日本の大掃除シーズンは年末。ではイギリスは?

「多文化都市」と呼ばれるイギリスの首都ロンドン。この街で10年以上暮らすライターの宮田華子さんが、日々の雑感や発見をリアルに語ります。

厳しい 寒さ">今年の冬はイギリスらしい 厳しい 寒さ

この冬は久々に「ちゃんと寒い」冬だった。温暖化の 影響 もあり、ここ数年は「普通に寒い冬」と「暖冬だった・・・かも?」ぐらいの冬が交互に来ていたのだが、昨年12月ごろからイギリスらしい 厳しい 寒さをしっかり体に刻み込んでいる。今年に入ってから何度も雪が降り、この原稿を書いている2月現在、水道管の凍結を毎日のように 心配 している。

私はイギリスの「しっかり寒く、でも美しい冬」が大好きだ。寒さと天気の悪さで定評のあるこの国だが、私自身は気候の面では特に文句なく暮らしている(ほかの面での文句は多々ある)。しかし3月の後半から、いてついた空気が毎日少しずつ、じわじわとぬるんでいく感覚はよいものだなあと毎年思う。

同じ頃、木々の固いつぼみから新芽が顔を出し、単色だった風景に色が付き始める。春の訪れを告げる花「スイセン」が咲くと、人々は長らく閉ざしていた窓を開け、家の中に新鮮な空気を招き入れる。そして何をするのかというと、掃除をするのだ。そう、春はイギリスの掃除シーズン。冬から春への経過を長々と書いたのは、閉め切っていた窓をやっと開ける、この「やっと」の部分が「掃除をしよう!」という気持ちにさせる鍵だからだ。

パネルの溝の掃除にはギザギザ付きのプラスチックが最適。たったひと冬で驚くほどほこりがたまる。

ヒーターを「やっと」切る春に暖房の掃除

正月を新たな気持ちで迎えるために日本では年末に大掃除をするが、イギリス人には時期による節目の感覚が希薄だ。日本の正月に当たるのはクリスマスだが、この時期は家の中をもりもりに装飾するのが常。かなり煩雑になるので掃除の季節にはまったく向かない。

強いて言えば新学期を迎える9月は、節目を感じる時期だ。新学期を前に子ども部屋を 整理する 家庭も多いが、これは学生限定の節目なので大人になると忘れてしまう。 そもそも 節目を気持ちよく迎えようという感覚がないので、「久々に窓を開けた」喜びに浸る春が掃除シーズンに最適なのだ。

同じ掃除とはいえ、所変われば掃除場所も異なる。家庭の暖房はパネル式のセントラルヒーティングが一般的だが( 2020年12月号参照 )、このパネルの溝にたまったほこりをひもや専用ブラシを使って取り除くのは、暖房を切った時期の大切な仕事。再びヒーターをつけたときにほこりがフワッと空気中に舞い上がり、鼻がムズムズするのを防ぐためだ。日本で夏前にエアコンの掃除をする人が多いのと同じである。

次の冬までにやればよい 作業 だが、早くて9月、時には夏でもヒーターをつける場合があるので、ヒーターを「やっと」切る春に掃除しておけば 安心 だ。溝を布やマスキングテープで保護しておけば、ほこりはたまらない。

昔は春から夏にかけてストーブや暖炉の煙突を掃除するのが習わしで、煙突掃除屋が忙しく家々を回っていた。現在煙突を使用している家は 少ない が、今でも時々煙突掃除屋に遭遇する。

イギリスでは清掃サービスが一般的

そしてもう1カ所、春に壁の染み取りをする家も多い。冬は外気と室内温度の差が激しく、窓に結露が発生する。拭いても拭いても追い付かずに冬場は除湿器を使うのも、「加湿器必須」の日本の冬とは正反対だ。それでも湿気が壁にたまり、カビが生えてしまう。

できたばかりのカビは すぐに 拭き取ればよいが、やがて壁の色が変わり染みになる。そこで春にはカビ取り液を使用して壁を拭いて乾燥させ、その後必要であれば染み部分のペンキ塗りをする。これは掃除の範囲を超えて修繕に近いが、春から夏はDIYの季節でもある。

一般家庭を対象にした清掃サービスの利用者が多いのも、イギリスの特徴 かもしれない 。女性の社会進出が早かったこと、共働きが一般的であること、古い家が多くプロの手を必要とすることなど、この分野が育った理由はさまざまだ。

しかし、清掃サービスに来てもらうことが「ぜいたく過ぎる」という概念はあまりない。子育て世代や老人世帯の利用が多いが、働く1人暮らし世帯にも人気だ。清掃サービスは時給制が基本。1回のみでもOKで、2時間程度から依頼できる。掃除に加えアイロンがけもやってくれるので、毎日スーツを着る人にとっては大変助かる。

賃貸物件の場合、きれいに暮らすのは店子(たなこ)の義務だが、古い家は掃除しづらく、硬水のイギリスでは水周りはかなり頑張らないと すぐに 石灰で白くなる。私は昔、大家さんが依頼した清掃サービスが半年に1度やって来る賃貸物件に住んでいたことがある。支払うのは店子の私だが、定期的に自分ではできない部分をしっかり掃除してくれるので、「全部自分で掃除しなくてはならない」重圧から解放された気持ちになった。

昨年4月初旬にわが家の近所で撮影。昨年は暖冬で、桜の開花も早かった。今年はどうなるか?

コロナ禍の現在、掃除の習慣も変わりつつある。在宅勤務が増え、以前よりまめに掃除する人が多くなった半面、オフィスや家庭に出向くことができない清掃サービスの多くが休職中だ。コロナの行方は私たちの生活すべてに 影響 を与えているが、それでも季節は巡り、春はやって来る。

この原稿が世に出る頃、無事感染者数が減り、80代友人の「早く清掃サービスに来てほしい」という小さな願いがかなえられているだろうか?窓だけでなく、世の中も気持ちも開放された春であることを祈りつつ、家にこもる日々を続けている。

イギリスのロンドンってどんなところ?

イギリスの首都ロンドンはイギリス南東部に位置し、さまざまな人種・文化・宗教的背景の人たちが住んでいる「多文化都市」。ビッグベン、大英博物館など観光スポットも満載。

写真:宮田華子

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年5月号に掲載した記事を再編集したものです。

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宮田華子(みやた はなこ) ライター/エッセイスト。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

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