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古代日本にもゾンビが?『バイオハザード』につながる系譜

怪異・ホラーからみる日本と世界

怪異を通して日本と世界を知る連載「怪異・ホラーからみる日本と世界」(全3回)。公務員として働く傍ら、入手困難さゆえに伝説となった幻の同人誌『日本現代怪異事典』を制作し、のちに商業版を刊行、現在も精力的に怪異・妖怪の収集を続ける朝里樹さんが、日本と海外のホラーを比較・考察します。

生ける屍たちの系譜

生ける屍(しかばね)、いわゆるゾンビは、今や世界中で文学作品や映画の題材となっている。

しかし現代におけるゾンビのイメージ、具体的に言えば個人の人格・感情を持たず、生命活動を停止した死体のまま動き回り、生きた人間の血肉を食らい、息の根を止めるには頭部を破壊する必要がある、といった要素は比較的近年に作り上げられたものだ。

ほかにも「走ることができず、緩慢(かんまん)に動く」といった要素も多くのゾンビに見られるが、近年では機敏に動くゾンビも多くなっている。

今回はそんな生ける屍の日本における歴史と、海外からの影響を考えてみたい。

古来、日本で死者はどう語られてきたか

日本において動く死体が描写されるのは、日本神話までさかのぼる。

奈良時代に記された『古事記』によると、国生み・神生みの神である伊邪那美命(いざなみのみこと)は、火の神である火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)を生んだことで陰部をやけどし、死亡する。

彼女の兄であり、夫である伊邪那岐命(いざなぎのみこと)は、妻恋しさに死者の国である黄泉国(よみのくに)へと赴くが、そこで全身が腐敗し、雷の神を体にまとった伊邪那美命と遭遇する。

醜い姿を見られた伊邪那美命は怒り、逃げる伊邪那岐命を追い掛けるが、黄泉国へつながる穴をふさがれ、永遠の離別が訪れる。この話は有名なので、知っている方も多いだろう。

このほかにも、平安時代の『日本霊異記』や『今昔物語集』に肉体を持つ死者が登場するなど、日本には古くから動く死体、もしくは生前の肉体を伴って現れる死者のイメージがあったことがわかる。

また鎌倉時代の『古事談』や『沙石集(しゃせきしゅう)』などには、死者がよみがえる話が載せられているが、いずれも生前の状態に戻る話であり、ゾンビのように別種の怪物になるわけではない。

一方『日本霊異記』には、奈良県の元興寺(がんごうじ)を舞台として、死んだ人間が鬼になって人を襲った話があるなど、死した人間が人ならざる化け物になるという話も古くから語られている

しかし現代の日本で表現されるゾンビのほとんどは、これら日本で古くから語られてきた死者たちの物語の流れの上にいない。その源流は海外にある。

世界のゾンビ黎明(れいめい)期

海外でも、古くから死者が蘇生し、生者を襲う伝承は存在している。

中国のキョンシー、欧州の吸血鬼などは有名だろう。吸血鬼についてはさらに細かく分けられるのだが、それについては次回以降に説明するとしよう。

基本的に欧州の吸血鬼は、死者が変化し、生きた人間の血や肉を食らうとされるものが多い。これらの伝承を基に文学作品に吸血鬼が登場するようになり、吸血鬼は独自の系譜を歩んでいくことになる。その中で作られたのがブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』(1897年)を題材とした映画、『魔人ドラキュラ』(1931年)であった。

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この映画や同時期の『フランケンシュタイン』(1931年)などにより、映画界ではホラーブームが起きていた。

そして、その流れから『魔人ドラキュラ』でドラキュラ役を演じたベラ・ルゴシを主役に据え、1932年に『恐怖城』が公開される。これが本格的に作成された初めてのゾンビ映画となった。

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その後も『私はゾンビと歩いた!』(1943年)、『ブードゥーマン』(1944年)といったゾンビ映画がいくつも作られているが、基本的にこれらのゾンビは呪術的な作用によってよみがえらされた死体として描写された

これは、本来ゾンビがカリブ海の島国ハイチで信仰されるブードゥー教に伝わるものであり、呪術者が死体を動かして労働力などにするものであったことに由来している。

現代ゾンビのイメージを確立した作品とは?

こうしたゾンビ像から現代のイメージへ変換するきっかけとなったのが、1968年に公開されたジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』だ。

この映画で初めて、現代でよく見られるゾンビ像が生まれた。緩慢な動作で移動し、生きた人間を食らい、かまれた人間は感染して生きた屍となる、そんな存在だ。

当作品において、この生きた屍は「ゾンビ」と呼ばれず、「リビングデッド」もしくは「グール」と呼ばれていた。そしてこのリビングデッドの設定に影響を与えたのは、アメリカのSF作家リチャード・マシスンの小説『地球最後の男』(1954年)に出てくる吸血鬼だった

この作品では、人間を死に追いやった後、吸血鬼としてよみがえらせる未知のウイルスが登場する。このウイルスによって吸血鬼となった人々は、十字架やニンニク、流水を恐れるなど吸血鬼としての特徴を持つ一方で、ほかの作品の吸血鬼に頻繁に見られる「人をかんで吸血鬼にする」という描写はない。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』においては、死者がよみがえる場面や一軒家が生ける屍たちに取り囲まれる描写など、『地球最後の男』に影響を受けた場面が見られるほか、「かまれると同じ存在になってしまう」という、吸血鬼や狼男に見られる古典的な怪物の描写が取り入れられている。

そして1978年に『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の続編である『ゾンビ(ドーン・オブ・ザ・デッド)』が公開され、この作品で初めてロメロ作品として「ゾンビ」の名が使われた。そしてこの作品以降、ロメロの作品に出てくるような生ける屍の名前として「ゾンビ」が定着する。

この『ゾンビ(ドーン・オブ・ザ・デッド)』が決定打となり、全世界のゾンビのイメージがロメロの作品に描写されたものとして定着。日本も例外ではなく、1996年に発売されたカプコンの大ヒットホラーゲーム『バイオハザード』においても、ロメロ映画のゾンビの設定を踏襲したゾンビが登場した。

このように、日本を含む世界のゾンビのイメージは、ある意味ロメロの手によって形づくられたと言っても過言ではない。しかしそれに至るまでにも、多くの生ける屍たちの系譜があったことも確かなのだ。

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朝里樹(あさざと いつき)1990年、北海道生まれ。2014年、法政大学文学部卒業。日本文学専攻。現在は公務員として働く傍ら、在野として怪異・妖怪の収集・研究を行う。またこれに関連して、『日本現代怪異事典』(笠間書院)ほか、怪異・妖怪に関係する書籍の執筆等をしている。