BTSを筆頭に、K-POPアイドルの「外国語力」の高さが注目されています。なぜK-POPアイドルは英語が堪能なのでしょうか?J-POPに先駆けて、早くからグローバルな市場を意識してきたK-POP界の戦略について、翻訳家・ライターで韓国文化に詳しい桑畑優香さんが解説します。
目次
英語歌詞で大ヒット!BTSの「Dynamite」
70年代のディスコミュージックを彷彿とさせるノリノリのアレンジで、米ビルボードHot 100で1位を射止めたBTSの「Dynamite」。全米大ヒットの理由の一つが、アメリカ人の心に響く英語の歌詞にあったといわれています。
彼らが英語で注目された出来事がもう一つ。2018年9月にニューヨークの国連本部で、「LOVE MYSELF」を呼びかけたスピーチです。
世界中の若者たちへBTS防弾少年団が国連総会で行ったスピーチ
リーダーのRMの英語でのスピーチは大きな反響を呼び、翌月にはBTSがTIME誌の「NEXT GENERATION LEADERS」特集の表紙を飾るなど、世界に飛躍するきっかけとなりました
TIME, How BTS Is Taking Over the World
世界でのK-POP人気はBTSだけにとどまりません。Twitter社が発表した「2020年K-POPファンが最も多い国TOP20」の1位はアメリカで、リストにはインドネシア、フィリピン、タイ、ブラジル、マレーシア、メキシコと、東南アジアや南米をはじめ、ヨーロッパや中東の国もランクイン。そう、K-POPはまさにグローバル化の時代に入っています。
2020年K-POPファンがもっとも多い国TOP20
実はK-POPにおいて、ハイレベルな語学力は歌やダンスと並ぶ必須要素です。原点には、「韓国は国内市場規模が小さいので世界を目指す」という、業界を貫く信念があります。
さかのぼれば、K-POPがグローバル化の第一歩として選んだのは日本でした。2000年代初め、2002FIFAワールドカップの日韓共催を前に、両国の距離がぐっと近くなった時のこと。日本語で歌った「LISTEN TO MY HEART」で一世を風靡(ふうび)したBoAは、2001年にデビューする2年前から日本で日本語や文化のトレーニングを受けたと明かしています。「日本語を学ぶためにNHKアナウンサーの家庭にホームステイした」とも。
その後、BoAも所属する芸能事務所最大手のSMエンターテインメントは、進出する国に合わせた語学戦略に取り組みました。デビュー前から週3~5回、1回2時間程度の語学レッスンが課されます。少女時代の場合、スヨンやソヒョンは日本語、ヒョヨンは中国語を学び、さらに在米韓国人で英語ネイティブのジェシカとティファニーを配す布陣。一つのグループの中で担当を分け、幅広い市場を射程に入れました。
数ある芸能事務所の中でも、アメリカ進出に最も意欲的だったのがJYPエンターテインメントです。NiziUの育ての親としても知られる代表のJ.Y. Parkは、小学校のころニューヨークに住み、ブラック・ミュージックの影響を受けた人物。2000年代半ばからR&B歌手のキャシーらに楽曲を提供し、06年にはピ(Rain)のコンサートをニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで開催しました。さらに09年、アメリカの大手事務所とマネジメント契約を結んだWonder Girlsに英語を仕込み、英語バージョンの「Nobody」をリリース。
米ビルボードHot 100で韓国人としては当時最高の76位を記録し、アメリカがK-POPに関心を向ける一つのきっかけを作ります。(が、ほどなくしてWonder Girlsはメンバーの結婚や脱退を繰り返し、17年に解散)
その後、PSYが「江南スタイル」(12年)の大ヒットでアメリカに旋風を巻き起こしたのは周知のとおりです。ユーモアあふれる楽曲に加え、ボストン大学留学などで培った英語力も彼の武器になりました。
K-POPの語学戦略の裏にある成功方程式
K-POPの語学戦略には、いくつかの成功方程式があります。一つは、もともと語学がネイティブレベルの人をメンバーにすること。TWICEのように日本人や中華圏出身の人を入れるケースもありますが、多くを占めるのが海外出身のコリアンたちです。例えば、アメリカでも大人気のBLACKPINKのロゼはニュージーランド生まれのオーストラリア育ち、SEVENTEENのジョシュアはアメリカ出身。世界180カ国・地域に約750万人の在外コリアンがいると推計される、海外移民大国・韓国ならではの戦略といえるでしょう。
