宇宙人と連絡を取っている(宇宙船に乗せてもらった/メッセージを伝えられた)などと称する人まで現れます。そうした接触者(contactee)の先駆け的存在であり、おそらく最も有名なのが、ジョージ・アダムスキー(George Adamski)です。この時期(1947-1973年)の宇宙人は金髪碧眼(きんぱつへきがん)の白人で、人類より高度な文明を持つ彼らは、ついに核の力を保有した人類の未来を憂い、高性能な円盤で地球まで来たという形で物語られるのが典型でした。

「核兵器や戦争に対して人類に警告を与える白人の宇宙人」ということで言うと、映画『地球の静止する日』(1951年)がわかりやすい例でしょう(この映画は2008年にキアヌ・リーブス主演、『地球が静止する日』というタイトルでリメイクされています)。

後期UFO神話

その後、今度は宇宙人に誘拐されて、体に何かを埋め込まれたという人が現れ、政府は過去に不時着したUFOの部品や(生体あるいは遺体の)エイリアンを回収しており、国家的な陰謀が企まれていると主張する人が出て来ます。バミューダ三角海域で船の遭難事故が相次いでいる(その原因はUFOかもしれない)という話が流行するのも、宇宙人は古代にも地球を訪れていたという古代宇宙人飛来説がはやったのもこの1973-1995年にかけての時期でした。

この時期の宇宙人像を物語に取り入れた映像作品としては、1983-84年にNBCで放送されたテレビシリーズ『V』がわかりやすいでしょう。ドラマの中では、初めは友好的に見えた宇宙人が、実は地球の資源を奪いに来た爬虫類タイプのエイリアンであることが明らかになります。

UFO神話の終わり

こうして変化を遂げたUFO神話は、1995年にFOXテレビ(日本ではフジテレビ)で公開された『宇宙人解剖フィルム』で一つの極限に達します。これは念入りに作られたフェイク映像と考えられています。1997年にはカルト的UFO教団の“ヘブンズ・ゲート”が集団自殺するという大きな出来事もありました。テレビドラマ『Xファイル』(1993-2002年)はエイリアンがらみの陰謀論を下敷きにしていましたが、1997年の映画『メン・イン・ブラック』は既にそうした陰謀そのものをパロディーにしたSFコメディーとなっていました。つまり、1990年代の半ばを境にして、またエイリアンが大きく姿を変える(あるいは姿を消す)のです。

1995年に日本ではオウム真理教事件、アメリカではオクラホマ・シティ連邦ビル爆破事件が起きます。どちらの事件も陰謀論が表社会に噴き出したものでした。それ以来、私たち皆が同じ現実を共有しているわけではなく、いくつもの異質な現実が競い合うように共存しているという事実が目立ち始めます。私はここから始まる四半世紀を『UFOとポストモダン』の中で“諸現実の時代”と名付けました。

“諸現実の時代”のポストUFO神話

UFOは1990年代半ば以降、もはや大きなブームを巻き起こすことはありませんでした。もちろん2000年代後半からはYouTubeで不思議な動画を投稿する人がたくさん現れましたし、いくつかのよくできたUFO動画がマニアの間で散発的に話題になることはありましたが、UFO神話に新しい側面や意義が付け加えられることはなく、動画の完成度の高さもむしろ信憑性(しんぴょうせい)を損なっていました。つまり、視聴者は「あれは何だろう?」と考えるより、「これはどうやって撮影(あるいは加工)したのだろう?」と思ったということです。

UFO話がお好きな読者のために比較的新しいところからそれっぽい話題を一つだけ付け加えておきましょう。2017年10月、彗星(すいせい)とは異なる、太陽系外由来の恒星間天体オウムアムア(Oumuamua)が見つかって、天文学者の間で話題になりました。それは太陽のそばを通過するとき、不自然な加速をしたように思われました。このことからオウムアムアは、実は地球外文明が送り込んだ探査機だったのではないかと主張する天文学者が現れて、短い期間、かなりその界隈(かいわい)は盛り上がりました。しかし、この話はUFO神話に特に新しい側面を付け加えたとは言えません。あくまでもUFO目撃のパターンが新たに一つ加わったという程度のものでした。

