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UFO騒動の現在―未確認空中現象に呼び名が変わった「あれ」は何だったのか

UFO時代のリアルとフィクション

米国防総省と米国家情報長官室が発表したUFOの調査報告書が、さまざまな領域で注目を集めています。科学的な専門知識が軽んじられ、デマや陰謀論がはびこることも少なくない今日の現代社会において、私たちは「UFO」や「エイリアン」に関する言説とどのように向き合っていくべきなのでしょうか。現代アメリカ文学がご専門の木原善彦さんとアメリカ社会について考えていきます。

「予備報告:未確認空中現象」の公表

本年(2021年)6月26日、日本の一部の新聞で「米国の国家情報長官室が未確認飛行物体について分析結果の報告書を公表した」と報じられたのをご存じでしょうか。ちなみに同日付読売新聞夕刊1面の見出しは「UFO映像“正体分からず”」「宇宙飛来説の余地残す」「米情報当局144件分析」となっていて、2015年に海軍パイロットが撮影した謎の物体の写真が添えられています*1。記事の元となっている文書は「予備報告――未確認空中現象(Preliminary Assessment: Unidentified Aerial Phenomena)」と題された全9ページのコンパクトなもので、現在誰でも入手可能で、読むことができます*2

文書の要点は、極端に言えばただ一つです。すなわち、「正体不明の現象はいくつかあるが、情報が足りないのでその実体はよく分からない」ということ。それ以上でもそれ以下でもありません。ちなみに昨年(2020年)6月17日に仙台上空などで白い風船状の物体が見つかり、テレビニュースなどでも大きく取り上げられました(本年9月3日にも同様のものが八戸で目撃されています)。あれほど長時間、比較的低空で多数の人が昼間に目撃したにもかかわらず、結局、正体が明らかにならなかったことを思えば、軍関係者が時折空中で謎の物体を目撃することには何の不思議もないと考えるべきでしょう。

未確認空中現象、未確認飛行物体、空飛ぶ円盤

こうした話題にあまりなじみのない方にとっては、報告書の内容に入る前にまず、その副題にある「未確認空中現象(Unidentified Aerial Phenomena)」という表現が気になるかもしれません。読売新聞の見出しにあったように、あの種のものは今でも多くの人の間で、そしてアメリカでも日本でも「未確認飛行物体(unidentified flying object)」、略してUFOと呼ばれることが普通だからです。ちなみにOxford English DictionaryでUFOという略語を調べると、初出は1953年で、語義は“An unidentified flying object; a ‘flying saucer’”と記されています。「空飛ぶ円盤(flying saucer)」にわざわざ引用符が添えられているのは、無論、「これはただの“空を飛ぶお皿”ではなく、俗に“空飛ぶ円盤”と称されているものだ」ということを表しています。

空飛ぶ円盤

そこでさらにOEDでflying saucerを調べてみると、1947年7月のタイムズ紙が初出で、「高速で空を飛ぶ円盤状の物体のこと」と書かれています。つまり、人類の歴史で空に不思議なものを見たという話は西暦紀元前の昔から無数にあるわけですが、「空飛ぶ円盤」が登場したのはつい74年前のことにすぎないのです(そのきっかけとなったケネス・アーノルド事件と呼ばれる出来事については、カーティス・ピーブルズ『人類はなぜUFOと遭遇するのか』〔文春文庫〕、木原善彦『UFOとポストモダン』〔平凡社新書〕等を参照)。

宇宙人の乗り物?

当然のことながらアメリカの軍・政府関係者は何らかの物体を目撃した際には「空飛ぶ円盤」という俗称を避け、「未確認飛行物体」という中立的な表現を用いるようになりました。しかしそれもまたあっという間に大衆文化に溶け込み、イギリスで制作された『謎の円盤UFO』というテレビドラマ(原題は”UFO”)がアメリカや日本を含む多くの国で放送されるなどした結果、未確認飛行物体(UFO)は定義上「未確認」のはずなのに、なぜか「UFO=宇宙人が乗る乗り物」というイメージが出来上がってしまいました。

未確認空中現象

そこで登場するのが、報告書の副題にある「未確認空中現象」という言葉です。実は1956年には既に全米空中現象調査委員会(National Investigations Committee on Aerial Phenomenon)という組織が作られていますから、UFO関連領域では新しい表現というわけではありません。「飛行物体」と呼んでしまうと当然、「物体」が「飛行」しているのが前提となりますが、この呼称であれば「空中」での「現象」をより広範かつ中立的に含めることができます。たとえば、「スプライト(sprite)」という雷のような放電・発光現象は1989年に初めて確認されました。ですのでそれは、1989年以前でも「未確認飛行物体」とは呼べないでしょうが、「未確認空中現象」に含めることには何の問題もありません。

現象の正体は?