韓国外交部2019在外同胞現況より
もう一つ、韓国社会を映し出しているのが、英語の早期教育を受けたメンバーの存在です。「サムスンやヒュンダイといった大手財閥系に就職するためには、TOEIC 900点が当たり前」ともささやかれる韓国では、1997年に英語の授業が小学校3年生から必修に。今では父親を韓国に残し母子だけで早期留学したり、ネイティブの先生を配した「英語幼稚園」に通ったりするのも、珍しいことではありません。BLACKPINKのジェニーは、小学校から中学校にかけてニュージーランドに単身留学。滑らかな英語の発音で知られるIZ*ONEのウォニョンも英語幼稚園に通っていた、早期教育の申し子です。
ちなみにBTSのRMも小学校の時にニュージーランドに4カ月間滞在したことがあると明かしています。でも本人いわく、流ちょうな英語力を身に付けたのはドラマ「フレンズ」のおかげ。英語教育に熱心な母親に薦められてハマり、「韓国語の字幕で観る→英語字幕で観る→字幕なしで観る・・・と繰り返しているうちに上達した」と、アメリカのトーク番組「エレンの部屋」に出演した際に、秘訣を語りました。
英語ができるメンバーは、海外での活動でグループの「顔」としての役割を担います。その国の言葉で話すと海外メディアとのインタビューがスムーズに進むのはもちろん、コンサートのトークでもファンからひときわ大きな歓声が上がります。通訳を介さず直接伝える言葉には、計り知れない訴求力が宿ります。前述したRMの国連本部でのスピーチでは、英語で「LOVE MYSELF」を呼びかける動画がユニセフのTwitterで流れると、世界各地から共感の声が湧き上がり、自分のつらい経験や克服したい思いをつづる、1万件以上のコメントが届きました。
"I want to hear your voice... No matter who you are, where you’re from, your skin colour, gender identity: speak yourself.”
We @BTS_twt's inspiring message to young people around the world at the UN General Assembly. #GenUnlimited #UNGA #ENDviolence #Youth2030 pic.twitter.com/kWOoSfLkiq? UNICEF (@UNICEF) September 24, 2018
世界に広がるK-POPの「多言語化」戦略
今、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、K-POPアーティストもコンサートや海外を訪れてのプロモーション活動が厳しい状況にあります。それにもかかわらず、K-POPの快進撃が続いている背景には、やはり「言葉のパワー」が存在しています。近年K-POP業界が力を入れているのが、多言語化。
BLACK PINKのリサやTWICEのツゥイのようにタイ語や中国語を話すメンバーを入れる従来の手法に加え、最近発展が著しいのが、字幕の多言語化です。例えば、NAVERが提供する動画配信サービス「V LIVE」は、公式で英語、中国語、ベトナム語、タイ語、日本語などが備えられているほか、自動翻訳機能でつけられるリアルタイム字幕(ベトナム語、ポルトガル語、インドネシア語、スペイン語など)に加え、ファンが付ける字幕も「V Fansubs」という機能で搭載されています。
ファンによる字幕の種類は、BTSの場合でなんと約60言語に及ぶほど。つまり、世界中のファンが言葉の壁にぶつかることなく、気軽にK-POPのコンテンツを楽しむことができるのです。
「グローバル化=英語化」という概念を超えて「多言語化」を取り入れ、世界に広がるK-POP。K-POPの成功は、真のグローバル化の意味が問われる時代に、一つのロールモデルになるはずです。
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