「青い目の日本茶伝道師」が日本と日本語に惚れたワケ!美しい「悪魔の言葉」との格闘

スウェーデン人ブレケル・オスカルの 僕と日本茶しませんか?

連載「スウェーデン人ブレケル・オスカルの 僕と日本茶しませんか?」では、日本茶インストラクターであるブレケルさんが、自身のことや語学、日本茶について語ります。第2回は、「日本に興味を持ったきっかけ」「日本語の習得法」「日本茶インストラクターの試験に合格するまで」です。

わびさびの世界観や日本語の美しさに引かれた

ENGLISH JOURNAL ONLINEの読者の皆さま、改めまして、日本茶インストラクターのブレケル・オスカルです。

前回は、私の母国であるスウェーデンと日本の意外な共通点や英語の勉強法などについて書かせていただきました。今回の記事では、日本語をどう勉強したのか、言語としての魅力と難しいところ、そして日本茶インストラクターになるまで歩んできた道をご紹介します。ぜひお読みください。

そもそもスウェーデンで生まれ育った私が遠く離れた日本を意識するようになったのは、高校時代に世界史の授業で明治時代の近代化が取り上げられたことがきっかけでした。その後、図書館で日本についての本を借り、ドキュメンタリーや映画なども見始めました。文化的にも社会的にも多くの面で欧米と異なる日本を、まるで別世界のようだと感じ、ますます興味が湧いてきたのです。

最も引かれたのは、わびさびという世界観や日本人の謙虚さなどでした。そして言うのが少し恥ずかしいのですが、言葉自体も非常に美しく聞こえました。日本語を本格的に勉強し始めたのはその数年後のことですが、自分の口からあのような音を発声できたらすごいなと、最初から憧れていました。ある意味で日本語に惚(ほ)れたとまで言えるかもしれません。

しかし最初は明るい気持ちで始まったその恋愛は、やがて蜜月が終わり、複雑な現実と向き合わなければならない時期が訪れました。日本語の勉強は、想像をはるかに超えるほど難しかったのです。それでも、志していた日本茶の専門家になるために、どうしても必要なスキルでした。

スウェーデンの大学で行われている「直接教授法」

考えてみると、日本語を学ぼうとする外国人に苦戦しない人はいないかもしれません。約500年前に来日し、コミュニケーショントラブルに苦しんでいた宣教師のフランシスコ・ザビエルも、日本語のことを「悪魔の言葉」と呼んだらしいです。

辛辣(しんらつ)な言い方はさておき、そう考えた理由はある程度理解できます。非常に独特な文法に加え、漢字と仮名といった非常に複雑な文字のシステムも使われています。これを聞くだけで諦めてしまう人が多いでしょう。やはり相当の辛抱と粘り強さ、そして強いモチベーションがない限りはなかなか上達できません。

ただ努力だけではいずれ頭打ちになりますので、効果的な学習方法も必要になります。そこで、私が通っていた南スウェーデンにあるルンド大学日本語学科の学習方法を紹介したいと思います。

母校では、英語でdirect methodという学習方法(日本語では「直接教授法」)で日本語教育が行われています。このメソッドは、学生の母語を使用せずに、勉強の対象となる言語で授業を行うものです。スウェーデン語で日本語の文法を説明してもらえる授業も少しあったのですが、基本的には教室でのスウェーデン語は禁止されていました。試験のときももちろん日本語で答えなくてはいけません。

この方法が導入されたときには、ゼロから日本語を学ぼうとしている学生が日本語だけの授業で上達できるわけがない、と強く批判されました。ただ実際に受けてみた元学生としては、非常に効果的であることは十分に証明されているように思います。

確かに、最初はものすごく大変でした。授業についていくのに脳細胞をフル稼働で働かせ、終わったらまるで頭から煙が出ているかのような感覚になりました。しかし、進めば進むほど自然に日本語が身に付き、気付いたら積極的に話したくなっていたのです。

先生たちがビジョンとして持っていた、学習者が目指すべき姿は、試験で高い点数が取れる学生ではなく、日本で社会人として生活できるような大人でした。厳しい面もありますが、素晴らしい理想だと思います。翻訳ドリルなどをベースとした言語教育とはまったく違うわけです。

コミュニケーションが重要視されたこの教育でしたが、もちろん漢字の勉強にもそれなりに時間をかけました。音楽を数時間聞きながらひたすら漢字を書き続ける日も週に何度かありました。

その後、交換留学に行き、1年間、岐阜大学で日本語・日本文化研修コースというプログラムを受ける機会を与えられました。社説を読んだり、討論会に出たり、そして日本人の学生と一緒に授業を受ける機会も与えられたりしてかなりスパルタでした。プレッシャーは大きかったのですが、あの1年があったおかげで日本語力を随分と鍛えられました。一例を挙げると、新聞を読めるようになったときの達成感は忘れられません。

もちろん、誰もがこのように大学で外国語を勉強できるわけではありません。しかし、どのレベルを目指している人であっても、この学習方法には上達へのヒントを見つけられるでしょう。

机上の勉強だけでなく現場に触れて目指した日本茶専門家

この日本語の勉強がなかったらおそらく日本茶インストラクターの資格を取得することは無理だったと思います。

そもそも日本茶インストラクターという資格は、合格率は3割程度と、日本人にとってもかなり難しいのです。教科書は英語版がなく、試験も日本語でしか受けられません。しかも、日本でしか受けられませんので、外国在住だと旅費も上乗せになります。このようにハードルが高いため、認定者は4600人(2020年4月現在)くらいいるのに、海外生まれのインストラクターは10人ほどだけです。

私は2012年の秋に初めて挑戦しました。留学時代も含め、3年間だけ日本語を勉強してからの試みでした。

一生懸命アルバイトで貯金したお金で航空券を購入し、試験を受けるために来日。試験の当日は緊張し過ぎて激烈な頭痛に襲われ、試験は苦痛の数時間となりました。振り仮名なしの専門用語と歴史に関する読みづらい文章が多く、目から血が出るほど読み返しても理解するのにずいぶんと苦労したのを覚えています。

落ちたとは思っていましたが、不合格の通知が宿泊先に届いたのは、スウェーデンに帰る前の日でした。最初は厳しい現実と冷静に向き合うことができずに涙が出てしまいました。

しかし翌日に帰りの飛行機の中でいろいろと考え直しました。日本語の勉強と同様に、単に試験に合格するのではなく、本当の意味での専門家になるのが目的であれば、スウェーデンから日本に移住し、現場の知識も含めて習得しなければなりません。

その後、模索を重ねる中で日本企業に就職が決まり、私はサラリーマンとなりました。仕事の傍ら茶園を訪ね、2013年の秋に再び日本茶インストラクターの試験に挑戦して、ようやく合格できました。

よほど日本茶のことが好きでない限りは、このように人生をかけで勉強することはないでしょう。やはり私は日本茶が大好きでどうしても諦められませんでした。日本茶のどこがそんなによいのかについては、次回の記事でご紹介します。Stay tuned ...

ブレケルさんが日本茶を語る本

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ブレケル・オスカル

ブレケル・オスカル(Oscar Brekell)スウェーデン初の日本茶インストラクターとして、言語能力と専門知識を生かし国内外でセミナーなどを開催。書籍出版と新しい日本茶ブランド立ち上げのほか、テレビやラジオなどにも出演。日本のメディアでは、「青い目の日本茶伝道師」として親しまれている。
Instagram : https://www.instagram.com/brekell/
写真:Klara Maiko