連載「スウェーデン人ブレケル・オスカルの 僕と日本茶しませんか?」では、日本茶インストラクターであるブレケルさんが、自身のことや語学、日本茶などの文化について語ります。第6回のテーマは、「使う言語によって変わる人格と、語学の醍醐味(だいごみ)」です。
「人格が3つあるみたいだ」と思われた理由
「オスカルさんは、まるで人格が3つあるかのような人ですね」
こう言われたのは、2016年に出張でオランダにいたときのことです。日本茶啓蒙活動の一環として、現地で2日間にわたって日本茶講座を行うために、ほかの専門家や研究者と一緒に日本から訪れていました。当然ながら現地では日本語が通じないため、すべて英語で 実施 しました。先ほどのコメントは、英語で話す私を初めて見た人が発したものです。
もちろん、実際に私の中に複数の人格が存在するわけではなく、相手もそのような意味合いで言ったわけではありません。ただ、 話す言語によっては雰囲気が驚くほど変わり、観察している他人からすると普段とまるで違う人に見えた のでしょう。
その方は、私がまだスウェーデンにいた頃から仕事で関わってきた日本人なので、「英語オスカル」に加え、10年以上前から「スウェーデン語オスカル」と「日本語オスカル」もよくご存じです。付き合いが長いというのもあり、そのコメントは私にとっていろいろと考える きっかけ になりました。
外国語で話すと人は本当に変わるのでしょうか。そして変わるとしたら、どこまで変わるのでしょうか。母語と外国語を使うときとで完全に切り替わるのか、それとも 影響 し合うのか、いろいろと言語 に関して 不思議に思うようになりました。言語とはいったい、どのようなものなのでしょうか。
「言語」は単なる言葉の集まりではない
外国語の勉強はだいたい、フレーズあるいは日常生活でよく使う言葉を覚えることから始まります。「今は何時ですか」や「これはなんですか」などの言い方をまず知り、語彙と文法も少しずつ覚えていきます。
しかし真面目に勉強している人ほど、 早い段階で直訳に限界があることに気付く はずです。
例えば、日本語で「青信号」と言うのに対して、英語ではgreen light、つまり日本語に訳すと「緑」色という言葉が使われます。色の感覚だけではなく、 前回の記事 で紹介した「お疲れさまです」や「いただきます」なども、日本語学習者を必ず混乱させます。 言語は単なる言葉の集合体ではなく、文化も歴史も練り込まれているものだ ということは、このような表現から垣間見えます。
この点は私に言わせると、外国語を勉強する最も面白いところです。言い換えれば、これこそが外国語を勉強する醍醐味です。なぜかというと、 生まれ育った環境と違う文化や考え方などにアクセスできるようになる からです。学べば学ぶほど視野が広くなり、自分の世界観も変わっていきます。
電話中にお辞儀
面白いことに、言語によって違うのは言葉の意味合いだけではありません。しぐさや話し方なども変わります。
例えば、海外にいる際に日本人から電話がかかってきたときには、相手が目の前にいないのに、話しながらお辞儀することがあります。これは絶対に、日本語で話すときにしか起きない現象です。
電話中のお辞儀は日本にいたらよく見掛けるのですが、(スウェーデンに)帰省中に街中で同じことをするとかなり目立ってしまいます。日本文化に慣れていない周りの人たちからすると不自然に見えるでしょう。ただやっている本人としては、特別なことをわざと演出しようとしているのではなく、ただ話しているだけです。
日本語で話すと日本人っぽくなるということでしょうか。これ に関して は自分で 判断 しにくいのですが、少なくとも変わるというのは強く実感できます。
日本語で話すときには出てこないジェスチャー、air quotes
日本語で話すときに加わるしぐさもあれば、逆になくなるものもあります。
例えば私の場合、 皮肉/sarcasmを込めて話すときのジェスチャーであるair quotes(両手を上げて、人さし指と中指を曲げ、エアーでダブルクォーテーションのしぐさをすること) を使うのは、基本的に英語とスウェーデン語で話すときだけです。
ほかの身ぶりや手ぶりなども変わります。細かいことを言うと、スウェーデン語と英語でもそれぞれ違います。 英語で話すときの方が、ジェスチャーが多いですし、自己 主張 も強くなるような気がします。
このように、 外国語で話すことは、言葉の切り替えにとどまらず、性格にまで 影響 を与えます 。これは非常に興味深いことです。冒頭で紹介した発言は、おそらくそうした点が気に掛かって出てきたものでしょう。
新しい世界へと導いてくれる外国語
外国語を学ぶ利点はなんでしょうか。
仕事に必要だから勉強する人もいれば、海外旅行を楽しみたいからという人もいるでしょう。どれもよい理由だと思います。私も、日本語と英語が話せなかったら、今の仕事は成り立ちません。そして外国語が話せるおかげで、多くの場所を訪ねることができますし、多くの方と楽しく会話してきました。
ただ、実用面以外にも、「外国語を勉強して本当によかった!」と毎日思えるのには、もっと深い理由があります。それは、 異文化を外からのぞき込むのではなく、フィルターなしに、身をもって中から探検できる こと。私にとっては、この点こそが外国語を学ぶ醍醐味です。
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ブレケル・オスカル(Oscar Brekell) スウェーデン初の日本茶インストラクターとして、言語能力と専門知識を生かし国内外でセミナーなどを開催。書籍出版と新しい日本茶ブランド立ち上げのほか、テレビやラジオなどにも出演。日本のメディアでは、「青い目の日本茶伝道師」として親しまれている。
Instagram : https://www.instagram.com/brekell/
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