今回の報告の中で列挙された「現象の正体」についても、「外国の敵対的なシステム(Foreign Adversary Systems)」「アメリカ政府または企業による開発プログラム(USG or Industry Developmental Programs)」の他に、「空中の浮遊物(Airborne Clutter)」「大気中の自然現象(Natural Atmospheric Phenomena)」の可能性も示唆されています。

宇宙人来訪を信じる“ビリーバー”にとっては、その可能性の中に「地球外知的生命由来」という項目がなく、それに類する言及もなかったのは物足りなかったでしょうが、逆に、「その他」の可能性を明確に排除しなかったことを喜んでいるかもしれません(先の読売新聞記事もそうですが、ニューヨークタイムズ紙の記事の書き方にも、多少その雰囲気が感じられます)*3

デバンキングされる映像

今回の報告書をまとめたのは、「未確認空中現象タスクフォース」という昨年国防省内に設置された専門組織です。国防省は同組織の設置に先立って昨年4月に海軍パイロットらが撮影した謎の飛行物体の映像3本を公開していました。それはビリーバーらにとっては動画の真正性を確かめられたという意味で吉報でした。動画は数年前から出回っていたもので、正体不明の物体が映っており、ハイテク宇宙船(航空機?)の証拠だと断じるビリーバーもいますから、それがフェイク動画でないというだけで決定的な重要性を帯びるのです。しかし他方で懐疑的な目から見ると、「誰もが高解像度のスマホを携帯し、いたるところに精細なウェブカメラが設置されている今の時代に、これほど解像度の低いモノクロ映像しかないのか」というレベルのものです。

この動画についても当然、ネットで両陣営からいろいろなことが言われていますが、私個人が最も説得力を感じるのは、怪しい動画のデバンキング(超常現象らしきものを懐疑的に検証することをdebunkingと言います)で定評のあるミック・ウェスト(Mick West)氏が丁寧に解説を加えているこちらの動画です(約25分)。この解説を聞いても、「いや、やはりエイリアンの乗るハイテク機だ」と言い張る人がどれだけいるでしょうか。

安全保障面での新たな脅威?

既に述べたようにこの報告書の主たる内容は「よく分からない空中現象がいくつかある」というごく当たり前の事実に尽きるのですが、また違う角度から見ると、興味深い点が少なくとも2つあります。

ひとつは、かつてはこうした謎物体を送り込んでいる可能性のある敵対的国家とされていたのがソビエト連邦だったのに対して、今回は「中国、ロシア、その他の国家、あるいは非政府組織」を可能性に挙げている点です。ここにはUFOが持つ3四半世紀の歴史における大きな変化が認められます。

お金がない調査委員会とお金があるエンターテインメント業界

もうひとつは、お金をめぐる問題です。この報告書の締めくくる項目は「研究開発に向けて投資を増やすこと」と題され、こんなことが書かれています。

さらなる研究開発資金があればこの報告書に書かれている問題を将来さらに進展させられる可能性がある、と未確認空中現象タスクフォースは述べている。(強調は引用者)

こうした政府組織も継続的な資金が得られなければ詳しい調査ができないという実態を記した非常に正直なまとめだと言えるでしょう。

しかし逆に、お金はあるところにはあるようです。というのも、国防省が今回の調査チームを立ち上げるきっかけになった動画を外部に漏洩(ろうえい)したのは、国防関係組織の元職員というルイス・エリゾンド(Luis Elizondo)氏で、彼はその後、UFOマニアで元音楽プロデューサー、ミュージシャンであるトム・デロング(Tom DeLonge)氏らが設立した会社トゥ・ザ・スターズ(To The Stars)に参加しています。同社は超常現象研究にも関わっているようですが、エンターテインメントが主なビジネスらしいです。

国防省が公開した3本のUFO動画は2017年12月16日付けニューヨークタイムズ紙でも取り上げられたことから大きな話題になりました*4。しかし同時に、「ニューヨークタイムズという高級紙までがお金と注目のためにタブロイド的話題を取り上げた」とも批判されました。

早い話が、UFOについて国防省内で真面目に詳しく調査をする資金は(緊急性や深刻性も)どうやらなさそうなのに、娯楽ビジネスとしては成立するという皮肉な事態が生じているのです(同様の事態は過去に何度も起きていますけれども)。

このように世間の注目を集める資力を持つ人がUFO話に肩入れする限り、時折、UFOブームに火が点くことはまだ繰り返されるでしょう。しかしそれが今後、かつてテレビドラマ『Xファイル』で頂点に達したような熱狂と騒ぎを引き起こすことは、もはやなさそうに思われます。

今回のUFO動画や報告書を目にしてあまり興味をそそられない私たちは、あの頃と何が変わってしまったのでしょうか。そのあたりのことは次回以降のお話で。

木原善彦

木原善彦(きはらよしひこ)大阪大学言語文化研究科教授。専門は現代アメリカ文学・文化。2019年に日本翻訳大賞受賞。著書に『UFOとポストモダン』『実験する小説たち』など。訳書にベン・ラーナー『10:04』、アリ・スミス『秋』など。最新の訳書はオーシャン・ヴオン『地上で僕らはつかの間きらめく』(2021年8月新潮社刊)。
Twitter:@shambhalian