次々に現れる都市伝説と現実の危機

では、エイリアンがすっかり色あせてしまった1990年代半ばから、“エイリアン的なもの”はどこへ行ったのでしょう?それを追うためには、宇宙人話の発信元であった人々やメディア、宇宙人話を愛好していた人々がその後どういう話に興味を持ち、新たにどのようなオカルト話のブームが起き、あるいはオカルト以外でどんな不安が世に蔓延(まんえん)したかを見るのが便利でしょう。

・マイケル・ドロズニン『聖書の暗号』(1997年)は、一定の規則で旧約聖書から文字をピックアップすると予言的メッセージが浮かび上がると主張した。

・ FOXテレビの特番『陰謀の理論――われわれは月に着陸したのか』(2001年)は、実はアポロ計画は壮大なインチキで、人類は月に行っていないと主張した。

・これは偽科学やオカルトとは異なるが、シーア・コルボーン、ジョン・ピーターソン・マイヤーズ、ダイアン・ダマノスキ共著『奪われし未来』(1996年)は、内分泌かく乱物質(いわゆる「環境ホルモン」)の影響を訴えた。

・1999年12月31日午後11:59から2000年1月1日に変わる瞬間に世界中のコンピュータで想定外の不具合が起こり、日常生活に大きな影響があるかもしれないという、いわゆる「2000年問題」(英語圏ではY2K, millennium bug [直訳すると「千年紀の虫」]などと呼ばれた)が世界中で注目を浴びた。

・ビデオに映り込むスカイフィッシュ(英語圏ではflying rod, rod などと呼ばれた)が謎の生物としてオカルト的なメディアに取り上げられた(1995年頃から)。正体は蠅(はえ)などの昆虫だと思われる。

一読して意味のわからないノストラダムスの予言詩のようなものに秘教的な意味を見いだすのではなく、コンピュータを使って聖書から予言メッセージを浮かび上がらせるという『聖書の暗号』の手法には、私たちがこれまでに“オカルト的なもの”と結び付けていたのとは違う斬新さがありました。この都市伝説が流行した背景には、私たちが人間の読解力・解釈力よりも、コンピュータの処理能力に信頼を置き始めたことがあります。

また、もはや専門家でなくても映像の高度な加工ができる時代ですから、不思議な飛行物体の訴求力は大きく失われ、逆にアポロ11号の月面着陸のような真正な映像がフェイクではないかと疑われるようになりました。

そしてこの時期には宇宙(outer space)は新鮮味を失い、サイバースペース(cyberspace)の時代が始まり、そこに虫のような謎生物(秩序をかく乱する小さな存在)が出現します。こうして恐怖の対象としてのエイリアンは影を潜め、代わりに小さな虫(bug)や内分泌かく乱物質が登場しました。

諸現実の時代の終わりか?

そして2021年1月ついに、前年の大統領選挙で本当はトランプ氏が勝利していたと信じる集団がワシントンDCの議会議事堂になだれ込むという大きな事件(アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件)が起きました。トランプ支持派がQアノン(QAnon)を起点とする陰謀論に影響を受けていることも広く報道されました。これは間違いなく一つの時代を画する出来事でした。トランプ大統領の側近が「もう一つの事実(alternative fact)」という言葉を記者会見の場で持ち出したときには大きな話題になりましたが、トランプ政権の4年間はまさに事実や現実が一つではないことを多くの人が思い知らされた時代となりました。

では私たちはこの後、どこへ向かうのでしょう?そして都市伝説金髪碧眼の白人から灰色の爬虫類へ、さらに虫や内分泌かく乱物質へと退化してきたエイリアンは今後どこへ行くのか?次回はそのあたりのお話をしたいと思います。

もっと知りたい人のための読書案内

木原善彦

木原善彦(きはらよしひこ)大阪大学言語文化研究科教授。専門は現代アメリカ文学・文化。2019年に日本翻訳大賞受賞。著書に『UFOとポストモダン』『実験する小説たち』など。訳書にベン・ラーナー『10:04』、アリ・スミス『秋』など。最新の訳書はオーシャン・ヴオン『地上で僕らはつかの間きらめく』(2021年8月新潮社刊)。
Twitter:@shambhalian