通訳者に学ぶ!自分を責め過ぎないための心の持ち方

映画俳優や監督などの通訳をする「芸能通訳者」の今井美穂子さん。この連載では、今井さんが通訳学習者の基礎訓練を活用した英語のトレーニング法を、完全オリジナルの英語エッセイ(日本語訳・英語音声付き)とともにお届けします。第3回のテーマは「批判との付き合い方」。今井さんが、自分を責め過ぎないための心の持ち方について伝えます。

芸能通訳者のトレーニングを大公開!

EJOの読者の皆さま、こんにちは。芸能通訳者の今井美穂子です。この連載では、私がTwitterで提唱している、英語の多面的なトレーニング方法をご紹介します。トレーニングの素材は、毎回私がオリジナルで制作、ご提供します。

毎回の構成は以下のようになります。

  • オリジナル英語エッセイのテキスト:今回のトピックは「批判との付き合い方」。大まかな日本語訳を付けました(逐語訳ではありません)。英語だけで内容が理解できる方は、日本語の部分はさっと読み飛ばしてもOKです。

  • 英語エッセイを読み上げた音声:私が読み上げています。

  • 今回の注目フレーズ!:英語エッセイの中から、なじみのない表現や、覚えておくと役に立つ表現をピックアップしました。

  • 英語のトレーニング法:エッセイと音声を使用した英語訓練法をいくつかご提案します。ご自分に必要なトレーニングを選んでみてください。

では、さっそく始めましょう!

頑張っている人たちのための批判との付き合い方

レディオヘッドの奇妙な歌詞

In this essay, I pick up where I left off last time, where I talked about what to do with self-criticism. Whenever I think about this topic, a particular song comes to mind in which the lyrics go: Please could you stop the noise / I'm trying to get some rest / From all the unborn chicken voices in my head

さて、前回の続きになりますが、第3回は自己批判との付き合い方についてお話しします。このテーマについて考えると決まって頭に浮かぶのが、とある楽曲の歌詞です:Please could you stop the noise / I'm trying to get some rest / From all the unborn chicken voices in my head

背後からやってくるアレ・・・

This seminal 1997 Radiohead song “Paranoid Android” (link below) is an allusion to the fictional android Marvin, a character in Douglas Adam’s “The Hitchhiker’s Guide to the Galaxy” series that suffers depression because it is hardly given the chance to use the enormous intellect endowed it. It probably has nothing to do with self-criticism, but “unborn chicken voices in my head” struck a chord with me because it so articulately encapsulates my state at times, and maybe yours too. I’m speaking of the muffled voices of blame and shame that creep up on us unannounced. How do we tame them?

歌詞はレディオヘッド*1による名曲「パラノイド・アンドロイド」(1997)から取ったもので、ダグラス・アダムス*2による『銀河ヒッチハイク・ガイド』というSFシリーズに登場するロボットを暗喩(あんゆ)するものです。基となるシリーズは、崇高な知性を授けられながらも、それをろくに使わせてもらえないため鬱(うつ)状態にあるロボットを描きます。従ってこの楽曲も自己批判とは何ら関係ないのでしょうが、"unborn chicken voices in my head"のフレーズが私にとってはあまりにも実感の伴うものでした。予告なしに忍び寄る非難の小声をどう飼い慣らしていけば良いのでしょうか?

※“Paranoid Android”はこちらからお聴きいただけます。

有名人の通訳が危険なワケ

Interpreting for high-profile individuals can be a dangerous task because often recordings of what you have done will be uploaded onto the internet. Whatever misinterpretation, slip of the tongue, level of ignorance you give away will be out there for all to see in perpetuity. Of course, it's not as if people are always holding up a microscope to the interpreter in such cases. Yet, a tiny drop of criticism can still be quite lethal to your self-esteem.

著名人の通訳は危険がつきものです。通訳時の映像がネットにアップされることが多いからです。つまり誤訳、失言、底の浅さもすべて未来永劫さらされることになります。もちろん、このような動画を見る人たちは通訳者の一挙手一投足を見るわけではないのでしょうが、ちょっとした批判の殺傷力たるや、通訳者の自尊心がズタボロになります。

批判につぶされないための処方箋

When those voices come creeping into your psyche, I propose the following prescription for a healthier internal monologue – an arsenal of tools for the self-flagellating interpreter, or anyone in any other occupation for that matter.

