「英語を学び、英語で学ぶ」学習情報誌ENGLISH JOURNAL(EJ)の「Lecture」。シンガーソングライターで数々のJ-POPの歌詞英訳も手掛ける、ネルソン・バビンコイさんによるレクチャーの最終回となる今回は、「直訳を『歌える訳』にするコツ」について教えていただきます。
ネルソン・バビンコイさんってどんな人?
ネルソン・バビンコイさんは、 米津玄師 、 SEKAI NO OWARI 、 THE BAWDIES 、 ゲスの極み乙女。 など日本のメジャーアーティストの英語詞や英訳詞に携わる、アメリカ出身の作詞・訳詞家として幅広く活動されています。
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- 作者: ネルソン・バビンコイ
- 発売日: 2020/08/11
- メディア: Kindle版
Lecture:ココロを伝えるJ-POPの「文化通訳」最終回
レクチャー最終回では、日本のバンド「 ゲスの極み乙女。 」の最新アルバム『ストリーミング、CD、レコード』に収録されている「人生の針」という曲を題材に、ネルソンさんがどのように歌詞翻訳を進めていったのか 具体的に 教えてくれます。ぜひ音声も聞きながら、いっしょに学んでいきましょう!
1. 「人生の針」ってどんな針?
The needle of life. What kind of needle? A sewing needle? Are we making a quilt or something? After reading through the lyrics, it was clear Enon is referring to the needle on a record player.
人生の針。いったいどんな針なんだろう?縫い針だろうか?キルトか何かを作るのか?歌詞を最後まで読むと、絵音さんが「レコードプレーヤーの針」を意図しているのだと、はっきりわかりました。
2. 「歌える訳」にするために
直訳と日本語歌詞
The only way I know how to use the needle of life is the wrong way調整した訳I thought we could understand each other , but you won’t move one step
(私、間違うことでしか人生の針を/正しくは使えないの/わかりあえるはずなのに/あなたは一歩も引かない)
I wish I knew the way to play the record of my lifeパッと見て、直訳と調整した訳とを比べると、大きく違うのがおわかりいただけるでしょうか。ネルソンさんは、英語として 自然な表現、自然な響きにするだけでなく、「歌える訳」にする ことを心掛けています。Right in time with the songs everybody loves
I thought this time we’d find a way to make it work
But babe you won’t move an inch
また、 “you won’t move an inch(1インチ分も動かない)” という言葉遊びによって、この曲の核となる「レコードをかける」というコンセプトをより明確 にしました。
3. メロディーに合わせて、リズムと韻を強調
直訳と日本語歌詞
The incision was unexpectedly largeI’m not a fan of change I didn’t choose to be idealIt’s like reaching to scratch an itch I was supposed to bury them selfishlyI won’t forget this business Don’t forget this line (切り込みが 予想 外に大きくなった/変化を好んだわけじゃない/理想を選んだわけじゃない/痒いとこに手が伸びる様に/身勝手に忍ぶはずだった/忘れないよ/この業は/忘れないで/この行も)調整した訳
The little cuts I made were bigger than I thought Now that I can look backHey, you know I tried to adapt Babe , you know I move with the packBut now I got an itch I’m finding hard to scratchGod damn , I think I’m going crazyMaybe that’s part of the plan Forget not the warmth of my hand英語での流れや韻を踏む訳文のために、ちょっと大胆に変えたところもありますが、全体的にはとてもよく伝わる歌詞になったとネルソンさんは話しています。コーラスではメロディー構造の維持を重視したのに対して、 ヴァースでは、リズムと韻を確実に強調するよう意識 しました。
また、英語の歌詞を日本語のメロディーに合わせる際には、メロディーの余ったスペースを埋めるのに、 「hey(ねえ)」とか「 babe (あなた)」のような1音節の単語を使う タイミングを知っておくと、スキルとして役立つそうです。
「人生の針」の英語歌詞をYouTubeで見てみよう!
ネルソンさんの英語歌詞を、ミュージックビデオでもぜひ見てみてください。日本語歌詞と英語歌詞が両方とも掲載されていて、とてもわかりやすいです。MVを見ながら練習して、日本語だけでなく英語でも歌ってみてはいかがでしょう?
音楽・歌詞の翻訳にまつわる語句を要チェック!
「直訳を『歌える訳』にするコツ」に関する英語レクチャーはいかがでしたか?全音声の中で登場する、音楽や歌詞の翻訳にまつわる表現を下にまとめました。
- lyrics 歌詞 ★この意味では通例、複数形。
- poetic 詩的な、空想的な
- singable 歌いやすい、歌唱に適した
- interpretation 解釈、理解
- chorus コーラス ★ポピュラー音楽における主要部。「ヴァース」とはっきり対比されて、通例、よりダイナミックになる。
- catchy 楽しくて覚えやすい、魅力がある
- wordplay 言葉遊び
- verse ヴァース ★楽曲の出だしから曲調の変わるところまでを指す。日本でいう「Aメロ」に近い。
- repetitive 繰り返される、反復的な
- rhyming 押韻の、韻を踏んでいる
- line (詩の)1行
- sing-rap ラップを歌うような、ラップのような
- melodic 旋律の、メロディーの
- single- syllable 1音節の
- pre- chorus プレコーラス、ブリッジ ★ヴァースからコーラスへ移る中間部分を指す。日本で言う「Bメロ」に近い。
- transition 移り変わり、(音楽の)一時的転調
- melancholy 物悲しさ、哀愁
皆さんもぜひ、これらの語句を使って「音楽」や「歌詞の翻訳」について人と話したり、説明したりできるようになりましょう!
レクチャーの全音声・スクリプトと和訳はENGLISH JOURNAL 12月号で!
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ENGLISH JOURNAL の連載「Lecture」ではこれまで、ロッシェル・カップさん(経営コンサルタント)に「英語での働き方」、ギャヴィン・ブレアさん(ジャーナリスト)に「Brexit問題」、ソンヤ・デールさんに「ジェンダー/LGBT」、勝又泰洋さんに「神話」、フー・ユィーングさんに「身近な医学」についてレクチャーしていただきました。ぜひこちらも併せてお楽しみください!
トップ画像の写真:山本高裕、構成・文:須藤瑠美(ENGLISH JOURNAL編集部)
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