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「知能が低い大男」のイメージはどこから?変化する「フランケンシュタインの怪物」像

怪異・ホラーからみる日本と世界

怪異を通して日本と世界を知る連載「怪異・ホラーからみる日本と世界」(全3回)。公務員として働く傍ら、入手困難さゆえに伝説となった幻の同人誌『日本現代怪異事典』を制作し、のちに商業版を刊行、現在も精力的に怪異・妖怪の収集を続ける朝里樹さんが、日本と海外のホラーを比較・考察します。今回のテーマは「フランケンシュタインの怪物」です。

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日本の作品にも数多く登場する怪物

フランケンシュタインの怪物。

そう聞いて想像するのはどんな怪物だろうか。

恐らく大多数の人々が思い浮かべるのは、頭もしくは首にボルト(電極)が刺さり、平たい頭をした、眠そうな顔をした大男ではないだろうか。またそのほかの特徴としては知能が低く、まともに言葉を発することもできないが、怪力を持ち、不死身であるといったところだろうか。

「フランケンシュタインの怪物」ではなく、「フランケンシュタイン」「フランケン」という名前で知られているかもしれない。1965年に連載が開始され、近年実写ドラマ化された藤子不二雄Aの『怪物くん』をはじめ、1965年に東宝の怪獣映画として公開された『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』、1986年にコナミから発売されたアクションゲーム『悪魔城ドラキュラ』など、漫画、アニメ、映画、ゲームと、日本の作品においても多岐に渡ってこのイメージが継承されており、海外でも同様にこのイメージが主流となっている。

しかし、そのイメージは大元の小説であるメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』とはまったく異なっている。今回は、そんなフランケンシュタインの怪物のイメージの変遷について考えてみたい。

怪物を生んだ伝説の「怪奇談義」

 

まず、メアリー・シェリーがこの作品を書くきっかけになった夜について記そう。

1816年のこと。当時、メアリーは後の夫となる詩人、パーシー・ビッシュ・シェリーと駆け落ちし、同じく詩人であったバイロンやその専属医のジョン・ポリドリらと、スイス・ジュネーヴ近郊にあるレマン湖畔のディオダティ荘に滞在していた。

この年の夏は雨が長く降り続き、屋敷から出ることができなかった。そこでバイロンは退屈しのぎに怪談を朗読することにし、その際サミュエル・テイラー・コールリッジの詩『クリスタベル姫』を読んだところ、メアリーが錯乱状態に陥った。

彼女が落ち着いた後、ドイツの怪奇譚をフランス語に訳したアンソロジー『ファンタスマゴリアナ』を朗読。それからバイロンは、皆で一つずつ怪奇譚を書こうと提案する

後の世に「ディオダディ荘の怪奇談義」と呼ばれるようになるこの集まりは、二つの名作を世に生み出すきっかけになった。一つは後の吸血鬼作品に多大な影響を与えたポリドリの『吸血鬼』、そしてもう一つがメアリーの『フランケンシュタイン』だった。

『フランケンシュタイン』の主人公は、ヴィクター・フランケンシュタインという名の大学生だ。人間を創造するという神をも恐れぬ所業に取り憑かれた彼は、墓場から死体を盗み、それをつなぎ合わせてついにそれに生命を吹き込むことに成功する。

しかし生まれた人造人間は黄色い皮膚の下に筋肉や動脈がそのまま浮き上がり、歯は白く、唇は黒く、艶やかな黒い髪が伸び、はめこまれた目は薄茶色の眼窩(がんか)と同じ色をし、やつれた顔色の恐ろしい怪物だった。

その恐ろしさに生命創造の高揚感は一気に消え失せ、フランケンシュタインは怪物を見捨てる。その内に怪物が逃げ出してしまうが、彼はそれを放置して故郷のジュネーヴに帰ることを考える。

しかし、そのジュネーヴで彼の弟が何者かに殺害される。故郷に帰ったフランケンシュタインはそれが怪物の仕業であることを確信する。

やがて、怪物が彼の元に現れる。怪物は知性を獲得し、言葉を話すようになっていた。怪物は見捨てられた後、その醜さゆえに迫害された自分の境遇を語り、自らの伴侶となる人造人間を作れば復讐を止めることを告げる。

一度は同意したフランケンシュタインであったが、さらなる怪物を増やすことを恐れ、直前になってその要求を拒否し、逃げ出す。怒りに駆られた怪物はフランケンシュタインの友人や婚約者を次々と殺害する。今度はフランケンシュタインが復讐のため怪物を追跡し、やがて北極海へと辿り着く。

彼はそこで出会った北極探検隊のウォルトンに怪物を殺すよう頼み、息を引き取る。それから怪物が現れ、名前さえ与えてくれなかった創造主の死を嘆いた後、海の向こうへと消えていく。

このように、原作における怪物は、高い知性を持つ存在として描かれている

「知能が低い大男」のイメージを決定づけた映画

この怪物像を変えたのが、ユニバーサル映画製作の映画『フランケンシュタイン』(1931)だ。

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この映画ではボリス・カーロフが怪物を演じたが、その姿は冒頭に述べたように平たい頭、眠そうな目の、首にボルト(電極)が刺さった大男だった。そしてこの怪物は言葉を話す知性もなく、さらに蘇生に使われた脳が殺人鬼のものであったためか、多くの人々を殺害する。そして最後には炎に焼かれ、殺害される。

この映画は大ヒットし、後のフランケンシュタインの怪物のイメージを決定的なものとした。また同作はシリーズ化されて7本の続編が作られた。そこで怪物は狼男やドラキュラと共演している。

次にハマー・フィルム・プロダクションが『フランケンシュタインの逆襲』(1957)を制作した。この映画は戦後停滞していた古典ホラー映画を復興させたが、やはりこの作品における怪物も原作とは違い、知能の低い大男として描かれている。これは怪物の頭に入れた科学者の脳が、事故により傷ついていたためとされている。

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この作品の怪物はユニバーサル版とデザインを変更されているが、性質は受け継いだようだ。

この後もフランケンシュタインの怪物といえば知能の低い大男、というイメージはさまざまな作品に継承される。

一方で、原作小説に近い怪物像も

知性のある怪物として描かれるものとしては、テレビ映画『真説フランケンシュタイン』(1973)があるが、これも原作の設定からは大幅に変わっている。最初は美形の姿で現れる怪物が、時間の経過とともに醜い姿となっていく様子が描かれる。

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メアリー・シェリーの原作小説の設定に比較的近い映画は、アメリカン・ゾエトロープ制作の『フランケンシュタイン』(1994)だ。この映画ではロバート・デ・ニーロが怪物を演じた。

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その後、ドラキュラ、狼男と共演するユニバーサル映画『ヴァン・ヘルシング』(2004)、アメリカン・コミックスを原作とした『アイ・フランケンシュタイン』(2014)などでも、知性を持つフランケンシュタインの怪物が登場する。

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しかしそれでもなお、「フランケンシュタインの怪物」と聞いた人々がイメージするのは、1931年に描かれたあの怪物なのである。

ボリス・カーロフが演じたあの怪物が世界に与えた影響は、計り知れないほど大きなものだったのだ。

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朝里樹(あさざと いつき)1990年、北海道生まれ。2014年、法政大学文学部卒業。日本文学専攻。現在は公務員として働く傍ら、在野として怪異・妖怪の収集・研究を行う。またこれに関連して、『日本現代怪異事典』(笠間書院)ほか、怪異・妖怪に関係する書籍の執筆等をしている。