心の中の批判の小声が精神に忍び寄ってくるとき、以下のようなセルフトークを処方箋として提案します。自虐的になりがちな通訳者 ――いや、通訳者だけでなく、どんな職業に従事している方にも役に立つツールボックスとお考えいただけると良いでしょう。

No. 1: Don't read the comments!
Don't scroll down to read the comments! If you must read them, remember this – people who make negative comments on the internet reveal more about themselves than the object they are bad-mouthing. They are but tiny fish.

その1:コメントを読んじゃダメ!
画面をスクロールしてコメントを読むなどしないほうが良いです!ネットでネガティブなコメントを投稿する人たちは、その悪口の対象よりも自分自身の底意地が悪いことを公言しているようなものです。

No. 2: Develop a calibrated distance from criticism.
If the criticism comes from anonymous people online, first gauge whether it is justified, and then give it a few hours to float around in your head, but no longer than that. Headspace is an awful thing to waste. If the criticism comes from a colleague or client, gauge if it is legitimate and if so, take it to heart. Colleagues are probably doing it out of sincerity, and criticism from a client is usually meant to be constructive, for they wouldn’t even offer criticism if the plan was to cut you off. So, after you have finished beating yourself over the head about it, change your state and take some time to consider remedial measures.

その2:批判とは適度な距離を測ること。
ネット上の匿名の批判に関しては、まずその正当性を吟味し、気をもむのも数時間程度までとしましょう。貴重な脳内エネルギーを無駄にしないことです。批判が同僚やクライアントからの場合は、それが正当か否かを判断し、そうであるなら真摯(しんし)に受け止めましょう。同僚は親切心からすることでしょうし、クライアントは今後のことを考えてのことである可能性が大きいです。今後雇う気がないならそもそも批判はしませんから、建設的な意見と捉えるのがいいでしょう。ひとしきり落ち込んだ後は、さっと気分を入れ替えて改善策を練りましょう。

No. 3: You are still growing, and you are bound to grow further.
So you mistranslated that word. Or you made a fool out of yourself on stage. It's OK, you are still growing. Have you made progress since yesterday? Maybe yes, maybe no. Now, pull the lens back a bit further. Have you made progress from a year ago? How about five years ago? Ten years ago? The answer is most probably yes. This means that you are bound to be in a better place five years, ten years hence. Yes, there are ups and downs, but you are still on your continued path of growth. Does that thought help you relax, if only a little?

その3:成長はまだ終わっていないのです。
誤訳をした、壇上で大恥かいたなど、いろいろあるでしょうが、あれもこれも成長への過程くらいに考えた方が、気が楽です。考えてみてください。昨日と比べるとあなたは成長を遂げましたか? では、ぐっと視点を引いて、1年前と比較するとどうですか? 5年前、10年前と比較すると、成長していないということはまずないでしょう。つまり5年先、10年先も確実に成長を遂げているはずです。そう考えると少し気が楽になりませんか?

No. 4: Don't refute the compliments.
If you are Japanese, you are bound to present yourself as unworthy of any praise you are offered. My advice is that they are gifts and so it is best to receive them with thanks. List them up if need be. Absorbing them will help you become more self-sufficient, and a self-sufficient person can pay these gifts forward.

その4:褒め言葉はありがたく頂戴しましょう。
日本人の場合、褒められると「身に余る」などと謙遜することでしょう。しかし褒め言葉はお相手から頂戴するギフトなわけですから、ありがたく頂戴した方が良いのです。必要あらば書き留めましょう。褒め言葉はどんどん吸収していくと、そのうち自分の中で「褒め」の自家発電ができるようになります。そうすると周りに対しても余裕をもって接することができるようになり、自ら与えられるようにもなります。

I've turned my essay into something of a self-help guide, but we all need some pep talk at times, don't we? In my next column, I will talk about the training I went through to become an interpreter and how it proved useful after turning pro. Stay tuned!

さて、今回のエッセイはいささか自己啓発的なものになってしまいましたが、誰しも励ましの言葉が必要な時がありますよね。次回は、私が通訳者になるために取り組んだトレーニングとその効果についてお話します。ご期待ください! 

今回の注目フレーズ!

  • seminal  影響力の大きい
  • an allusion to ~ 〜へのほのめかし
  • endow  ~を授ける
  • strike a chord with ~ 〜の共感を呼ぶ
  • encapsulate ~をカプセルに入れる。 ※転じて、「捉える、つかむ」の意味
  • slip of the tongue 失言
  • give away ~を露呈させる
  • in perpetuity 未来永劫
  • self-esteem 自尊心
  • arsenal 武器庫
  • self-flagellating 自虐的な
  • for that matter ついでに言えば
  • bad-mouth (人)の悪口を言う、~を中傷する
  • calibrated 測定された
  • an awful thing to waste 浪費するのがもったいない
  • taketo heart ~を真摯に受け止める
  • remedial measures 改善
  • hence 今後、今から先
  • something of a ~ ちょっとした〜、〜のようなもの

英語のトレーニング法

上記のエッセイと音声を使用した英語訓練法をご提案します。ご自分にとっての英語学習上の課題に応じて、必要なトレーニングを選んでみてください。

ディクテーション

難易度:★

対象:リスニングが苦手と感じる英語学習者。

手順:1センテンス単位で音声を止め、テキストを見ずに書き取りをします。一通り書き終えたら、原文のテキストと照らし合わせ、間違えたところや抜けたところを精査します。

効果:音声をひとつのまとまった構造として認識する訓練になります。前置詞、冠詞、時制、動詞の活用、可算・不可算名詞等、後述する「リプロダクション」や「シャドーイング」では見落としかねない細かい文法を意識できるようになり、文法力、ひいてはリスニング力、スピーキング力のアップにつながります。

リプロダクション

難易度:★★

対象:リスニングはある程度できるが、正確に話すのが難しいと感じる英語学習者。

手順:1〜3センテンス単位で音声を止め、テキストを見ずにリピートします。慣れないうちは1センテンス単位実施し、一言一句正確に再現します。慣れてきたら2、3センテンスと分量を増やしてもよいでしょう。文法に自信のある学習者の方は、多少表現を変えても、内容を正確に再現できていれば構いません。文型認識、意味理解が重要です。

効果:文の形や理解した内容を瞬時に口で再構築することで、正確なスピーキング力が身に付きます。

シャドーイング

難易度:★★★

対象:リスニング力、スピーキング力、語彙力全般の底上げを図り、英語発話のリズム、発音、スピードを改善したい英語学習者。聞きながら話すので、負荷の大きい訓練法です。ある程度基礎力を付けてから取り組むことをお勧めします。

手順:音声にかぶせるようにして、ほぼ同時にまねをします。慣れないうちはテキストを見ながらでもいいでしょう。話者の声の高低やリエゾン、リズムを意識しながら、はっきりと声を出してシャドーイングしましょう。ヘッドフォン着用を推奨します。時間に余裕があればご自身のシャドーイングを収録し、書き起こし、原文テキストと照らし合わせると、語彙や文法上のウィークポイントをあぶり出すことができます。

効果:大量にまねることで、リスニング力、スピーキング力、語彙力アップにつながり、自然な発話が身に付きます。

パラフレージング

難易度:★★★★

対象:表現の幅を広げ、文章構築力を身に付けたい英語学習者。相当な文法力と語彙力が要される訓練法で、上級者にお勧めです。

手順:言い換えの練習。1〜3センテンス単位で音声を止め、原文と違う表現や文型を用いて内容を再現します。

【例】

元の文:A tiny drop of criticism can still be quite lethal to your self-esteem.

パラフレーズした文:The slightest piece of criticism can still be enough to kill your confidence.

効果:表現の幅が広がることで、言葉の詰まりや言いよどみが減っていきます。言いたいことをずばり伝えられるようになります。パラフレージングの訓練は、日々多くの英語表現に触れ、インプットを十分に蓄積することが前提となります。

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございました。第3回の「芸能通訳の現場から!」、いかがでしたでしょうか?今回は頑張るための批判との付き合い方について書かせていただきました。次回は私がどのような通訳訓練を経てプロになったか、勉強がどのように役に立ったかについて執筆する予定です。それでは次回をお楽しみに!

*1:イギリスのロックバンド

*2:イギリスの脚本家、SF作家

今井美穂子

今井 美穂子(いまい みほこ)日英通訳者。映画配給に10年間携わった後、2009年に通訳者デビュー。現在はエンターテイメント業界を中心に活動する傍ら、通訳者養成学校で後進の指導に当たっている。 芸能通訳者としては、来日イベントや国際映画祭での記者会見、舞台あいさつ、レッドカーペット、取材での通訳を10年以上にわたり担当。 過去に通訳した著名人には(以下敬称略)マーティン・スコセッシ、クリストファー・ノーラン、キアヌ・リーブス、岩井俊二、塚本晋也、黒沢清、仲代達矢、渡辺謙がいる。
Twitterアカウント:https://twitter.com/mihoko_imai